あの駅のホームで

凸乃森

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一日目 MEET――出会い――

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「あの、定期入れ、落としましたよ?」
と、見知らぬ女性が僕に話しかけてきた。見たところ、女子高生のようだ。どこの高校だろう、名前なんていうんだろう、年齢は・・・と様々なことが脳裏にちらついたが、所詮は一時いっときの出会いだと思い、自分には春は訪れることはないと暗示しつつ、一秒前の思考を捨てた。自分が「年齢=彼女いない歴童貞」であることに虚しさを感じた。つまらない人生だ、とひとりごちながら拾ってもらった定期入れを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
自分がお礼を言い終えるとほぼ同時に、軽く頭を下げ足早に立ち去った。たった数秒ほどのやり取りだったが、なにしろ「女という生き物」を知らず、ほとんど母親以外の女性と接すことのないままここまで育ってきてしまったため、僕には何倍にも遅く感じた。さっきの僕は、どんな顔をしていたのだろう・・・緊張と女と接すことができたという、謎の喜びを感じていたので、きっとにやけ顔にでもなっていたのだろう。
「・・・み!・・・ずみ!」
遠くのほうから声が聞こえるような気がする。誰かが、僕の名前を呼んでいる?
「起きろ!安住あずみ!」
「は、はい!」
いつの間にか、眠りについていたようだ。僕は、再度、今朝けさの(僕の人生史上最高の)見知らぬ女性との出会いをおもいだした。一瞬の出来事、一時の出会いとはいえ、忘れられるはずがない。
「まったく・・・今日は転校生を紹介するぞー」
転校生?高校三年生の夏こんな時期に?珍しいものだ。おそらく、両親の転勤についてきたのだろう。別段、そう思わせる理由となる材料があって考えているわけではないのだが。
「入ってきていいぞー」
今年で数十周年を迎える学校の古くなった扉を転校生がガラガラ、と開けて入ってきた。どこかでみたことのあるような風貌だった。あ、と思わず口を開いてしまった。思い出した。「あの駅のホームで」定期を拾ってくれた人だ。
古田香奈ふるたかなといいます。半年というとても短い間ですがよろしくお願いします」
「古田の席は安住の横だから、安住、しっかり頼むぞ」
「は・・・はい」
「んじゃSHRショートホームルーム始めるぞー」
古田が安住の横の席に座った。彼女はこちらを向いて言った。
「これからよろしくね。安住君」
安住は混乱していた。女性に話しかけられたという驚きともう二度と会うことはないと思っていた人ともう一度出会えた気恥ずかしさが安住の脳の回路をショートさせていた。高校三年の終盤というところで初めての経験をした。これが僕、安住洋介あずみようすけと彼女、古田香奈の付き合うこととなったきっかけになることはこの時の安住が知る由もなかった。
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