異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

文字の大きさ
28 / 45

【第28話:可哀そうなもの】

しおりを挟む
 そのまま何事もなく店を出たオレ達は、無事に宿に帰り着くと、そのまま宿の空いている部屋に集まった。
 ちょうどリズが寝たところだったので、ダリアナにも来て貰った。

「ふぅ……もう、本当に緊張しましたよ~」

「セグトさん、お疲れさまでした」

「しかし、本当にあんな態度の悪い、強気な姿勢で良かったのですか?」

「ウォマ商会がどれくらいこの宿、もしくは土地を欲しがっているかわかりませんが、これで国の法を持ち出して、何か仕掛けられる可能性は低くなった……と思いたいですね」

 あういう輩で厄介なのは、暴力よりも法に基づいて仕掛けられる事だ。
 搦め手で法を盾にしてこられると、オレ達では対処しきれないだろうから、挑発して裏で力技で来てもらおうという思惑だった。

 これには昨日、それはそれで危ないのではないかと他の手も模索したのだが、結局他に良い案が浮かばず、力技で来てもらって、オレたち『暁の刻』で返り討ちにして力を示す事に決まった。

「そうですね……思いたい、ですね。はははは。それにしても、何か理由をつけて受け取らないとか、ごねたりするかと思ったのですが、驚くほどあっさりしてましたね」

 確かにそうなのだ。
 これは預けた荷物じゃないとか、何かと文句を言ってくる事も想定していたのだけど、挑発する前にあっさりと受け取られそうになって逆に焦ったぐらいだ。

 オレもその理由がわからず、少し考えていると……。

「たぶんだけど……」

 そこへ、帰り道もずっと黙っていたミヒメがようやく重い口を開いた。

「間違いなく、彼らは裏で何か仕掛けて来ると思うわ」

 そして、その言葉にヒナミも続く。

「だね。あの人……隠してたけど腕にアレがあったもんね」

 だけど、どうにも言葉が足りていなくて、言いたい事、そう断言する理由がわからない。

「どういう事だ? もう少し詳しく教えてくれ。アレってなんだ?」

 二人が顔を見合わせ、言葉に詰まっていると、今度はオレの頭の上からパズが話に参加してきた。

「ばぅわぅ」

「え……」

「ばぅ~、ばうぅわうぅ」

 なるほど……ここでは言えないわけだ。

 パズが教えてくれたのは、ミヒメとヒナミの二人がこの世界に呼ばれた理由。
 この先に起こるかもしれない『魔王誕生』についての秘密だった。

「ばうわうばうわう? ばぅ~わぅ~!」

「そ、そうなのか!?」

「ばぅ~」

「なるほどな。しかし、そうなると……」

「ばぅわぅ!」

「いやいや。そう言う訳には……」

「ばぅばぅ」

「ほう、なるほど。すると……」

「ばぅ!」

「あぁ! そういうこ……と、か……」

 パズから詳しい話を聞きだしていると、不意に視線が集まっている事に気付き、それと同時にダリアナから申し訳なさそうに話しかけられた。

「あの~ユウトさん? その……大丈夫ですか?」

 大丈夫って? あ……しまった……。

 双子からは呆れた視線を、ダリアナたちからは、何か可哀そうなものを見る視線を送られている事に今頃気付いてしまった。

「あっ、いや、これは違います! いや、ほら? オレ、パズとは主従契約しているから、パズの言葉がわかるんですよ!」

 そして、この説明いいわけにさらに強まる可哀そうなものを見る視線……。
 そ、そうだよな……この世界の常識から言って、魔物や獣と話が出来るとか、さすがに簡単に信じられないよな……。

「もう~、何をしてるんだか」

 呆れて呟くミヒメの言葉が痛い……。

「いや~、はははははは……えっと、セグトさん、ダリアナさん、すみませんが、ちょっとだけ三人だけにして貰っても良いですか?」

 これ以上不審に思われるのも辛いので、少し席を外して貰う事にした。

「え、はい。わかりました。ダリアナ、仕込み中だよね? 私も手伝うよ」

「うん。じゃぁ、お願いしようかしら」

 仲の良い会話をしながら二人が出ていくのを見送ると、あらためて二人の方に向き直る。

「そ、それで……あのスクロッドとかいう商人が、魔王信仰の信者だって本当なのか?」

「ユウト、本当にパズと完璧に会話できるのね……。でも、その通りよ」

「あの商人さんの腕にね。魔王信仰の信者、しかもかなり本気で信仰している人だけがする紋章の刺青がしてあったの」

「紋章……そうか、あのランプに刻まれていたのって……」

「ん~……実際には少し形が違うんだけど、魔王信仰の証である紋章を元にしたようなデザインだったんだ~」

「あぁ、だからまだ確信が持てないって」

「そうよ。どうせなら紋章そのまま刻印すれば良いのに、まどろっこしいわ!」

 とりあえず、スクロッドが魔王信仰の信者だというのが間違いない事はわかったが、しかし、だからと言って何故裏で必ず仕掛けてくると言い切ったのだろう?

「バレないためとか、何かデザインそのまま使えないような事情があるんだろ? それより教えてくれ。どうしてスクロッドが、魔王信仰の信者だからって必ず仕掛けてくる事になるんだ?」

 なかなか衝撃的な展開だが、だから必ず仕掛けてくるというのも腑に落ちなかった。

「えっとね~。赤い狐亭ここに来た時にすぐ気付いたんだけど、ここって『魔王の残滓ざんし』が漂ってるみたいなの」

 魔王の残滓? そんなもの聞いた事ないぞ?

「なんなんだ? その魔王の残滓って言うのは?」

「なんかね。この街って細い地脈の上に建てられてるみたいなんだけど、地脈を使って魔王は封じられているらしくて、魔王信仰の人たちはその残滓を集めて復活を目論んでるの。女神様談だよ」

「女神様談って……しかし、その残滓と地脈とかって、ミヒメたちはわかるのか?」

 知識を与えられただけでは、わからなそうな事だったので聞いてみる事にした。

「私たちの体ってね。元の世界の私たちを元にして、新しく作られたものなのよ」

「え? 勇者召喚って、そのままこっちの世界に転移させられたんじゃないのか?」

「ちょっとややこしいし……言いたくないわ。黙秘よ。黙秘……。まぁとにかく、その新しいこの体には勇者として必要な能力が、最初から付与されてるのよ」

 なにかミヒメの顔が一瞬寂しそうな表情をしたように見えたが、何か事情があるのだろうか。
 今は話したくないようだし、これ以上聞くのはやめておくが、パーティーメンバーになるのだから、いつかは信頼してもらって何でも話して貰えるようにオレも頑張ろう。

「そうか。しかし、そうなると……」

「うん。正攻法……って言うのかな? 十分あくどい方法だったけど、それが通用しないってわかったって事は、次はきっと教団が出てくると思うんだ~」

 なるほど。一つの商会としてのやり方で手に入らないのなら、その教団とやらが出張ってくる事は、覚悟しておいた方が良さそうだ。

「しかし、そうなると結構危ない事になりそうだな……」

 パズがいれば大抵の暴力は跳ね返せそうだが、強いと言ってもパズは一匹ひとりだ。
 数で押されたり、隙を突かれると、負ける事は無くても、ダリアナたちを守り切れるかは不安だった。

「だから……行くわよ!!」

 え? なんだ? どこに行くんだ?

「行くしかないね!!」

 え? だから、どこに?

「ダンジョンに決まってるじゃない!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...