堅物王子の側妃は降嫁と言われたので王宮騎士になって返り咲く

あさ田ぱん

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一章

13.ディボル・セノ

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「アナベル様は隠しているおつもりでしょうが、軍からの荷物は検閲にかけられますので、何が送られたか、一言一句、記録されています。ですので、もう馬鹿なことはおやめください。以降、召使いから受け取られますように 」

 ギゼルハールの愛妾、ティボル・セノに、はっきり言い切られてしまい、アナベルは脱力した。先日ギルフォードからもらった貫頭衣も、秘密にした方がいいと思ってまだ袖を通していなかったのに、知られていたなんて。

「騎士団でも、毎週妖精があらわれると話題になっているようです。おかしな真似をするものがいないとも限らない。用心した方がいいでしょう。では、忠告いたしましたよ?」

 ディボルはそう言って、アナベルの返事も待たずに立ち去った。

 


 翌日、アナベルはどうせ知られているならと、ギルフォードから贈られた貫頭衣に袖を通した。アナベルの瞳より少し薄い明るめの緑色の生地と、母に貰った、新緑のピアスがよく合う。
 朝食の用意に来た召使いはアナベルを見てぎょっとしていたので、似合っていないのかと少し心配になった。しかしそれ以上に上質な生地は着心地が良く、幸せな気持ちになった。

 アナベルはいつもの毒入りの朝食を少しだけ食べて、具合が悪いふりをしてから、図書室へ出かけた。

 後宮を出て、王城の脇を通り過ぎると、騎士団の詰め所の手前に林がある。整然と管理された林なのだが、一本だけ桃の木があって、食事をあまり食べられないアナベルはいつもその木に助けられていた。
 今日も一つだけ実をもいで、丁寧に皮を剥き甘い実をゆっくり堪能する。

「ご馳走様… 」
 
(騎士団の詰め所に行かなければ、この木を見つけられなかった。きっかけをくれた、ギルフォード様にも感謝いたします。)

 アナベルは、イーリスと、ギルフォードに感謝を捧げた。

 桃を食べた後、図書室に着くと、歴史書や過去10年分の官報、議会議事録を手に読書室へ向かう。読書室は個室で、貴族や高位官吏の勉強用に作られたらしい。南向きの大きな窓から日が降り注いで、自室よりもずっと居心地が良かった。
 アナベルはまず、過去の公共事業の受注先を書き出した。それを元に予算表や、税額、寄付額などを付け合わせ逆算していく。

(わかるだけで途方もない量だ。でもやるしかない。)

 夢中になっていると、喉の渇きでだいぶ日が落ちている事に気がついた。そろそろ帰らないと、と、部屋を出ようとしたが、扉が外側から施錠されていて出る事ができない。読書室は一階だから窓から出ることができればと思い、すぐに確認したが同じだった。

(閉じ込められた!)

 そして、扉や窓からは他人の魔力を感じる。何か、魔術を掛けられたのだろう。後宮は女性ばかりと侮って、単独で行動していたことを悔やんだ。
 アナベルが使える魔法は「浄化魔法」のみ。兄達には「掃除魔法」と呼ばれて重宝されていたが、身体を綺麗にしたり、服の汚れを取ったりといった生活魔法の一種で、実戦では役に立たない。
 後宮で妃の帯剣は許されておらず、丸腰だ。どうしたものかと逡巡していると、扉が開いて、ローブを深く被った覆面の男達が見えるだけで五人、入ってきた。

 先頭の男は、腰の剣を抜く。

「暴れなければ、殺しはしない。少し傷物になってもらうだけた 」

 男はそう言うと、にやりと笑った。そして他の者達も次々に剣を抜く。

 アナベルは、窓際まで後退った。
 
(もうだめだ……)

  そう思った時、窓に衝撃が走り、ガラスが粉々に砕け散った。男達が衝撃に怯んだ隙に、アナベルは窓から外に逃げ出す。

「こちらへ!」

 アナベルを大声で呼んだその人は、腕を引いてアナベルを物陰に隠した。  


「あ、ありがとうございます。ディボル様……!」


 アナベルを助けたのは、ディボル・セノだった。
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