愛した人は他人の番〜事故番夫に冷遇されているΩを甘く溶かしたのは美貌のΩでした〜

あさ田ぱん

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11.王家の泉

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 出発の日はまだ議会中であった。ユリウスは王家の馬車で先に別荘へ向かい、夫達は安息日の前日夜、合流することになった。


「ユリウス、ようやく会えましたね!」
「オーレル…!」

    王家の馬車で迎えに来たオーレルは、会うなり、ユリウスを抱きしめた。

「手紙の返事がいただけなかったので、情けなくもまた、母の名を使ってしまいました」
「そんな、オーレルは情けなくなんかありません。私はひょっとして、アデルが手紙を隠しているのではと思っていたのに、何も行動できないでいました」
「ユリウス…」
「オーレルに会えるだけで、嬉しい」

 どちらかとも無く、口付けていた。抱き合って、 オーレルと直接触れ合うと、安心する。

 しかし、オーレルの首元に巻かれたチョーカーを見て、ユリウスは泣きそうになった。

「オーレルに買っていただいたチョーカー、取り上げられてしまったんです…」
「アデルにですか…?そんなこと、気にしないでください。また注文すればいいんですから」

 オーレルに頭を撫でられ慰められると、自然と笑顔になれた。


 それから、馬車で二時間ほど北へ進む。朝、アデルを見送って直ぐ出発し、昼前には到着した。

 王家の別荘は、まるでおとぎ話の中にでてくるような、小さく可愛らしい建物だった。周囲には豊かな自然が広がり、鳥のさえずりと風の音が心地よい。
 
 別荘に着くと、オーレルは早速、ユリウスに王家の泉を見に行こうと誘った。

「王妃様は、いらっしゃらないのですか?」
「ええ…。急遽予定が入ったと言うことになっています。夫達も到着は夜ですから、それまでユリウスと、二人でゆっくり過ごせます」

 ユリウスはニコリと笑って、ユリウスを庭の奥へ連れて行く。

 王家の泉は庭の奥、草木の影にひっそりと佇んでいた。蔦模様の浮彫が刻まれた白い石の水盤から、澄んだ水が音もなく湧き出している。そのまわりには名も知らぬ小花たちが、慎ましく彩りを添えていた。

「これが王家の泉なのですね。素敵だなぁ…」
「なかなか子を授からなかった昔の王妃が、この水で懐妊したと言われています…。それで、前々から行ってこいと、母に言われていたのです。サロンの後からは、ユリウスも誘うようにと」
「そうでしたか…」

   王妃がユリウスやオーレルを心配していたのも本当だったようだ。

「王妃様の気遣いを利用するようで、少し心が痛みますね…」
「はは…、ユリウスは優しいな。じゃあ、子作りする…?私と…」

   オーレルはユリウスの腰を抱いて、頬を擦り寄せた。密着すると、先日のことを思い出してしまう。

「…でも、私たちは、夫がいる身です。妊娠は、その…」
「心配いりません。悔しいけど、Ωは孕む力は強くても、孕ませる力はやはり、αに遠く及ばない…」
「オーレル…」
「…それと私は、離婚を申し出るつもりで、ここに来ました」
「え…」

 離婚、の言葉に、ユリウスは固まった。

 ユリウスも、離婚は考えていたが、アデルに「第二夫人を娶るつもりがない」と言われてしまい、どう切り出したら良いのか、分からなくなっていた。

「すみません。驚かせてしまいましたね」
「いえ…」
「ユリウスにも、離婚しろ、なんて言うつもりはありませんから、安心して。これは、私がずっと、考えていたことなのです」

 オーレルはユリウスが困ったのを察して、微笑んで優しく抱き寄せる。背中をさすっていたオーレルは、あ、と声に出すと、泉を指差した。

「…ユリウス、雨だ…。ほら、見て?」
「本当だ…」

   辺りは晴れているのに、泉の水面にはぽつぽつと、雨粒が落ちていた。

「一気に降るかもしれない。戻りましょう!」

   走って戻る間、どんどん空が暗くなり、邸に入って直ぐ、ざあ、と雨が降り出した。雨足はどんどん強まる。昼食を食べて、夕方になると、雨は一層勢いを増した。

「ヴァルター公爵家の蒼翼鷲が参りました。別荘に続く道付近の川の水位があがり、今日は来られないと」
「すると、アデルも…?」
「同じ状況でしょう」

(道が悪くなれば住民は困るだろう。それなのに不謹慎だが、夫達が来ないことにほっとしてしまった…)

 ヴァルター公爵とオーレルの離婚の話し合いが行われるのも、その時、ユリウスがどう感じるかも、考えるのが少し、怖かった。

 外の喧騒とは裏腹に、ユリウスとオーレルはゆっくり食事をし、風呂に入った。

(本当の『静養』になった…)

 そしてユリウスは寝る前に寝酒と、先日作ったオルゴールをもって、オーレルの寝室を訪ねた。

 部屋に入ると、オーレルの香りで、むせ返りそうになる…。

(これは…)

「オーレル、これは…!?」

 オーレルはしどけない姿で、窓際に佇んでいた。ユリウスを見ると、花が綻ぶようにふわりと微笑む。

「ユリウス…」
「オーレル…、まさか。発情している…?」
「ええ…」

 ユリウスは慌てて、持ってきた荷物をテーブルの上に置くとオーレルに駆け寄った。

「抑制剤は…?」
「持っている。夫が来る前に、飲むつもりだったんだ。でも、今日はユリウスと二人きりになったから…。その…」
「飲まなかった…?」
「…先日の、ユリウスのように…。私もユリウスと発情期を過ごしたくなった。だめ、だろうか…?」
「オーレル…!」

 ユリウスは、オーレルの熱い身体を抱きしめた。

「オーレル、私で良いんですか?Ωの、オーレルに助けられてばかりの、私で…」
「ユリウス、貴方がいい…。今度は私を助けて下さる…?」
「勿論…」

 ユリウスはオーレルを抱きしめると、ちゅ、と口づけた。一度唇を離すと、ぎこちないエスコートで、彼を寝台へ連れて行く。

 寝台にそっとオーレルを横たえると、ユリウスは上から、覆いかぶさった。手を握って、見つめ合う。

「オーレル、初めてです。こんな、誰かに、自分から『して差し上げたい』と思ったのは…」
「ユリウス…。ユリウスの初めてが私で、嬉しい」
「私も、オーレルに貰っていただけて嬉しい。好きです。心から…」

 
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