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第七話 あれ? この展開、推しの夢小説で読んだぞ……!? その2
しおりを挟む教室のベランダから大きく飛び出して、三人で巨人の腕の上に着地する。
「うぉらぁぁぁあ!」
「サイっヤクダー」
そのまま駆け上がると、サイヤクダーが腕を振り回して、私達を振り払った。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
「ぐへぇ!」
……、はい。シリウス、ベガ、私の順で叫びましたとも。
「ちょっと、ポラリス!大丈夫!?」
二人は地面に叩き付けられたものの、まだ綺麗に受身を取って衝撃を受け流せたようだ。
対する私はというと、身体が逆さまに投げ出され、生身であれば確実に首の骨が折れているであろう状態で、校舎の壁に叩き付けられた。
「うへへ……」
頭に血が上って来る体勢を、首に負担が掛からないようにゆっくりと崩し、そのまま落ちる。
……、なんか、私だけ、カッコ悪くないですか。
「おーっほっほっほ!見つけましたわぁ!」
空から、やけに高飛車な声が降ってきた。
この、ちょっと高めで幼い声は……、もしや、幼女先輩の声なのか?
いや、でも、「マジカル☆ステラ」にそんなロリはいなかったハズだけども……。
「てやぁ!」
サイヤクダーの肩の上から、ふわりと、声の主が落ちてきた。
逆光でよく見えなかったけれど、着地する時にフリフリのドレスのスカートの裾を少し持ち上げ、ちょこんとお辞儀をしてくる。
「ごきげんよう。あなた達が、『マジカル・ステラ』の娘達ね?」
金髪のツインテールに、真紅のドレス。
見上げられた瞳は、暁だか黄昏だかの色を映したような、燃える陽の色。
やけに育ちが良さそうな、お嬢様みたいなロリだった。
「……、そうだけど、あなたは誰なの?」
首が痛い。擦りながら聞くことにする。
「わたくしは、コメット王国第一王女、ミーティアですわ」
慇懃無礼に柔らかく弧を描いていた目が、急に鋭く光った。
「さて。わたくしの大切なメテオリトお兄様をたぶらかしたのは、どなたですの?」
――、来る。
殺気を感じて、咄嗟にズレる。
案の定、一瞬前に頭があったところに、彼女の拳が突き付けられていた。
「えーっと……、もしかして、あなたは……、メテオくんの、妹?」
聞いていないぞ。
メテオくんに、こんな可愛いロリな妹がいたなんて。
「マジカル☆ステラ」には、全く出ていなかったのに。
ちょっと必殺技を変えたくらいで、なんで妹まで出てくるんだ。話の筋が変わりすぎだろう。
「『メテオくん』?『メテオくん』、ですって……!?」
あ、やばい。
咄嗟にその場から飛び退いて距離を取る。
すると、ロリ……、もとい、ミーティアちゃんは、ものすごい剣幕で追いかけてきた。
「お兄様の名前をそんなに親しげに……!ここで会ったが百年目!そこに直りなさい!ぶっ飛ばして差し上げますわ!」
……、まだ「婚約者」とかそういう立場の人じゃなかっただけマシだったというべきなのだろうか。
そういえば、ネットで見つけた夢小説に、メテオくんの婚約者ポジのモブ女に夢主が殴られる話とかあったよなぁ。
あと、「天手オリト」のファンクラブのモブ女に殴られる話とか。
メテオくん、一応曲がりなりにも王子様だし、「天手オリト」としても人気があるから、よくそんな設定の話を書かれていたっけ。
嫌われ設定とか、いじめられていたヒロイン設定の夢主とか、そして最後に、メテオくんに助けられながら、いじめてきた奴全員に仕返しする展開とか、そんなのが流行っていたような気がする。
いやー、よく読んだわ。
まさか、それが私の身に降りかかるとか、全く思っていなかったけれども。
「何を!一人で!にやにやと!笑っているのですか!このっ、泥棒猫ぉ!!!!」
文節ごとに拳を繰り出される。
何このテンプレ通りの台詞。
