43 / 44
三章
6.協力
アナベルはまた石造の部屋に戻された。
体力を温存するため、拘束されたまま、横になる。
横になり今日のことを思い返すと、アナベルは自分で自分のことが不思議になった。
(こんな事は今までなかったはずだが…)
以前、ディボルが怪我をした時、「あなたの涙を拭くと気分が良くなる」と言われた事がある。あれはどのような意味だったのだろうか?
アナベルが作るお守りがよく効いたと言われたときも、相手の気の持ちようだと思っていたのだが…。
考え事をしていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
「起きたか」
次に目が覚めた時、部屋の中には先ほどの短髪の男が居た。
「アレク様がお話したいとの事で、来ていただきたい」
先ほどとは異なる、丁寧な仕草で立たされ、部屋から連れ出される。
連れていかれたのは、食堂だった。ここはひょっとして修道院のようなところなのかもしれない。長いテーブルが複数配置されており、大勢で食事する様子が目に浮かぶ。
アレクと呼ばれた女性は先ほどとは違い、余裕のあるブラウスにスラックス姿で現れた。
「食事をしながら話しましょう。貴方の拘束は解きますが、念のため、魔力封じの腕輪は付けさせていただきます」
アナベルは拘束を解かれ、腕輪をつけてから席についた。
「早速ですが」とアレクが切り出す。
「私はアレクリゼス・ルラカと申します。亡くなった父から修道院を引き継ぎ、修道騎士団長を努めております。この度の私たちの乱暴な行いをまず、謝罪させてください」
「………」
アナベルは、肯定も否定もしなかった。もし矢が当たっていたら、ギルフォード達の被害は甚大だったからだ。
「あなたの事を調べさせてもらいました。お会いできて光栄です。『イーリスの神子』、アナベル様」
アレクが口にした『イーリスの神子』とは、今までも時々呼ばれて来たのだが…。今回の出来事と関係あるのだろうか?
そう考えると、アナベルは混乱しそうだった。
「アナベル様と同じように、私たちもローゼンダール国教会ではなく、土地の神、冥府の神ミアレルを信仰しております」
「ミアレル…?」
「ええ。死者の魂と眠りを統べるミアレルは旱魃などの自然災害に苦しむ我らを太古より救って来ました」
しかし、ここはずいぶんと静かだ。アナベルが辺りを見回したので、アレクはその疑問に気がついたようだ。
「信仰の中心はこの修道院が担っていたのですが、教理の違いから二派に別れました。今は市井のものたちとダルムアイン領主、ここの修道騎士団に分裂している状況です」
「…ダルムアイン領主様と、何故仲違いを?」
「市井の者たちはスタンピードが起こると湖のほとりに住む魔獣、いえ、あれは山犬なのですが…、それを殺すと言い出したのです。私達はそれを拒否しました。その山犬こそが我らの神、ミアレルなのですから」
「山犬、しかも魔獣が、神?」
「そうです」
「なぜ?」
「それをアナベル様に、なぜミアレルが魔獣にその身を堕としたのか…、聞いていただきたいのです。神の声を聞くと言う『イーリスの神子』である、あなたに…!」
アレクに懇願され、アナベルは困ってしまった。アナベルは神の声など、聞いた事がないのだ。
「そもそも市井のもの達と対立したのは、ミアレルが『犬のわけがない』という別の教理……、長い歴史の中で、思い上がった人間が作った教理のせいなのです。私はそれを明らかにしたい」
「アレク様…」
「まさか、ダルムアイン領主まで、それを信じ離脱するとは。私は……」
アレクは涙を流していた。アナベルはもし自分がその立場に置かれたらどうしただろうと考えた。
「私も、もし『イーリスを焼き払う』と言われたら、この身が裂けそうです」
「アナベル様!協力いただけるなら、私も貴方のために尽くします!」
「しかし私は、あなた達の奇襲にあい、捉えられて乱暴されました。もしその奇襲が上手く行っていたら、私の仲間達がどうなっていたかと考えると、恐ろしい。簡単に協力するとは言えない」
「ミアレルとその根城を焼き払う為の武器を、見過ごす事が出来なかった。あなたを傷つけた事は謝罪するしかありません」
「……」
このままアレクと問答を続けても、前に進めない。アナベルには一つ、考えが浮かんだ。
「元はひとつだったと言う事は、相手について、精通しているのでしょうか?」
「ある程度は」
「私たちの目的は、エメルソン殿下含む仲間の救出です。彼らはダルムアイン領主に捉えられて時間も経っています。何か情報…。いえ、解放に向けて尽力頂けるのなら、私も微力ですが協力します」
「……わかりました」
アレクはそう言うと、部屋の隅に控えていた短髪の男を呼んだ。
「アナベル様。少しお待ちください。この者に探らせます」
体力を温存するため、拘束されたまま、横になる。
横になり今日のことを思い返すと、アナベルは自分で自分のことが不思議になった。
(こんな事は今までなかったはずだが…)
以前、ディボルが怪我をした時、「あなたの涙を拭くと気分が良くなる」と言われた事がある。あれはどのような意味だったのだろうか?
