異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

文字の大きさ
7 / 45

【第7話:びゅーびゅー】

しおりを挟む
 前世の記憶を取り戻し、パズと主従契約を交わしたオレは、何故かパズを頭に乗せて・・・・・・・・森の中を歩いていた。

 いや、頭に飛び乗ったパズを引き剥がそ……降ろそうとしたのだが、ここが気に入ったらしく、全く降りようとしないのだ。

 そして、パズはオレより圧倒的に強いので、力尽くで降ろす事も出来ない。

 主従契約とはいったい……。

「それにしても、体が嘘みたいに軽い……」

 オレは何度目かの戦闘を終えると、霊槍カッバヌーイの構えを解いて呟いた。

 職業クラスには適正武器が設定されているようなのだが、獣使いの場合は、槍がそうなのだとか。
 オレは前世はもちろん、今世でも槍など扱った事はなかったのだが、ずっと今世で使っていた剣の扱いが稚拙に感じるほどには、思い通りに扱えていた。

 それに、鵺を倒してステータスを大幅にアップさせた上に、パズと主従契約を結ぶことで身体能力や魔力ステータスが劇的に上がっており、今まであんなに苦労したホブゴブリンが、嘘みたいに簡単に倒せていた。

 足元に倒れている数体のホブゴブリンから魔晶石を手際よく回収していく。
 魔物は倒して完全に活動を停止すると、血をほとんど流さなくなるので、魔晶石の回収は、その場所さえ把握しておけばかなり素早く行える。

「これでラスト♪ パズ! これもよろしく!」

 そう言いながら、オレは回収した魔晶石をパズに向かって放り投げた。
 するとパズは「ばう」と一声吠えて、魔晶石をアイテムボックスに収納してくれた。

 お陰で、荷物の量を気にして回収を諦める必要もない。
 ホブゴブリンクラスになると、魔晶石もそこそこ大きいからな。

 もちろん、最初に倒した鵺の魔晶石も回収しており、その大きさは驚く事に、パズよりも大きかった。
 命が助かったばかりの所でアレだが、あの魔晶石の稼ぎだけでもひと財産になる。
 パーティーを抜けることに決めた今、金銭面も心配だったので、正直かなり助かった。

 ◆

 その後も、道案内は任せろというパズに従い、森の中を歩き続けていた。
 多くの魔物とも遭遇したが、パズのサポートもあり、出会う側から倒しているお陰で、ステータスの伸びも順調だ。

 もちろん懐具合もどんどん暖かくなっている。

 前世の記憶が戻った今だからわかるが、この世界は色々とゲームのような所がある。
 敵を倒せば倒すほど強くなっていくのが実感できるので、前世でハマったRPGのように、あともう少しと中々止め時が難しい。

 しかし、さすがに日が陰ってきたので、ずっとこのまま続けるわけにもいかない。
 きっとパズは、オレが戦いに勝つたびに強くなって喜んでいるのを感じ取って、遠回りしてくれていたのだろう。

 だから、ちゃんと今日はここまでにして帰ろうと伝える事にした。

「パズ? そろそろ日が暮れそうだ、そろそろ出口に向かわないか? もう気を使ってくれなくていいぞ?」

 ちょうど戦闘の区切りがついたのでそう伝えると、何故かパズは、ギギギと音が聞こえそうなぎこちない仕草で振り返った。

「ちょ、ちょっと待て……パズ? まさかとは思うが、迷ったりしていないよな……?」

「……ば、ばぅ?」

 ま、迷ってないよ~? と言っている……目が泳ぎ、吹けもしない口笛を「びゅーびゅー」と吹きながら……。

「迷ったんだな……」

「ば、ばぅぅぅ……」

 も、もしかしたら迷ったかな……と、冷や汗を流しながら、うな垂れるパズ……。

 チワワとは思えない感情表現能力の高さに感心しつつ、オレは乾いた笑いを浮かべ、

「ははは……まぁ気にするな。オレも浮かれてパズに任せっきりにしてしまったしな。もう日が暮れるし、今日中に脱出するのは難しいだろうから、今日はどこかで夜営でもするか。無理せず、明日脱出しよう」

 幸い、オレは『ソルスの剣』で荷物持ちをしていたので、野営の準備は整っている。
 あいつらは荷物を放り出して逃げていったしな。

「とりあえず、魔物のわかないポイントを探そうか」

 どこのダンジョンにも、必ず一定間隔で魔物がわかないポイントが存在する。
 まぁ、今日襲ってきた鵺のように、一部の魔物の例外はあるのだが、その場所を見つければ、基本的には安全に野営する事ができるはずだ。

「ばぅ!」

「ははは。今度こそ任せろって? じゃぁ、今度こそ頼むよ」

 こうしてオレは、尻尾をふりふりして先を行くパズの後ろをついていくのだった。

 ◆

「どうしてこうなった……」

 オレたちのいるのは、森型のダンジョンだ。
 正式名『トロリアの森』。

 基本的にどこも木が生い茂り、視界は悪く、道もあるにはあるが、林道といった感じの非常に狭いものだ。

 だけど、そんな森型のダンジョンでも、木々が生えず、ちょっとした広場が広がっている場所が存在する。

 その一つが、オレたちが探していた魔物のわかない安全地帯だ。
 しかし森型ダンジョンには、もう一つ、木々が生えず、開けた場所が存在する。

「なぜ、オレ達は未攻略のダンジョン最深部にあるはずのボス部屋の前にいるんだ……?」

「びゅーびゅー」

「それ、口笛吹けてないからな? それとも鵺の鳴き声の真似じゃないよな?」

 とりあえずダンジョンのボスなんて、最低でも一〇人以上の大所帯で、時間をかけて挑む相手だ。

 いくらBランクのネームドの鵺を圧倒する強さを持っているパズがいるにしても、一人と一匹で挑むのは危険すぎる。

「パズ、わかっていると思うが、手を出すなよ?」

 実は、広場の最奥に『迷宮の主』と呼ばれるダンジョンのボスが鎮座しているのが、もう見えているのだ。

「ばぅ?」

「あぁ、迷宮の主はボス部屋から出てこれないはずだから、このままここを離れるぞ」

 この森型ダンジョンのボスは狼型の魔物のようなのだが、さっきから咆哮をあげて威嚇してきており、一瞬パズがさっきの鵺戦のように対抗しないか心配だったのだ。

 また、あの何を見せられているのかわからないような、変な戦いが始まったら困るので、さっさと離れる事にしよう。

「よし。ここまでの道ならオレが覚えている。引き返す事はできるから、ついて来てくれ」

 今回はさっきと違い、オレも浮かれたりはしていなかったので、パズの辿った道は覚えている。
 道をそのまま引き返せば問題ないだろう。

 そう思って踵を返した時だった。

「グォォォォォーーーーン!!」

 体をびりびりと震わすほどの、何か魔力の乗ったような特殊な咆哮が響き渡った。
 ここまで強力なものは初めてだが、これは狼系の魔物の上位種が使う、特殊な咆哮だろう。

「危ない危ない。こんな魔力の乗った咆哮を至近距離で喰らったら、なにかの状態異常になってたかもしれない……」

 物理攻撃なら、オレもステータスがあがったし、パズに貰ったこの『霊槍カッバヌーイ』で多少は抗えるかもしれないが、こんな精神攻撃系の技は防げる自信はない。

「さぁ、さっさと……」

 離れるぞ。そう言おうとした時だった。

「ばぅばぅぅ~~~ん!!」

 どこかで聞いた、へたくそな咆哮が響き渡ったのだった……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...