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反転
反転-1-
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「やっと会えた」
「どうして……」
「会いたかったから来た。それだけ」
「なん……で」
「さっきから質問ばっかだな」
ふふっと笑う。少しも悪いと思っていない顔だった。胡桃の体が引き締まる。
「……胡桃に会いたかった」
そう言って強く体を引き寄せられる。
全てが一瞬の事で、頭の回転は止まっていて現実味が感じられない。
我に返ったのは遠くで自分を呼ぶ尚人の声が聞こえた時だった。
「胡桃ちゃんー?」
「っ!」
目を見開く。
飲み物二つを手に持って自分を探す尚人が想像できた。
――君が最初から僕が無理していることに気づいて、声を掛けてくれたから。だから僕は、今こうやって楽しんでいられる。
胡桃ちゃんには感謝しかないんだ
今ならまだ間に合う、と理性の自分が警告した。
行かなきゃ。また辛くて苦しい日々が戻ってくる。トイレに行ってたんだと笑ってごまかせばいいだけ。
優しい日々が少し前で待ってくれているのに。
「離して、剛史さん……私」
「行くな」
「だめ、こんなの、だめだよ」
離れなきゃいけないのに、さらに強い力で体を抱えられた。動きたくても体格差で押さえられてしまう。
尚人の声が遠ざかろうとしている。いなくなってしまう。
少しだけ見えた光が、遠く。
壁にもたれて空を仰いでいる彼。押さえられた事によって胡桃は抵抗が出来なくなった。
尚人は行ってしまった。
やがて、剛史がはっきりと告げた。
「絶対に離さない」
声が聞こえなくなったのを見計らって、剛史は彼女の腕を無理矢理引っ張りながら一目散に進んでいく。
胡桃の理性が最終警告を鳴らした。
この先は破滅しかない、自分が惨めになるだけの未来しかない。
それでいいのか?
誰も許してくれない世界に戻る。
それでいいの?
脳内に鳴り響く鐘の音が、耳に痛い。
でも、自分を持って行く腕に逆らえないのは……もう本能が目覚めてしまっているからだと胡桃は理解した。
また、彼に期待し始めている。
「どうして……」
「会いたかったから来た。それだけ」
「なん……で」
「さっきから質問ばっかだな」
ふふっと笑う。少しも悪いと思っていない顔だった。胡桃の体が引き締まる。
「……胡桃に会いたかった」
そう言って強く体を引き寄せられる。
全てが一瞬の事で、頭の回転は止まっていて現実味が感じられない。
我に返ったのは遠くで自分を呼ぶ尚人の声が聞こえた時だった。
「胡桃ちゃんー?」
「っ!」
目を見開く。
飲み物二つを手に持って自分を探す尚人が想像できた。
――君が最初から僕が無理していることに気づいて、声を掛けてくれたから。だから僕は、今こうやって楽しんでいられる。
胡桃ちゃんには感謝しかないんだ
今ならまだ間に合う、と理性の自分が警告した。
行かなきゃ。また辛くて苦しい日々が戻ってくる。トイレに行ってたんだと笑ってごまかせばいいだけ。
優しい日々が少し前で待ってくれているのに。
「離して、剛史さん……私」
「行くな」
「だめ、こんなの、だめだよ」
離れなきゃいけないのに、さらに強い力で体を抱えられた。動きたくても体格差で押さえられてしまう。
尚人の声が遠ざかろうとしている。いなくなってしまう。
少しだけ見えた光が、遠く。
壁にもたれて空を仰いでいる彼。押さえられた事によって胡桃は抵抗が出来なくなった。
尚人は行ってしまった。
やがて、剛史がはっきりと告げた。
「絶対に離さない」
声が聞こえなくなったのを見計らって、剛史は彼女の腕を無理矢理引っ張りながら一目散に進んでいく。
胡桃の理性が最終警告を鳴らした。
この先は破滅しかない、自分が惨めになるだけの未来しかない。
それでいいのか?
誰も許してくれない世界に戻る。
それでいいの?
脳内に鳴り響く鐘の音が、耳に痛い。
でも、自分を持って行く腕に逆らえないのは……もう本能が目覚めてしまっているからだと胡桃は理解した。
また、彼に期待し始めている。
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