2 / 27
第二話 前途多難!推しも推せないこんな世の中じゃ!
しおりを挟む「…………悪いけど、信じられないよ」
『マジカル☆ステラ』の中では、常識人枠でツッコミ担当の『マジカル・シリウス』こと『星波あおい』ちゃんが、言いにくそうにしながらも、眉をしかめて呟いた。
その腕の中で、シリウスの変身妖精である水色の犬型妖精『シリルン』が、主と同じように険しくも気遣わしげな顔をして、私――『マジカル・ポラリス』こと『星見台あかり』を見ている。
「この世界が、前世のあかりが観ていたアニメの世界だなんて」
この反応は、想定内だ。
そもそも星の力を得た少女戦士達が人知れず戦っていること事態が奇想天外なのは間違いないけれど、その上まさか中心的な存在であるメンバーに前世の記憶があって、その世界では目の前の現実がアニメになっていたなんて、いきなり信じろと言われた方が無理だろう。
特に、あおいちゃんは現実主義だから、尚更だ。
「それに、あたしはあかりとメテオリトがくっつくなんて、絶対嫌だからね!」
その上、彼女は、あかりちゃんのことが大好きな、世話焼き幼馴染属性。
そりゃ、ちょっと天然で単純な幼馴染が、よりにもよって敵キャラに惚れたなんて言い始めたら、全力で止めるに決まってる。
というわけで、そんなあおいちゃんを信じさせ、納得させるのは、どう考えても至難の業だった。
「えー、なんで?メテオリトの方も、満更でもなさそーな感じだったじゃん」
にやにやと笑っている『マジカル・ベガ』こと『星野ことね』ちゃんは、オシャレ大好き恋バナ大好きな、イマドキの子だ。
「いや、ありえないでしょ!敵と恋愛とか!」
「いいじゃんいいじゃん、ロミオとジュリエットみたいで!」
「そんなロマンチックな話じゃないよ……」
目をキラキラと輝かせながらのたまうことねちゃんに、あおいちゃんは盛大な溜息を吐く。
「だって、あいつら、この町を襲ってきているんだよ?そんな奴と恋愛なんかできるの?」
「……でも、メテオくんは、本当は良い子なんだよ……?」
黙っていられなくて、思わず声を上げてしまった。
あおいちゃんの話はもっともだ。普通の人が、普通に持つ感情だと思う。
アニメでのあかりもそうだった。この町がコメット王国の奴らに荒らされることに、正しく怒っていた。コメット王国の人にひどいことをされた町の人を守って、助けて、戦い続けていた。
だけど、それだけじゃ、メテオくんは救えない。
「良い子が、どうしてこの町を襲うの?」
あおいちゃんは、じっと私を睨む。
「あかり。ちょっとアイツがカッコいいからって、騙されちゃダメだよ。酷い目に遭うのはこの町の人たちなんだよ?」
「でも、このままじゃ、メテオくんが消えちゃうかもしれないし……」
「そんなの、アニメの中の話でしょ?」
「まあまあ」
どうどう、とことねちゃんが私とあおいちゃんの間に割って入り、軽く手を上下に振る。
ベガの黄色い鳥型変身妖精の『ベガルン』も、主の動きを真似していた。
「この町の人達も大事だけど、メテオリトが消えちゃうかもしれないっていうのも後味悪いじゃん?いつかは仲良く出来ればいいよね」
こういう話のまとめ方は、この年齢にしては流石だ。
天然で情にもろいあかりちゃんと、しっかり者で常識的なあおいちゃんの間を上手く持っている。
ここら辺のバランス感覚も、放送当時、ファンの中でちゃんと考察されていたことを思い出した。
「そう、そうなの。今は、町の人達を守るために戦わなきゃいけないけど、いつかは、ちゃんと話せればいいなって思って……。向こうにも事情があるわけだし……」
「……どんな事情があっても、この町を襲っていることには変わりないんだけどね」
あおいちゃんは、ゆっくりと立ち上がる。
ちなみに、ここは『星見台あかり』である私の部屋だ。『マジカル☆ステラ』の中でも、何度も三人の作戦会議場兼憩いの場として出てきていた。
前世の記憶が戻って改めて見てみると、なんだか感慨深い。
そんな平和の象徴みたいな場所だけど、今日の雰囲気は、とても平和とは言えなくなってしまった。……、私のせいだけど。
「お茶、ご馳走様。あたし、今日はもう帰るね」
「あ……、うん。また学校でね」
「うん」
振り向かずに片手だけ振って、あおいちゃんは出ていく。
……、せめて、非現実的なことにしても、もうちょっと私が上手く伝えられていたら、もっとあおいちゃんも納得出来ていたのかな……。結局、ことねちゃんに頼っちゃったし……。
前世では、社会人になってから会社と家の往復で人生終わったから、コミュニケーションって、なんだか難しい……。
「あかりん、そんなに落ち込まないで。ウチはメテオリトとのこと、応援するよ?だってその方が燃えるじゃん!」
「うん……、ありがとう」
「っていうかー、ベガルン達はどう思ってんの?」
黄色い鳥と桃色の熊が、揃って顔を見合わせた。
「シリルンは、多分あおいと同じ考えポラ」
「ベガルンは、なんとも言えないベガね。まだわかんないことだらけベガ」
「ポラルンも、わからないポラ。だけど……」
ポラルン――、ポラリスの桃色熊型変身妖精は、ちょこちょこと私の膝の上に立って、じっと見詰めてくる。
……、余談だけど、シリルンの語尾は「シリ」ではなく、犬らしく「ワフ」である。どうやら、日曜朝の女児向け番組で、セリフの語尾にシリシリ付けるのは、さすがに情操教育には良くないと判断されたとかなんとか。
「メテオリトと出会ってから、あかりの心がぽかぽかしているポラ。こうしていてもわかるくらい、ずーっとあったかいポラ!」
ポラルンは、自分の胸に手を当てながら、心底嬉しそうに微笑んでくれた。
「ステラの戦士達は、愛で強くなるポラ!だから、あかりは大丈夫ポラ!きっと、この世界も、メテオリトも、助ける方法が見つかるポラ!」
……、ウッ、優しい……!その言葉は汚れて疲れ切った大人の心には、真っ直ぐで優し過ぎて、むしろ抉られる……!
ポラルンのこの優しさに、放送当時のリアルタイムでも何度助けられたことか……!
そういえば、仕事でクソみたいに扱き使われて心身共に限界だった時も、ポラルンがあかりちゃんを慰めてる場面を見て泣いたことがあったよなぁ……。
「ありがとね……、ポラルン……!」
「また泣いてるポラ?あかりは泣き虫ポラ!」
はぁぁぁまーたそうやって優しく微笑むっ!
ことねちゃんもベガルンも、馬鹿にするでもなく優しく笑ってくれる。
もちろん、あかりちゃんである私を心配してくれたシリルンとあおいちゃんも、違うベクトルで優しい。
あたたかくて、優しい世界。
守ってみせる。メテオくんも、この世界も。絶対に。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる