槍使いのドラゴンテイマー

こげ丸

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Ⅱ ~勇者が暴走したので邪竜で蹴散らしておこうと思う~

【第26話:見守っていてくれ】

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 振り返った少年の目は、瞳全体が赤く染まっていた。
 手からは30cmはありそうな鋭い爪が伸び、面倒そうに振り払って馬車を切り裂く。

 しかし、その振り向いたその姿は、どう見ても人間の姿それではなかった。

 口は顎まで裂け、そこからは禍々しい無数の牙。
 良く見れば手が異様に伸びており、地面に届きそうだ。

「ちょっと予想外の姿だな……」

 思わずこぼれたその言葉に反応するように、唸り声をあげる三人。
 その不気味な姿とは裏腹に表情が抜け落ちており、オレの知る懐かしい制服ブレザーが釣り合っておらず、現実味がわいてこなかった。

 だって、それは……その制服は、前世でオレが卒業した高校の物だったのだから。

 多くの人を殺したこいつらを見逃すわけにはいかない。

 この場だけでも、馬車の周りには黒焦げになった人が何人も横たわっているのだ。
 訳も分からずこちらに召喚されて意識を奪われ、あげくに肉体に何かされたのだろう。

 その境遇を思うと、同情する気持ちが湧き上がり、気付けば念話でジルに問いかけていた。

≪ジル……こっちの状況は把握しているか?≫

≪主よ。状況は把握しているが、その者たちなら既に手遅れだ。この世界に適合しきれていない者を呼んだのだろう。元々こちらでは長く持たない体を無理やり魔族の呪法で適合した結果がそれだ≫

 だが……返ってきた答えは非情なものだった。

≪そんな体でも……いやそんな身体だからこそといった所か。その者たちは6魔将程度の力は持っておるし、この世界の法則に反して生きておるからしぶといはずだ。主たちの手でキッチリ引導を渡して安らかに眠らせてやるのが、人の言う所の情けではないだろうか?≫

 ジルにしては心に響く事を言ってくるな……。

≪わかった。全力でやるから大丈夫だ。ただ……千里眼で良いから見守っていてくれ≫

 オレがジルとの念話を終えると、リルラがオレの服をクイっと引いてきた。

「コウガ様。まだ何人か息があります」

 幼い顔に真剣な表情を浮かべたリルラ。
 こういう場面でなければ少し見惚れていたかもしれない。

 未だに一般常識に幾分不安が残るが、根はやさしい子だ。
 おかげで少しやわらいだ気持ちになり、その事に内心感謝しながら指示を出す。

「テトラは息のあるものを回収後、リルラの護衛! リルラはその者たちの回復を優先しつつ戦闘をサポート! リリー、ルルー、ヴィーヴルとオレの4人で奴らを無力化するぞ!」

「「りょうかい! ……にゃ!」」

「わかったわ! はぁぁぁぁーーーー!!」

 今回は相手の強さが未知数なので、あらかじめ手を抜くのは禁止と伝えてある。

 リリーとルルーはいつものように【ギフト:共鳴の舞】を発動しつつ、身体を薄く発光させて残像を残して駆けていき、ヴィーヴルは最初から竜化して空を翔け上がる。

「まずは私たちが相手! ……にゃ!」

 リリーの言葉にルルーが一歩前に躍り出ると、突然間合いの読めない不思議な歩法に切り替え斬りかかった。

 昔のオレなら受けるだけで精一杯の鋭い斬り込みだったが、本能と身体能力の高さだけでそれを交わす穢れた勇者たち。

 だが……攻撃はそこで終わらない。

 更に回り込むようにクルリと円を描きながら、舞うように次々と剣戟を繰り出すルルー。
 それでも何とか薄く斬られる程度で避けていた3人だったが、いつの間にか立ち位置を入れ替えたリリーの連続突きを避け切れず、いくつもの深い傷をその身体に刻んでいく。

「最近、どんどん技に磨きがかかってきているな」

 思わずその動きに感嘆の声をあげてしまうが、オレだけ楽して見ているわけにもいかない。
 二本の牙を取り出し、更にこちらの戦力の底上げをはかる。

≪付き従え! 【ドラゴントゥースウォリアー】!≫

 竜に類する者だけが扱える竜言語力ある言葉で世界の理を覆すのが竜言語魔法だ。

 オレの力ある言葉によって二つの漆黒の戦士『杏』と『柚』を呼び出すと、続けて今度は自身を強化する。

≪滾れ! 【竜気功ドラゴニックオーラ】!≫

 ジルに制御を任せ、オレの肉体が壊れない程度に抑えてもらっていた以前とは段違いの力が全身に漲っていく。

 そして念押し……、

使用制限リミッター解除! 『真・雷槍ヴァジュランダ』!」

 竜気功と違ってこちらは最近まで知らなかったのだが、雷槍ヴァジュランダには使用制限リミッターがかかっており、槍にその実力が認められて初めて真の力が解放される仕組みだったのだ。

 竜気功の発する光とヴァジュランダの使用制限リミッター解除によって、雷を纏ったオレは眩く輝いていた。

「コウガ様カッコいいです♪」

 それを見てリルラが喜んでくれているが、前世でのバトル系アニメに出てくるような発光状態に、若干の恥ずかしさを覚えているのは内緒だ。

 ちょうどオレが戦闘準備を終えた時、ヴィーヴルの極大竜言語魔法にあわせて、リリーとルルーの2人は一旦穢れた勇者たちから距離を取る。

 後を追おうとした穢れた勇者たちだったが、杏と柚が霞む魔剣で足を切り裂き、それを阻止する。

 そもそもリリーとルルーの連撃でかなりのダメージを与えていたはずなのだが、もはや人の様相を保っていない穢れた勇者たちは、しゅうしゅうと黒い煙を上げながら、みるみるうちに傷を修復していく。

「結構やっかい……にゃ」

「斬っても斬っても回復する……にゃ」

 完全に生ある者の概念を超えたような修復速度に2人が憤るが、ちょうどその時ヴィーヴルの竜言語魔法が放たれる。

≪平伏せ! 【天蓋落下ダウンバースト】!≫

 力ある言葉により生み出されたその魔法は、激しい轟音と共にまるでそらがそのまま落ちてきたような巨大な風の塊を以って、穢れた勇者たちを地面に叩きつける。

 いや、それでも収まりを見せず、その身体を無慈悲に押しつぶし、破壊し、ひしゃげさせていく。

「え、えぐいな……」

 ヴィーヴルは上空で得意そうな笑みを浮かべているが、他のメンバーは余りの破壊力に思わずドン引きだ……。

 しかし……それでも……穢れた勇者たちは黒い煙を発し続け、身体を修復させていく。
 元同郷の者たちの変わり果てた姿に、思わず息を飲む。

「やはりここまで来ると、救いようがないか……」

 オレはそう呟きながら、複雑な気持ちを……揺れる心を振り払うように歩み始めるのだった。
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