哀歌-aika-【R-18】

鷹山みわ

文字の大きさ
上 下
15 / 48
反転

反転-1-

しおりを挟む
「やっと会えた」
「どうして……」
「会いたかったから来た。それだけ」
「なん……で」
「さっきから質問ばっかだな」
ふふっと笑う。少しも悪いと思っていない顔だった。胡桃の体が引き締まる。
「……胡桃に会いたかった」
そう言って強く体を引き寄せられる。
全てが一瞬の事で、頭の回転は止まっていて現実味が感じられない。

我に返ったのは遠くで自分を呼ぶ尚人の声が聞こえた時だった。
「胡桃ちゃんー?」
「っ!」
目を見開く。
飲み物二つを手に持って自分を探す尚人が想像できた。

――君が最初から僕が無理していることに気づいて、声を掛けてくれたから。だから僕は、今こうやって楽しんでいられる。
胡桃ちゃんには感謝しかないんだ

今ならまだ間に合う、と理性の自分が警告した。
行かなきゃ。また辛くて苦しい日々が戻ってくる。トイレに行ってたんだと笑ってごまかせばいいだけ。
優しい日々が少し前で待ってくれているのに。
「離して、剛史さん……私」
「行くな」
「だめ、こんなの、だめだよ」
離れなきゃいけないのに、さらに強い力で体を抱えられた。動きたくても体格差で押さえられてしまう。
尚人の声が遠ざかろうとしている。いなくなってしまう。
少しだけ見えた光が、遠く。
壁にもたれて空を仰いでいる彼。押さえられた事によって胡桃は抵抗が出来なくなった。
尚人は行ってしまった。
やがて、剛史がはっきりと告げた。
「絶対に離さない」
声が聞こえなくなったのを見計らって、剛史は彼女の腕を無理矢理引っ張りながら一目散に進んでいく。

胡桃の理性が最終警告を鳴らした。

この先は破滅しかない、自分が惨めになるだけの未来しかない。
それでいいのか?
誰も許してくれない世界に戻る。
それでいいの?

脳内に鳴り響く鐘の音が、耳に痛い。

でも、自分を持って行く腕に逆らえないのは……もう本能が目覚めてしまっているからだと胡桃は理解した。

また、彼に期待し始めている。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

杏梨ちゃんは癒されたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:17

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:702pt お気に入り:592

【R-18】職場から男の上司と車で帰って来る妻

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:56

俺は彼女を奪われる

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

【完結】彼女が18になった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:47

【R-18】妻は店長と残業をする

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:43

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

現代文学 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:8

白い結婚なんてお断りですわ! DT騎士団長様の秘密の執愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:559

【R18】扇情の告白⑤ 熟れた花唇は若き雄の手で悦びの蜜を滴らす

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:57

処理中です...