忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸

文字の大きさ
18 / 59

【第17話:鵺の塔】

しおりを挟む
「ワイバーン!? どうしてこんなところに!?」

 驚くリシルの言葉に一瞬また『世界の揺らぎ』が何かしたのかと疑ってしまったが、ワイバーンは魔物ではなく魔獣だ。
 先日のトーマスで起きた事件とはまた別物だろう。

「とりあえず理由は後回しだ! ワイバーンを捕まえるのは無理だが倒すぐらいなら何とかなるだろう」

 オレもリシルも調教師テイマーでは無いため、調教テイムして捕まえる事は無理だが、ワイバーンと戦って勝つことはそれほど難しくないだろう。
 本心を言えば捕まえて騎獣に出来たら最高なのだが、調教師テイマーの持つ特殊能力を使わなければ不可能だ。

「そうね! 逃げ回るのを倒すのは難しいけど、向かってきてくれるなら問題ないわ!」

 リシルは、そう言うと同時に走りながらも澱みなく詠唱を開始する。

≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に空を切り裂き罪を裁け≫

さばきの光≫

 緑の魔法陣から放たれたのはいかづち

 雷鳴と共に閃光が走り、馬車と並走する冒険者と思われる護衛の魔法使いを抜けてワイバーンに直撃する。

 リシルはさすがといった腕前でワイバーンを撃ち落とすと、

「私が前に出るわ! 商人たちをお願い!」

 もう一段階速度を上げる。

「え……わ、わかった!」

 一瞬オレが前に出ると言おうと思ったのだが、情けない事に剣を抜かない状態での純粋な戦闘力ならリシルの方が高いと思いなおして任せることにする。

 そう返事をかえすと、もう目前まで迫った馬車を守る為に走る速度を緩めたので、リシルが抜き出る形となった。

「あなた達、大丈夫!? ここは引き受けるから後ろの私の仲間と合流して!」

 リシルはレイピアと呼ばれる細剣を抜剣すると、商人たちとすれ違いざまに声を掛け、撃ち落としたワイバーンに迷いなく戦いを挑む。

「あ、ありがとうございます!!」

 冒険者と思われる女性が慌てて礼を言って、立ち止まったオレの方に馬車を誘導して近づけてきた。

「オレの後ろに!」

「す、すまない! でも、あ、あんた達どうするつもりだ!?」

 とりあえずオレの指示通りに馬車を移動させてきた商人風の男だったが、不安そうにどうするつもりなのかと尋ねてくる。

リシルかのじょは、あぁ見えてBランク冒険者だ! ワイバーン程度なら一人で仕留めれる! それより結界魔法を使うからあなた達はここで大人しくしていてくれ!」

 リシルがBランクだと言うその言葉に驚きながらも、信じてくれたようで指示した位置についてくれた。

 馬車と女性冒険者の乗る馬が魔法の範囲内に入った事を確認したオレはすぐさま詠唱を始める。

≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に干渉を拒絶する絶対の意志となれ≫

≪不干渉の煙霧えんむ

 オレの紡いだ言葉に従って、数メートルの大きな魔法陣が足元に現れる。

 その魔法陣から現れたのは、薄暗いもやのような煙の壁だった。

「黒属性!?」

 冒険者の女性が足元に出現した黒色の魔法陣を目にして驚きの声をあげる。

 この世界での一般的な魔法は属性魔法と呼ばれている。

 魔法の扱いそのものに属性による大きな差異はないと言われているのだが、魔法を発動する時に出現する魔法陣の色が違うことから色で区別されており、世界的な魔法結社『ぬえの塔』でもこの属性ごとに分けて研究されている。

 そして人には個々に色への適性があり、赤属性に適性があれば火や熱を操る魔法が、緑属性に適性があれば風や雷を操る魔法などが扱えるがある。

 そう。適性があっても即扱えるわけではなく、魔法を扱うのには各色の属性適正以外にも個々の魔法ごとの適性を持っている必要がある。さらに、色や個々の魔法適正をクリアしても、一つの魔法を使えるようになるためには修練が必要なため、一人で扱える魔法はせいぜい数種類程度と言うのが一般的だ。

 そのような属性魔法であるが、その属性の中でも光と黒は特殊な色と言われおり、さらに一つの魔法を習得するためには普通の属性魔法より非常に厳しい修練が求められる。
 そういう事情から、初めて目にしたであろう黒い魔法陣に冒険者の女性は驚いたのだろう。

「その煙霧の中で大人しくしていてくれ! 遠隔攻撃はある程度散らしてくれるはずだ! あと、出来れば黒属性の魔法を扱ったことは内密に頼む!」

 この発動させた『不干渉の煙霧』と言う魔法は一種の結界魔法で、あらゆる遠隔攻撃を逸らす効果を持つ。
 ワイバーンはブレスは扱えないのだが、尻尾に猛毒を持っていて、その毒の針を時折飛ばしてくるので念のために張っておいたのだ。

「わ、わかりました! アキドさんにも絶対に内密にするように、しっかりお願いしておきます!」

 アキドと言うのは御者をやっている商人風の男のことだろう。
 この女性冒険者は中々気が利くし頭の回転も良さそうだ。

 光や黒属性は扱える者が非常に少ないため、魔法結社『ぬえの塔』が扱える者を確保しようと常に探し求めている。
 この『鵺の塔』は魔法の研究成果を世や国の為に役立ててくれており、そのことに関しては皆非常に感謝しているし良い組織なのだが……変わった奴が多くてオレは凄く苦手だ……。

 勇者の時にこの変人どもに追い回されて散々な目にあっている。
 世界に忘れられて唯一嬉しかったのは、こいつらにもう追い回されなくて済む事ぐらいじゃないだろうか……。

 魔法結社に変わった人たちが非常に多いというそのあたりの事情を知っているので、この女性はすぐにオレの頼みを理解してくれたのだろう。

「ありがたい! 絶対に内密に頼む!!」

 しかし、オレはこの時気付けなかった。
 商人の目がオレの首からさげている冒険者タグに釘付けになっているという事に……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

へなちょこ勇者の珍道記〜異世界召喚されたけど極体魔法が使えるのに無能と誤判定で死地へ追放されたんですが!!

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 主人公太一は誤って無能者判定され死地へと追放され、その後知り合った2人のエルフの美少女と旅を始める。世間知らずの美少女は無防備。太一はインテリだが意気地なし。そんな3人で冒険をし、先々でトラブルが・・・

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...