アナベルが作るお守りがよく効いたと言われたときも、相手の気の持ちようだと思っていたのだが…。
考え事をしていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
「起きたか」
次に目が覚めた時、部屋の中には先ほどの短髪の男が居た。
「アレク様がお話したいとの事で、来ていただきたい」
先ほどとは異なる、丁寧な仕草で立たされ、部屋から連れ出される。
連れていかれたのは、食堂だった。ここはひょっとして修道院のようなところなのかもしれない。長いテーブルが複数配置されており、大勢で食事する様子が目に浮かぶ。
アレクと呼ばれた女性は先ほどとは違い、余裕のあるブラウスにスラックス姿で現れた。
「食事をしながら話しましょう。貴方の拘束は解きますが、念のため、魔力封じの腕輪は付けさせていただきます」
アナベルは拘束を解かれ、腕輪をつけてから席についた。
「早速ですが」とアレクが切り出す。
「私はアレクリゼス・ルラカと申します。亡くなった父から修道院を引き継ぎ、修道騎士団長を努めております。この度の私たちの乱暴な行いをまず、謝罪させてください」
「………」
アナベルは、肯定も否定もしなかった。もし矢が当たっていたら、ギルフォード達の被害は甚大だったからだ。
「あなたの事を調べさせてもらいました。お会いできて光栄です。『イーリスの神子』、アナベル様」
アレクが口にした『イーリスの神子』とは、今までも時々呼ばれて来たのだが…。今回の出来事と関係あるのだろうか?
そう考えると、アナベルは混乱しそうだった。
「アナベル様と同じように、私たちもローゼンダール国教会ではなく、土地の神、冥府の神ミアレルを信仰しております」
「ミアレル…?」
「ええ。死者の魂と眠りを統べるミアレルは旱魃などの自然災害に苦しむ我らを太古より救って来ました」
しかし、ここはずいぶんと静かだ。アナベルが辺りを見回したので、アレクはその疑問に気がついたようだ。
「信仰の中心はこの修道院が担っていたのですが、教理の違いから二派に別れました。今は市井のものたちとダルムアイン領主、ここの修道騎士団に分裂している状況です」
「…ダルムアイン領主様と、何故仲違いを?」
「市井の者たちはスタンピードが起こると湖のほとりに住む魔獣、いえ、あれは山犬なのですが…、それを殺すと言い出したのです。私達はそれを拒否しました。その山犬こそが我らの神、ミアレルなのですから」
「山犬、しかも魔獣が、神?」
「そうです」
「なぜ?」
「それをアナベル様に、なぜミアレルが魔獣にその身を堕としたのか…、聞いていただきたいのです。神の声を聞くと言う『イーリスの神子』である、あなたに…!」
アレクに懇願され、アナベルは困ってしまった。アナベルは神の声など、聞いた事がないのだ。
「そもそも市井のもの達と対立したのは、ミアレルが『犬のわけがない』という別の教理……、長い歴史の中で、思い上がった人間が作った教理のせいなのです。私はそれを明らかにしたい」
「アレク様…」
「まさか、ダルムアイン領主まで、それを信じ離脱するとは。私は……」
アレクは涙を流していた。アナベルはもし自分がその立場に置かれたらどうしただろうと考えた。
「私も、もし『イーリスを焼き払う』と言われたら、この身が裂けそうです」
「アナベル様!協力いただけるなら、私も貴方のために尽くします!」
「しかし私は、あなた達の奇襲にあい、捉えられて乱暴されました。もしその奇襲が上手く行っていたら、私の仲間達がどうなっていたかと考えると、恐ろしい。簡単に協力するとは言えない」
「ミアレルとその根城を焼き払う為の武器を、見過ごす事が出来なかった。あなたを傷つけた事は謝罪するしかありません」
「……」
このままアレクと問答を続けても、前に進めない。アナベルには一つ、考えが浮かんだ。
「元はひとつだったと言う事は、相手について、精通しているのでしょうか?」
「ある程度は」
「私たちの目的は、エメルソン殿下含む仲間の救出です。彼らはダルムアイン領主に捉えられて時間も経っています。何か情報…。いえ、解放に向けて尽力頂けるのなら、私も微力ですが協力します」
「……わかりました」
アレクはそう言うと、部屋の隅に控えていた短髪の男を呼んだ。
「アナベル様。少しお待ちください。この者に探らせます」
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
罪人として辺境へ送られた僕は騎士団長の腕の中でしかうまく眠れない
cyan
BL
クライスラー侯爵家のクリストフ様に婿入りすることが決まっていたエリアス・フェデラーは、兄を好きすぎるクリストフ様の妹、リリア嬢の罠にハマって婚約破棄されることになった。
婚約破棄されるくらいならまだよかったんだけど、それだけでは終わらなかった。
リリア嬢を階段から突き落とした容疑がかけられたんだ。まったく身に覚えがない。
「僕はやっていません」
エリアスの声は誰にも届かなかった。
──夢も希望も失い全てを諦めたエリアスは、辺境の地で居場所を見つけた。
※シリアスあり
※10万字ちょっと超えるくらいの作品です
※他サイトにも掲載中
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして
おげんや豆腐
BL
月の獅子に愛されし国アスランにおいて、建国から仕える公爵家には必ず二人の男子が生まれた。
兄弟はそれぞれ違った成長をする。
兄には替えの効かない無二の力を、弟は治癒とそれに通ずる才覚に恵まれると伝えられている
そしてアスランにおいて王族が二度と癒えぬ病魔に侵された際には、公爵家の長男はその力を行使し必ず王族を護ることを、初代国王と契約を結んだ。
治療魔術の名門に生まれ、学園卒業間近の平凡な長男ニッキー
優秀な弟であるリアンからは来損ないと蔑まれて、時にぞんざいな扱いをされながらもそんな弟が可愛いなと思いながらのんびり過ごし、騎士になった逞しい婚約者とたまに会いながらマイペースに学園生活をおくっていたのだが、突如至急帰って来てほしいと父からの手紙が届いた事により緩やかな生活は終わりを迎える
終わりへと向かい、終わりからはじまる、主人公が幸せへとのんびりと一歩一歩進むお話
ハッピーエンドです