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【第26話:椅子の下】

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「職業クラス『勇者』二人と『勇者(犬)』一匹に『獣使い』か……」

 思わず呟いたオレの言葉に、二人と一匹が反応する。

「馬鹿ね~。ユウト、もしかしてちょっと気にしてる?」

「ユウトさんは勇者召喚はされてないけど、転生者なんでしょ? もう十分異世界転生モノの主人公ルートだよ~」

「ばぅわぅ!」

 またパーティーの中で足を引っ張るのではないかという不安に思わず出てしまった言葉だったが、そんな事を全く気にしていないような二人の言葉に、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。

 最後のパズの「カッコ、ヒト」が付いてないから、ボクが一番だね! というのは意味不明だが……。

「悪い、ちょっと卑屈になっていたな。ありがとう。オレも出来るだけ頑張って強くなるよ」

「べべ、別にいいわよ。それに、さっき桧七美も言ったけど、私たちは実戦経験ほとんどないから……その……最初は逆に迷惑かけちゃうかもしれないわよ?」

「うん。私たちここに来るまでも、魔物はぜ~んぶ走って逃げてきたから、まだ一度も戦ってないもんね~」

「ちょ!? 桧七美~!?」

「隠したって仕方ないよ~」

 パズはオレの元に辿り着くまで、結構な数の魔物を蹴散らしながら来たと聞いていたので、その言葉はちょっと予想外だった。

「え? まだ一度も魔物と戦ったことがないのか?」

「わ、悪い……だ、だって、私たちついこの間まで、ただの中学生だったのよ!」

「だね~。身体はびっくりするほど思い通りに動かせるけど、やっぱり魔物と戦うとなると、ちょっと怖いかな」

 それはそうか……オレにとっては、この厳しい異世界『レムリアス』で一五年という年月を過ごしてきたから、魔物による脅威というのはとても身近なものだ。

 だが安全な世界で過ごしてきた二人は違う。
 それこそ、今まで身の危険を感じる事など、一度もなかったのではないだろうか。

「あぁ……ほんとに悪い。なんか勇者だという所にばかり目がいって、オレは全然本質が見えてないな。だけど……そう言う事なら任せてくれ! ……って言うほどの経験はないんだが、それでも冒険者として三ヶ月、魔物とは結構な数、戦ってきたからな」

 冒険者としての経験は、自信満々に言えるほどのものでは無いが、それでも前世の記憶を持ち、二人がどのような立場で、どのような想いを持っているのかなどは、この世界の普通の人間よりは理解してあげられるはずだ。

「まぁ戦いなどは徐々に慣れていけばいいさ。それまではオレとパズでフォローするから、それこそ気にするな」

「ばぅっふっふっふ♪」

「ユウトさん、ありがとう! じゃぁ、あらためて宜しくね!」

「よ、宜しくね。でも、パズに凄いどや顔されてる気がするのは、ちょっと腹が立つわね……」

 その後、二人と軽くこれからの事を話してから、オレはこの宿で起こっている問題に首を突っ込んでしまっている件もあわせて伝えることにした。

「パズから話は聞いていたが、まさか勇者である二人と一緒に行動する事になるとは思わなかったから……悪いな。だから、この件が落ち着くまで別行動でも……」

「何言ってるのよ! そんな話聞いて、放っておけるわけ無いじゃない」

「だね~。私たちに何か出来るかはわかんないけど? でも、もうパーティーメンバーなんだし一蓮托生だよ! あ。一蓮托生とか生まれて初めて使ったかも~?」

 なんか軽いノリで受け入れてくれたのは嬉しいが、本当にわかってるんだろうか。
 こういう問題の方が、下手をすると魔物との戦闘よりも厄介なのだが……。

「そうか。悪いな。でも、もし何か危なそうな時は、オレが逃げる時間ぐらいは稼ぐから」

「ばぅ!」

 パズが、凍らせるから大丈夫・・・! って言っているが、凍らせると問題・・だから逃げる時間を稼ぐつもりなんだけどな。
 魔物相手ならともかく、人相手の時はオレが気をつけなければ……。

「逃げるだけなら、問題ないわ」

「ここに来るまでもトラブルは全部逃げきって来たからね」

 トラブルって言うのが凄く気になるが、話がややこしくなりそうだから、こっちの件が終わってから聞くか……。

「まぁとにかく、それなら今から宿の女将のダリアナさんと、旦那のセグトさんの二人と話をする事になっているから、二人も一緒に来てくれ」

 ◆

 宿の建屋に入ると、まだ二人とも一階の食堂にいたので、すぐに声をかけた。

「話の途中だったのに、お待たせしてすみませんでした」

「あ、ユウトさん。荷物を取り戻して貰ったんですから、気にしないで下さい」

「そうそう。それに、どうせ暇で……あ痛っ!?」

「誰のせいで暇だと思ってるのよ……」

 中々の力で腿を抓られた気がしたが、見なかった事にしよう……。

 実際はセグトが引っかからなくても、強硬策で嫌がらせとかは平気でしてきたと思うけど、まぁ多少は反省した方が良いだろう。

 それよりも、荷物を返す時に、おそらくひと悶着あるはずだ。
 向こうが暴力に訴えかけてきた時のためにも、オレとパズも付いていくつもりではいるが、口裏を合わせておかないといけない。

「じゃぁ、これからの対応について話をしましょうか」

「はい。何から何まで本当に……宜しくお願いします」

「いえ。オレが自分から首を突っ込んだのですから、気にしないでください」

 と言ったのだが、逆にダリアナとセグトの二人に頭を下げられてしまった。

「だからこそですよ。ありがとうございます」

「わ、わかりました。でも、まだ問題は解決していません。話を進めましょう」

 ミヒメとヒナミも仲間に加わる事になった事だし、こういう面倒な事は早く片付けてしまいたい。

 この後、三〇分ほどかけて、どうやってランプを見つけて取り返したのか。そして、荒事専門と思われる店の者たちに襲われたこと、取り返した後のパズのひと騒動などを包み隠さず話した。

「……とまぁ、こんな事になってしまいました」

「そそそ、そんな大事になっていたのですね!?」

「危険な目に合わせてすみません!!」

「パズ……あんた、なにやらかしてるのよ……」

「ぱ、パズって、本当に凄い力持ってるんだね……」

 店の二人は驚き、双子の二人は呆れ、パズは椅子の下に隠れていた。

「ばぅ~」

 だって~っと、ちょっと落ち込んでるのでフォローしておくか。

「まぁでも、あんな事をしてくる奴らだから、遅かれ早かれ、ここにも力づくで来てたんじゃないかと思うんだ。だから、今回のパズのやらかした件を逆に利用して、有利に進められないかと思うんだが」

「ば、ばぅわぅ!」

「そうだ。パズが派手にやらかしてくれたからな。荷物を返しに行った時に何か言われたら、氷の件は知らぬ存ぜぬを通しつつも、オレ達にはそれだけの力があるのだと示して、毅然とした態度で挑んでみるってのはどうかな?」

「なるほど! それは良いかもしれないですね!!」

「セグト、あなたにそんな事できるの?」

「う……ユウトさん~……」

 いや、そんな大人の男性に泣き付かれても困るんですが……。
 まぁでも、荷物の返却時には危険を伴うかもしれないので、最初からオレとパズも同行するつもりだった。

「オレとパズも付いていくつもりなので、きっと大丈夫ですよ」

 そして、これからどうすれば良いか、皆で意見を出し合いながら、話を詰めていったのだった。
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