異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

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【第27話:大人しくしていなさい】

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 Side:???

 窓一つない薄暗い部屋の中、そこにいるのは黒いローブを身に纏った三人の男。
 一人は椅子に座り、もう一人はその人を護衛するかのように後ろに控え、最後の一人は膝をつき、何かを報告しているようだった。

 その中の一番奥にいる椅子に座った男が口を開いた。

「やった奴らはわかっているのか?」

 答えるのは膝をついている男。

「は、はいっ! おそらくで……」

「恐らくだと……」

 言葉を遮られた男は、一度身をぶるりとふるわせると慌てて訂正する。

「いいいい、いえっ!? 間違いありません。やったのは『赤い狐亭』の雇った冒険者です!」

「冒険者か……ランクはいくつだ? 強いのか?」

「それが……その、冒険者のランクはDと普通なのですが、どうもかなり強い魔物を従えているようでして……」

「ほぅ~、魔物使いか」

 男は店を凍らせられた件も、この冒険者なのではないかと疑ってはいたが、こちらこそ荒唐無稽な話に思え、黙っておくことにした。

「は、はい。強力な犬か狼系の魔物を何匹か従えているようで、うちの手のものでは太刀打ちできませんでした……」

 そこまでの報告を聞くと、椅子に座った男は暫く考えるそぶりを見せてから、後ろに控えている男に話しかけた。

「お前はどう思う?」

「魔物使いの場合、冒険者自身のランクは当てになりません。こちらから何人か送り込んだ方がよろしいかと」

「そうか。では、教団の・・・手練れを何人か送ってやれ」

「はっ」

 その返事に男は満足そうに一度頷くと、今度は跪いている男に向き直り、言葉を続ける。

「数日中にいつもの場所に派遣する。その者たちを使って、適当に始末しろ」

「畏まりました! あ、ありがとうございます!」

 その物騒な命令にも特に驚くことなく、跪いた男も返事をした。

「では、また連絡を入れる」

「はは~っ!」

 跪いていた男がそう言って頭をさげると、椅子に座った男と護衛らしき男の二人の姿が徐々に薄まっていき、やがて完全にその姿を消しさったのだった。


 ◆Side:ユウト

 荷物を取り戻した次の日。
 セグトとオレ、パズの二人と一匹……だけでなく、何故か強硬に同行する事を主張したミヒメとヒナミの四人と一匹で例の店『ウォマ商会』に訪れていた。

 そして、既に店で適当な店員をつかまえて来訪を伝えて貰っており、今は通された商談スペースで依頼主である男を待っていた。

「あのぅ……やはり多すぎませんかね?」

 オレも荷物を届けに行くのにこの人数は、ちょっと無駄に刺激する事になるのではないかと思うのだが、何故か昨日の晩、二人が取り返した荷物、どこででも売ってそうなランプを見た瞬間、表情が変わってついていくと言い出したのだ。

 それまでは留守番役で納得していたので、オレも何かあるのかと尋ねてみたのだが、しかし、まだ確信が持てないからと教えてくれなかった。

「あ、いや、ちょっと心配になっただけで、ついて来て頂けるのはとても心強いんですけどね!」

 今もセグトの言葉に不機嫌そうな視線を向けるだけで、ミヒメもヒメミも黙り込んだままだ。

「セグトさん、それよりもこれからの事に集中しましょう」

「そそ、そうですね!」

 依頼してきた男の名は『スクロッド』と言う。
 それは偽名では無かったのだが、その正体は偽っていた。

 こんな大きな商会の人間なら、わざわざ荷物を届けて欲しいなどと依頼をしなくても自分たちで運べるだろうし、そういう伝手ならいくらでも持っているはずだ。
 それを不自然に思わせないためか、男はセグトには旅の途中だと言っていたのだ。

 まぁお人好しのセグトなら、そんな事をしなくても普通に引き受けていそうだが……。

 それはともかく、男はセグトに、宿に泊まっているから連絡を取りたい時は宿に伝言を頼んでくれと言っていたのに、オレ達は宿で伝言を頼まずに店に直接荷物を返しに来たのだから、向こうもこれがどういう状況なのかは理解できるだろう。

 そして、それから暫くして一人の男が現れた。

「……セグトさん。お待たせいたしました。よくここがわかりましたね」

 現れたのは、腹がでっぷりと出た中年の男。
 一見するとどこにでもいそうな、いかにも商人といった風貌の男だが、その細い目は笑顔と対照的に全く笑っていなかった。

「そそ、それは、こちらの懇意にしている冒険者の方がたまたま・・・・スクロッドさんのことを知っていまして……」

「はじめまして。オレはユウトと言います。ウォマ商会と言えば、この街でも大手の商会ですからね」

「それはそれは、わたくしも有名になったものですな。はははは」

 はい、ここまで三人とも顔は笑ってるけど、誰一人笑っていない。オレも含めてね。
 ちょっと胃が痛くなってきそうだ。

「それで、今日はどういったご用件で? もしかして紛失した・・・・荷物が見つかりましたかな?」

「ばぅ! ばぅわぅ!」

 見つかったよ~! それもこの建物でね! とパズは言っているが、大人しくしていなさい。

「ま、魔物!? ……いや、違いますな……犬? ですかな?」

「はい。私の従魔です。そして、この私の従魔がたまたま・・・・荷物を見つけてきてくれまして……」

 ここまでは全て打ち合わせ通りだ。
 そしてこのタイミングで、パズがアイテムボックスから荷物を取り出すことになっていた。

「に、荷物をお願いします」

 セグトがそう言うと、突然セグトの手の上に箱が現れる。

「ほう……どなたかアイテムボックスをお持ちの方がいらっしゃるようで……」

 オレは全然知らなかったのだが、行商人のセグトが言うには、アイテムボックスの能力は使えるだけで食べるのには困らないほど貴重なものらしく、そして商売をしている者にとっては、喉から手が出るほど欲しい人材なんだとか。

 そんな凄く貴重な能力なのに、うちのパーティー、オレ以外全員使える件について。

 まぁ今はそれは置いておくとして……。

「それで、スクロッド様の荷物は、これで間違いないですね?」

「……あぁ、これで間違いない……」

 と言って、スクロッドはしぶしぶ受け取ろうと手を伸ばしてきたのだが、そこでセグトが箱ごとランプを手元に引き戻した。

「それでは、遅くなってしまいましたが、あらためて隣街までお運びしますね」

「はっ?」

「いえいえ。たしか荷物は全く急がないので……という事でお受けしたと思いますが?」

「あ……いや、あれは……」

「紛失したと間違った・・・・報告をしてしまい、大変心配をおかけしましたが、うちに置き忘れていただけでして。今度こそしっかりと運びますので」

「な……何を馬鹿な事を、もう結構だ。ここで受け取ろう」

「いや~、しかし、もう代金をお支払い頂き、契約を交わしておりますので」

「だいたい、一度無くしておいて、今更信用などできん!」

「大丈夫ですよ。今お見せしたようにアイテムボックスに収納して運びますので」

「だから、もう結構だと言っている! くっ……今日は忙しいのだ。私に荷物を届けたという事で、もう完了でかまわん!」

 その言葉を聞いてから、あらためてまた荷物を渡すセグト。

「それでは完了という事で、サインを」

「くっ……おい! 受け取りのサインしておけ! これでいいか? 失礼する!」

 スクロッドは荷物を受け取ると、そう言い残して部屋を出ていったのだった。
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