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【第37話:練習の成果】
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オレはすぐに起き上がると、身体についた土を払う間もなく駆け出した。
素早く自分の身体に異常がないことを確認し、魔法を使うための集中を高めていく。
「手荒い歓迎感謝するよ!」
そんな事を口走りながら、サラマンダーまで一気に駆け寄ると、魔法の有効範囲に入ったのと同時に補助魔法を次々と放っていく。
「身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
立て続けに三連続で放つ補助魔法。
以前より格段に魔法の練度があがっている事を実感する。
これで約3倍ちょっと……。
だが、サラマンダーは高位の、Bランクの魔物だ。
これぐらいではびくともしないだろう。
でも……だからといって突然身体能力が強化されれば、驚き、戸惑い、その動きは鈍くなる!
頼むから、そのまま混乱していてくれよ。
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
良し! うまくいった! これでだいたい11倍!
何度も繰り返した練習の成果で、だいたい三連続ぐらいなら一息で魔法をかけられるようになったのは大きい。
これまでも魔法の発動自体は素早くできるように何度も何度も練習を重ねてきた。
だから補助魔法を一瞬で発動させるその速度は、誰にも負けないつもりだった。
だけど、重ね掛けを挟んでの魔法の連射などの練習はしてこなかった。
それはそうだろう。
今まではそんな練習はする意味がないと思っていたのだからな。
だけど、補助魔法の可能性に気付いてからは、毎日色々な工夫をし、試行錯誤しながら練習を重ねてきた。
フィアとロロアという頼もしいパーティーの仲間の力と知恵を借り、戦闘しながらでもスムーズに魔法を発動させる練習も積んだ。
その成果が確実に表れている事に、嬉しさが込み上げてくる。
「良し!! この調子で畳み掛けてやる!!」
サラマンダーは未だに自分の身体に何が起こったのか理解できずに混乱している。
このチャンスをうまく活かせば、勝利はぐっと近づくはずだ。
そもそも王都の冒険者ギルドで集めた情報から推測すると、サラマンダーは肉体的にはロックオーガよりもかなり劣る。
だからこそオレ一人でも大丈夫だと判断し、フィアを残してやってきたのだ。
ロックオーガの時と違い、まだ11倍の時点で既に苦しみ始めているサラマンダーを見て、もう勝利への道筋が見えたことを認識していた。
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
これでもう40倍近く!!
油断しなければこのまま勝てる!!
そう勝利を確信した時だった……。
「な、なんだ!?」
サラマンダーを包み込むように光が差した。
赤い光が……下から上へと向けて広がっていく。
オレは警戒して咄嗟にサラマンダーから距離を取ったのと同時に、その光の正体に気付いた。
「なっ!? これは魔法の光⁉」
いったい何が起こってるんだ!?
もう一息で倒せると思ったのに、これは何が⁉
サラマンダーは火を操ることは出来ても、魔法は使えないはず!
「いや、ここまで来て諦めてたまるか! 何をするつもりか、何が起こっているかわからないが、何かをする前に倒せばいいだけだ!!」
オレは急いでもう一度距離を詰め、そのまま倒し切ってしまおうとすぐさま行動に移したのだが……。
「ば、馬鹿な……き、消えた、のか……」
急いで駆け寄ったオレの目の前で、光に包まれたサラマンダーは忽然と姿を消してしまったのだった。
◆
呆然と立ち尽くしたオレの目の前には、ただ焼け焦げた地面が広がっていた。
奇襲こそ失敗したが、戦いは全て順調だった。
もしかすると、あと一、二回身体能力向上をかけられれば倒せていたかもしれない……。
それなのに、いったい何が起こったんだ……。
「今、消える前に放たれた光、あれは確かに魔法の光だったよな……」
感覚的なものではあるが、魔法使いなら誰でもその光が魔法の光なのか、それとも何か自然現象などによる光なのかはわかる。
あれは絶対に魔法の光だった。
そして……サラマンダーは火を纏い、吐き出し爆発させることは出来るが、魔法は一切使えないはずだ。
これは王都の冒険者ギルドでも散々調べてきたから間違いない。
「なにか嫌な予感がするな……」
衛兵の一部隊を全滅させたサラマンダー。
今回実際に戦ってみて改めて思ったが、確かに凄まじい攻撃力だった。
基本的に魔法使いが所属していない衛兵にとっては、非常に相性の悪い魔物でもあるだろう。
でも……逃げる事ぐらいは出来たんじゃないか?
どうして全滅なんてことになったんだ?
オレは故郷の村が危険にさらされているという事で冷静さを失っていた。
今ごろになって、こんな初歩的な疑問に気付くなんて……。
何かがおかしい……!
