原罪の在処

ねむねむねむね

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「悲哀」

さん

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「いつまで寝てるんだ、この愚図!」

ばちん。怖い声と、痛い体で、おめめが覚める。
母さんが死んじゃってから、ぼくは村の誰かに引き取られた。「奴隷」として過ごすんだ、って言われたけど、どういう意味なんだろう。いい言葉じゃないことは、なんとなく分かるけど。

「早く仕事をしろ!誰のおかげでこの家に居させてやっていると思っている!!」
「はい…。」

朝は井戸からお水を汲む。それで、一日ずっと、たくさんある服を洗って、大きなお家を綺麗にする。それが、このお家に来てからの毎日。
重いお水を「いつまでかかっている!」痛い。汚れちゃっている服を「こんなところでやるな!」痛い。広いお家を「目障りだ!」痛い。
お仕事をしている時に、このお家の人はいつもぼくに大きな声を出しながら、殴ってくる。叩かれるのも嫌、打たれるのも嫌。

痛いよ、やめて。

そう言っても、彼らはケラケラ笑っている。たのしそうに、おかしくてたまらないように。ぼくが泣きそうになると、すごく嬉しそう。
男の人は怖い大きな声を、女の人は嫌そうなお顔を、大きい男の子は殴って、それより小さい男の子は叩いて、ぼくを痛くする。
「魔女の子」だから、「悪魔の子」だから、何をしてもいい、罰を与えてやってるんだ、って。

どうして?ぼく、なにもしてないよ。母さんも、なにもしてなかったのに。誰がそんなこと言ったの。誰がぼくらを痛くしたの。

お家のすみっこ、今は使われていない埃だらけの物置に押し込められて、ずっと考えていた。ぐるぐる、ぐるぐる。

「グララアガア。」
「!」

ずっと呼ばれなかった、ぼくの名前。
ここには誰にも居ないはずなのに、どこから聞こえたんだろう。キョロキョロと辺りを見渡す。

「ここにはお前以外にも、居るだろ?俺のことを忘れてしまったのか?」

ぼく以外……。もしかして!
積み重ねていたたくさんの物をどかす。母さんが残してくれた唯一の、ぼくが手放しちゃいけないから、見つからないように隠したーーー

「サンタマリア!」
「……ああ、お前のサンタマリアだ。こうして話すのは初めてだな。」

まさか、サンタマリアが喋るなんて!
びっくりしたけど、母さんはサンタマリアを「神からの贈り物」って言っていたから、特別なお花だから、喋ることが出来たんだ!!

「グララアガア、お前はよく頑張っているな。」
「え?」
「あいつらに躾という名の鬱憤晴らし……痛いことをされながらも、ちゃんと仕事をしているだろ?」
「え、と、それは、だって、お仕事だから……。」
「普通は嫌な気持ちになって仕事なんか放棄するんだぞ。それなのに真面目に仕事をして……お前は優しすぎる。クソみたいな環境ここでまで、いい子じゃなくていいのにな。」
「……ぼく、いいこ?」
「お前がいい子じゃなかったら誰がいい子になるんだよ。」

「はあ、」ため息をつきながら、それでも優しい声でそんなことを言うから、ぼくは、ぼく、は。

ぽたぽたと、涙がお顔を濡らす。本当は大きく泣きたいけど、そうしたら、きっとお家の人がやってきちゃうから。鼻水もずびずび出てきて、止められない。

「泣けれる時に泣いておくといいさ。この場所には俺しかいないから。
ーーーよく、頑張ったな。」

ぼくが泣き疲れて眠るまで、もしかしたら眠ってからも、サンタマリアはきれいに咲いていた。

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