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二日目 Progress――進展――
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「高校三年生」という単位は学生である人生の中で、最も大人に近い。故に、この世の上手い渡り方はわかっている、と僕は考えていた。例えば、お客さんとの付き合い方とか合理的な仕事の方法とか「女性との接し方」とか。しかし、現実はそう甘くないらしく本やテレビのようにはできなかった。僕が高校三年のころに出会った彼女、古田香奈には僕の目線を奪う≪何か≫があった。確かに、凡人よりは上の整った顔立ちをしていた。だが、僕の人生は氷河期を迎えているので、凡人より上だとはいえ、そうそう他の女性に惹かれるような男ではなくなっていた。僕は、僕を惹かせるその≪何か≫に興味がわいた。艶のある髪を後ろに束ね、ポニーテールにしていた。身長は165㎝前後。17歳の平均身長よりは少し高い。体は女性らしい曲線を主としたフォルムであり、薄く筋肉のついたバランスのいい体型だった。また、すれ違ったときに柔軟剤を思わせるいい匂いがした。けばけばしくない、さわやかな香りだった。本人曰く「洗濯物に柔軟剤はつかってないと思うなあ」だそうなので、おそらく家の香りだろう。結果、理由はよくわからなかった。結局、最後までわからないのだが。
「これからよろしくね。安住君」
「あ、うん。よろしく」
女性なら誰もが憧れるような長いまつげを携えた、二重の彼女の目がまっすぐこちらを見ていた。心臓がどくん、とはねた。またか。煩わしいパーソナリティを持って生まれてきた自分に苛立たしさを感じた。もっと話したいのに。もっと深き関係になりたいのに。目を合わせられただけでドキドキしてしまう。これは≪恋≫か?駄目だ。こんな感情捨てなければいけない。叶うはずもない夢を追いかけるのにはもう疲れたんだ。ふと、中学生の頃の自分が脳裏に浮かぶ。叶うはずもない夢を追いかけていたころの自分が。こんな過去消え去ってしまえばいいのに。見たくもない、思い出したくない過去こそ脳に刻み込まれてゆく。楽しかったことや嬉しかったことは、一次は脳に刻み込まれるものの、やがて脳全体に染みわたり養分となって消えていくのだ。
「今日さ、会った・・・よね?」
唐突に僕が話すべき本題を振られたので、「以心伝心だな・・・」と妄想じみたことを思ったが、自分自身の思考を無視して話を続けた。
「うん・・・その・・・今朝は定期入れ拾ってくれてありがとう」
違う。僕が言いたいのはこんなことじゃない。これが最近、噂になっているコミュニケーション障害ってやつなのか・・・もっと、もっと話を膨らませなければ。
「いいよ。別に。感謝されるようなことしてないよ?」
いや、でも、定期がないと、僕、通学できないし、としどろもどろな答えを返した。もう駄目だ。こんなナヨナヨした奴のことなんか相手にされなくなるに決まってる・・・春の訪れを感じたのもつかの間。また氷河期に戻ってしまうのか、と胸を締め付けられるような思いになった。そんな情けない僕を見ていた彼女はクスクスッと小さい笑みをこぼした。
「じゃあ、定期拾ったお礼に何かしてもらおうかな」
「う、うん。僕にできることなら」
「うーん・・・そうだなあ・・・」
彼女の顔が、パッと一輪の美しい花が咲いたような明るくなった。
「あ、そうだ!」
なるべく、楽しいことがいいな。草食系の肉食男子の安住はそう思った。
「これからよろしくね。安住君」
「あ、うん。よろしく」
女性なら誰もが憧れるような長いまつげを携えた、二重の彼女の目がまっすぐこちらを見ていた。心臓がどくん、とはねた。またか。煩わしいパーソナリティを持って生まれてきた自分に苛立たしさを感じた。もっと話したいのに。もっと深き関係になりたいのに。目を合わせられただけでドキドキしてしまう。これは≪恋≫か?駄目だ。こんな感情捨てなければいけない。叶うはずもない夢を追いかけるのにはもう疲れたんだ。ふと、中学生の頃の自分が脳裏に浮かぶ。叶うはずもない夢を追いかけていたころの自分が。こんな過去消え去ってしまえばいいのに。見たくもない、思い出したくない過去こそ脳に刻み込まれてゆく。楽しかったことや嬉しかったことは、一次は脳に刻み込まれるものの、やがて脳全体に染みわたり養分となって消えていくのだ。
「今日さ、会った・・・よね?」
唐突に僕が話すべき本題を振られたので、「以心伝心だな・・・」と妄想じみたことを思ったが、自分自身の思考を無視して話を続けた。
「うん・・・その・・・今朝は定期入れ拾ってくれてありがとう」
違う。僕が言いたいのはこんなことじゃない。これが最近、噂になっているコミュニケーション障害ってやつなのか・・・もっと、もっと話を膨らませなければ。
「いいよ。別に。感謝されるようなことしてないよ?」
いや、でも、定期がないと、僕、通学できないし、としどろもどろな答えを返した。もう駄目だ。こんなナヨナヨした奴のことなんか相手にされなくなるに決まってる・・・春の訪れを感じたのもつかの間。また氷河期に戻ってしまうのか、と胸を締め付けられるような思いになった。そんな情けない僕を見ていた彼女はクスクスッと小さい笑みをこぼした。
「じゃあ、定期拾ったお礼に何かしてもらおうかな」
「う、うん。僕にできることなら」
「うーん・・・そうだなあ・・・」
彼女の顔が、パッと一輪の美しい花が咲いたような明るくなった。
「あ、そうだ!」
なるべく、楽しいことがいいな。草食系の肉食男子の安住はそう思った。
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