急速に増していく嫌な予感に背中に冷たいものが流れる。
「くっ……とにかく仕切り直しだ。まずは皆の所へ戻ろう……」
オレは不安を感じながらもひとりそう呟くと、元来た道を戻っていったのだった。
その時、一羽の鳥が姿を消していた事にも気付かずに……。
素早く自分の身体に異常がないことを確認し、魔法を使うための集中を高めていく。
「手荒い歓迎感謝するよ!」
そんな事を口走りながら、サラマンダーまで一気に駆け寄ると、魔法の有効範囲に入ったのと同時に補助魔法を次々と放っていく。
「身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
立て続けに三連続で放つ補助魔法。
以前より格段に魔法の練度があがっている事を実感する。
これで約3倍ちょっと……。
だが、サラマンダーは高位の、Bランクの魔物だ。
これぐらいではびくともしないだろう。
でも……だからといって突然身体能力が強化されれば、驚き、戸惑い、その動きは鈍くなる!
頼むから、そのまま混乱していてくれよ。
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
良し! うまくいった! これでだいたい11倍!
何度も繰り返した練習の成果で、だいたい三連続ぐらいなら一息で魔法をかけられるようになったのは大きい。
これまでも魔法の発動自体は素早くできるように何度も何度も練習を重ねてきた。
だから補助魔法を一瞬で発動させるその速度は、誰にも負けないつもりだった。
だけど、重ね掛けを挟んでの魔法の連射などの練習はしてこなかった。
それはそうだろう。
今まではそんな練習はする意味がないと思っていたのだからな。
だけど、補助魔法の可能性に気付いてからは、毎日色々な工夫をし、試行錯誤しながら練習を重ねてきた。
フィアとロロアという頼もしいパーティーの仲間の力と知恵を借り、戦闘しながらでもスムーズに魔法を発動させる練習も積んだ。
その成果が確実に表れている事に、嬉しさが込み上げてくる。
「良し!! この調子で畳み掛けてやる!!」
サラマンダーは未だに自分の身体に何が起こったのか理解できずに混乱している。
このチャンスをうまく活かせば、勝利はぐっと近づくはずだ。
そもそも王都の冒険者ギルドで集めた情報から推測すると、サラマンダーは肉体的にはロックオーガよりもかなり劣る。
だからこそオレ一人でも大丈夫だと判断し、フィアを残してやってきたのだ。
ロックオーガの時と違い、まだ11倍の時点で既に苦しみ始めているサラマンダーを見て、もう勝利への道筋が見えたことを認識していた。
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
「重ね掛け! 身体能力向上1.5倍!」
これでもう40倍近く!!
油断しなければこのまま勝てる!!
そう勝利を確信した時だった……。
「な、なんだ!?」
サラマンダーを包み込むように光が差した。
赤い光が……下から上へと向けて広がっていく。
オレは警戒して咄嗟にサラマンダーから距離を取ったのと同時に、その光の正体に気付いた。
「なっ!? これは魔法の光⁉」
いったい何が起こってるんだ!?
もう一息で倒せると思ったのに、これは何が⁉
サラマンダーは火を操ることは出来ても、魔法は使えないはず!
「いや、ここまで来て諦めてたまるか! 何をするつもりか、何が起こっているかわからないが、何かをする前に倒せばいいだけだ!!」
オレは急いでもう一度距離を詰め、そのまま倒し切ってしまおうとすぐさま行動に移したのだが……。
「ば、馬鹿な……き、消えた、のか……」
急いで駆け寄ったオレの目の前で、光に包まれたサラマンダーは忽然と姿を消してしまったのだった。
◆
呆然と立ち尽くしたオレの目の前には、ただ焼け焦げた地面が広がっていた。
奇襲こそ失敗したが、戦いは全て順調だった。
もしかすると、あと一、二回身体能力向上をかけられれば倒せていたかもしれない……。
それなのに、いったい何が起こったんだ……。
「今、消える前に放たれた光、あれは確かに魔法の光だったよな……」
感覚的なものではあるが、魔法使いなら誰でもその光が魔法の光なのか、それとも何か自然現象などによる光なのかはわかる。
あれは絶対に魔法の光だった。
そして……サラマンダーは火を纏い、吐き出し爆発させることは出来るが、魔法は一切使えないはずだ。
これは王都の冒険者ギルドでも散々調べてきたから間違いない。
「なにか嫌な予感がするな……」
衛兵の一部隊を全滅させたサラマンダー。
今回実際に戦ってみて改めて思ったが、確かに凄まじい攻撃力だった。
基本的に魔法使いが所属していない衛兵にとっては、非常に相性の悪い魔物でもあるだろう。
でも……逃げる事ぐらいは出来たんじゃないか?
どうして全滅なんてことになったんだ?
オレは故郷の村が危険にさらされているという事で冷静さを失っていた。
今ごろになって、こんな初歩的な疑問に気付くなんて……。
何かがおかしい……!
急速に増していく嫌な予感に背中に冷たいものが流れる。
「くっ……とにかく仕切り直しだ。まずは皆の所へ戻ろう……」
オレは不安を感じながらもひとりそう呟くと、元来た道を戻っていったのだった。
その時、一羽の鳥が姿を消していた事にも気付かずに……。
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