推しを殴るなんてできません!

いんこ

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第二話 前途多難!推しも推せないこんな世の中じゃ!

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「…………悪いけど、信じられないよ」

 『マジカル☆ステラ』の中では、常識人枠でツッコミ担当の『マジカル・シリウス』こと『星波あおい』ちゃんが、言いにくそうにしながらも、眉をしかめて呟いた。
 その腕の中で、シリウスの変身妖精である水色の犬型妖精『シリルン』が、主と同じように険しくも気遣わしげな顔をして、私――『マジカル・ポラリス』こと『星見台あかり』を見ている。

「この世界が、前世のあかりが観ていたアニメの世界だなんて」

 この反応は、想定内だ。
 そもそも星の力を得た少女戦士達が人知れず戦っていること事態が奇想天外なのは間違いないけれど、その上まさか中心的な存在であるメンバーに前世の記憶があって、その世界では目の前の現実がアニメになっていたなんて、いきなり信じろと言われた方が無理だろう。
 特に、あおいちゃんは現実主義だから、尚更だ。

「それに、あたしはあかりとメテオリトがくっつくなんて、絶対嫌だからね!」

 その上、彼女は、あかりちゃんのことが大好きな、世話焼き幼馴染属性。
 そりゃ、ちょっと天然で単純な幼馴染が、よりにもよって敵キャラに惚れたなんて言い始めたら、全力で止めるに決まってる。
 というわけで、そんなあおいちゃんを信じさせ、納得させるのは、どう考えても至難の業だった。

「えー、なんで?メテオリトの方も、満更でもなさそーな感じだったじゃん」

 にやにやと笑っている『マジカル・ベガ』こと『星野ことね』ちゃんは、オシャレ大好き恋バナ大好きな、イマドキの子だ。

「いや、ありえないでしょ!敵と恋愛とか!」
「いいじゃんいいじゃん、ロミオとジュリエットみたいで!」
「そんなロマンチックな話じゃないよ……」

 目をキラキラと輝かせながらのたまうことねちゃんに、あおいちゃんは盛大な溜息を吐く。

「だって、あいつら、この町を襲ってきているんだよ?そんな奴と恋愛なんかできるの?」
「……でも、メテオくんは、本当は良い子なんだよ……?」

 黙っていられなくて、思わず声を上げてしまった。
 あおいちゃんの話はもっともだ。普通の人が、普通に持つ感情だと思う。
 アニメでのあかりもそうだった。この町がコメット王国の奴らに荒らされることに、正しく怒っていた。コメット王国の人にひどいことをされた町の人を守って、助けて、戦い続けていた。
 だけど、それだけじゃ、メテオくんは救えない。

「良い子が、どうしてこの町を襲うの?」

 あおいちゃんは、じっと私を睨む。

「あかり。ちょっとアイツがカッコいいからって、騙されちゃダメだよ。酷い目に遭うのはこの町の人たちなんだよ?」
「でも、このままじゃ、メテオくんが消えちゃうかもしれないし……」
「そんなの、アニメの中の話でしょ?」
「まあまあ」 

 どうどう、とことねちゃんが私とあおいちゃんの間に割って入り、軽く手を上下に振る。
 ベガの黄色い鳥型変身妖精の『ベガルン』も、主の動きを真似していた。

「この町の人達も大事だけど、メテオリトが消えちゃうかもしれないっていうのも後味悪いじゃん?いつかは仲良く出来ればいいよね」

 こういう話のまとめ方は、この年齢にしては流石だ。
 天然で情にもろいあかりちゃんと、しっかり者で常識的なあおいちゃんの間を上手く持っている。
 ここら辺のバランス感覚も、放送当時、ファンの中でちゃんと考察されていたことを思い出した。

「そう、そうなの。今は、町の人達を守るために戦わなきゃいけないけど、いつかは、ちゃんと話せればいいなって思って……。向こうにも事情があるわけだし……」
「……どんな事情があっても、この町を襲っていることには変わりないんだけどね」

 あおいちゃんは、ゆっくりと立ち上がる。
 ちなみに、ここは『星見台あかり』である私の部屋だ。『マジカル☆ステラ』の中でも、何度も三人の作戦会議場兼憩いの場として出てきていた。
 前世の記憶が戻って改めて見てみると、なんだか感慨深い。
 そんな平和の象徴みたいな場所だけど、今日の雰囲気は、とても平和とは言えなくなってしまった。……、私のせいだけど。

「お茶、ご馳走様。あたし、今日はもう帰るね」
「あ……、うん。また学校でね」
「うん」

 振り向かずに片手だけ振って、あおいちゃんは出ていく。
 ……、せめて、非現実的なことにしても、もうちょっと私が上手く伝えられていたら、もっとあおいちゃんも納得出来ていたのかな……。結局、ことねちゃんに頼っちゃったし……。
 前世では、社会人になってから会社と家の往復で人生終わったから、コミュニケーションって、なんだか難しい……。

「あかりん、そんなに落ち込まないで。ウチはメテオリトとのこと、応援するよ?だってその方が燃えるじゃん!」
「うん……、ありがとう」
「っていうかー、ベガルン達はどう思ってんの?」

 黄色い鳥と桃色の熊が、揃って顔を見合わせた。

「シリルンは、多分あおいと同じ考えポラ」
「ベガルンは、なんとも言えないベガね。まだわかんないことだらけベガ」
「ポラルンも、わからないポラ。だけど……」

 ポラルン――、ポラリスの桃色熊型変身妖精は、ちょこちょこと私の膝の上に立って、じっと見詰めてくる。
 ……、余談だけど、シリルンの語尾は「シリ」ではなく、犬らしく「ワフ」である。どうやら、日曜朝の女児向け番組で、セリフの語尾にシリシリ付けるのは、さすがに情操教育には良くないと判断されたとかなんとか。

「メテオリトと出会ってから、あかりの心がぽかぽかしているポラ。こうしていてもわかるくらい、ずーっとあったかいポラ!」

 ポラルンは、自分の胸に手を当てながら、心底嬉しそうに微笑んでくれた。

「ステラの戦士達は、愛で強くなるポラ!だから、あかりは大丈夫ポラ!きっと、この世界も、メテオリトも、助ける方法が見つかるポラ!」

 ……、ウッ、優しい……!その言葉は汚れて疲れ切った大人の心には、真っ直ぐで優し過ぎて、むしろ抉られる……!
 ポラルンのこの優しさに、放送当時のリアルタイムでも何度助けられたことか……!
 そういえば、仕事でクソみたいに扱き使われて心身共に限界だった時も、ポラルンがあかりちゃんを慰めてる場面を見て泣いたことがあったよなぁ……。

「ありがとね……、ポラルン……!」
「また泣いてるポラ?あかりは泣き虫ポラ!」

 はぁぁぁまーたそうやって優しく微笑むっ!
 ことねちゃんもベガルンも、馬鹿にするでもなく優しく笑ってくれる。
 もちろん、あかりちゃんである私を心配してくれたシリルンとあおいちゃんも、違うベクトルで優しい。
 あたたかくて、優しい世界。

 守ってみせる。メテオくんも、この世界も。絶対に。
 
 
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