私の人生でこんなセリフを生で聞くことになるとは。なんだかゾクゾクする。
「もっと言って……!あー、こんな感じなんだそれ言われるのって……!」
「なっ……!何を喜んでいるのです!気持ち悪いですわ!」
至極真っ当な意見である。
周りでシリウスとベガが心配そうにこちらを見ていたが、二人にはサイヤクダーの方を相手してもらおうと、目配せをする。
「何をよそ見しているのですか!この泥棒猫!一発殴らせなさい!」
相変わらず鋭い殺気と共に拳が繰り出される。
何気に強いぞ、この子。
しかし、まだ発育途上で腕が短く、注意して見ていれば全然かわせる範囲だ。
正直、こんな小さな女の子は、殴るのは気が引ける。
「あなたの!せいで!メテオリトお兄様が!あんなお菓子ひとつで!腰抜けに!」
「え?」
お菓子……、と言われて、数秒経ってから、あぁ、ステラドーナツか、と思い出す。
メテオくん、ちゃんとドーナツ持ち帰ってくれたんだ。
やっぱり私の最推しだ。敵からもらったお菓子でも、捨てずにきちんと持ち帰ってくれる。
だからこそ、貢ぎ甲斐があるというものだ。
「食べてくれたの?美味しかった?あのドーナツ、今この街で流行ってて」
「いやあああ!この泥棒猫!」
子猫みたいな悲鳴を上げて、ますますポカポカと殴ろうとしてくる。
うん。……、やっぱり可愛いぞ。この子。
ついついいじってしまいそうになる。
「あんな!田舎臭いお菓子で!お兄様の心を奪ったとは思わないことですわ!普通は!金銀財宝!宝石を!持ってくるべきですわ!」
「うぐっ」
……、と思ったら、痛いところを突かれた。
さすが真っ直ぐなロリ。容赦ない……。
わかっている。前世は、メテオくんクラスタのメテオくんグッズで埋め尽くされた部屋や痛バッグ、祭壇を見て、何度絶望したことか。
私だって、お金さえあれば、あれだけのことが出来たのに。
今だって、一応「星見台あかり」のガワは被っているけれど、中学生だからお金もないし、メテオくんには何もすることが出来ていない。
せめて、と思ってドーナツを貢いだけれど、それだけじゃ何もならないことはわかっている。
「本当は!そうしたかったよ!メテオくんにガンガン貢いで!一生養いたいぐらいだよ!」
「ハッ!出来るわけないでしょう!この田舎娘!お兄様は!コメット王国の!王子なのですよ!?」
「知ってるよ!でも、私はメテオくんのことがずっと好きなんだよ!」
それでも、私はメテオくんのヲタクだから。
「だから!たとえ、どんだけしょぼい形になっても!自分が今出来る最大限で、メテオくんを応援したいの!メテオくんのことが大好きだって、ちゃんと伝えたいんだよ!」
テレビを観ているだけの時は、メテオくんに降りかかる運命の残酷さに、ただただ泣くことしか出来なかった。
だけど、こうして、「星見台あかり」として、同じ世界で生きることが出来ている今。
メテオくんのヲタクとして、メテオくんを推さない選択肢はない。
たとえ、金銀財宝や、札束が用意出来ない身分だとしても。
「な、なんですかそれは……!」
ミーティアちゃんがたじろぐ。
どうだ。ヲタクの暗くて深くて熱い、気持ちの悪い一方通行の愛情は。
可愛い幼女先輩(だいたいほむらちゃんと同じくらいだとは思うけど)には意味わからんだろう。理解出来ないだろう。
なんにせよ、パンチの嵐が止んだこの瞬間を、見逃すわけにはいかない。
「行くよ!『ラブ・ロックオン』!」
手でハート型を作って、ミーティアちゃんを覗き込む。
うへへ。覚悟しろよ。
「『あなたへのラブ!全開で行くよ!ポラリス・ホールド』!」
迎え入れるように手を広げると、ミーティアちゃんが吸い込まれてきた。
ようこそ。私の腕の中に。
「いやぁぁぁあ!吸い込まれますわ!ハレンチですわぁぁぁぁ!!!!」
ミーティアちゃんの大絶叫が、学校中に響き渡った。
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