猫の首に鈴をつけたい騎士団長とおひさま浴びてヘソ天で寝たい闇の教祖

あさ田ぱん

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1.私は暗黒神教団(オルド・テネブラルム)教祖である!

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 私は暗黒神教団オルド・テネブラルムの教祖である…。

 そして、弱冠十八歳にして、王都の貧民街の末端にある、忘れ去られた孤児院の、院長でもある。

「ねーねー、ノワール!猫ちゃんできたあ~」
「見てえー、僕も~!」
「うんうん、上手!よくできましたあ!」

 私…、もとい、俺は、子供達からちょっと歪な黒猫のチャームを受け取った。これはまだ売り物にはならないので、食堂にある飾り棚に並べる。

 そこは昔、祭壇であったらしい。ルミニア王国教会の神が飾られていたようだが、今は孤児院に住んでいる猫のルナちゃんの寝床兼、子供たちの作品棚となっている。

「ねーねー、ノワール、次は何して遊ぶ?」
「次はね、みんなでお祈りをします」

 ルミニア王国教会は『光』こそ神であり、ここにいる子供達、俺も含めた『闇』属性持ちを迫害した。自分達は神に仕える資格を与えられなかったのだ…。
  
 だから俺たちはいつも俺が作った架空の、暗黒神オルドに祈りを捧げている。姿形はルナがモデルの、可愛らしい神様だ。

「お守りが売れますよーに」
「おいしいご飯が食べられますように~」
「おうちにかえれますように」

   孤児院には今、十歳から四歳の三人の子供がいる。上からカイ、リオ、クレイだ。

 三人のうちカイとリオの二人は生まれてすぐ、その容姿が黒髪、黒目であったことからここに捨てられたのだが、クレイは三歳まで家庭内で世間から隔離され育てられたのち、ここに連れてこられた。

 生まれてすぐ捨てられた者たちは俺同様、そもそも親を知らないから、『おうち』を恋しがったりしないが、家庭を知っている場合は別だ。

 まだ、心が追いつかないのだろう。俺は、小さい頭をぽんと撫でた。

「…そうだな、じゃ、早く魔法を覚えよう」

 ここにいる子供達は、目と、髪色を変える魔法を覚えるまで外に出られない。だから毎日、魔法の練習をしているが、大抵、安定して使えるようになるのは十五歳くらいだ。

  俺は子供達に魔法を教えるため、分かりやすくゆっくりと詠唱する。

我が身よ変われコルプスムータ

 すると、闇の力が身体を包んでいく…。この変身の術は人を欺くとして恐れられている、闇属性の固有魔法だ。

 そして…。

「にゃんっ!」

 俺は子猫に変身した!

 大抵の闇属性持ちの魔法は『変身』ではなく『変化』で、髪と目の色を変える程度だ。しかし俺は姿形、大きさまで変えられる。それは強力な魔力を保有している証なのである。

「ノワール、かわいー♡」
「なでなでさせてー!」
「すご~い!」

 色んな姿になってみたが、この姿が自分的に一番しっくりくる。

 毛の模様は自分の髪色である黒ハチワレで、腹は色白の肌に合わせて真っ白。足下には上品な白の靴下を履いている、気品ある『黒ハチワレ白靴下子猫ちゃん』なのだ!

 自分で言うのは何だか、この猫の姿はとにかく愛らしい。黒だけだと『魔法使いの使い魔』と勘違いされるが、俺は白い腹の毛と、足に白い靴下を履いたような模様が神がかり的可愛らしさを演出しているため、誤解されたことは無い。しかも毛はモフモフ、目はくりくり、体は手のひらサイズ。

 俺がちょこんと座るだけで、人々はだらしなく頬を緩める。
  
「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」
「今日は金曜日だからミサなんでしょ?わかった。ちゃんと三人で留守番してる!」
「にゃにゃにゃっ!」
「いってらっしゃーい!」

 子供たちに見送られて、どうみても子猫の俺は孤児院を出ると夜闇に紛れて、歓楽街へと向かった。




 俺の首輪は、人間のときはチョーカーになっており、伸縮自在。チョーカーには、暗黒神オルドの印である黒猫のチャームがついている。チャームはマジックバッグになっていて、服や、小道具をしまえる仕様だ。

 歓楽街のいつもの定位置、娼館の前につくと、人間に戻ってバッグから服を取り出し、着替えをした。そして仕上げに、その昔ルミニア王国を恐怖のどん底に落としたという、闇竜の仮面を被る。

「あー。気が進まないなあ…」

 本当は可愛いものが大好きだから、仮面も猫にしたかったんだけど…。そこは『暗黒神の教祖』なのだから、それ『らしさ』演出しないとまずいだろうということで、しぶしぶ闇竜を選んだのだ。

 着替えを終えるとマジックバッグから木の箱を取り出し、その上に天鵞絨の布を被せ、ミサ用の商品を並べていく。これは、子供達が作ったものではなく、俺が丹精込めて作り、祈りを込めたもの。ノワール特性、暗黒神オルドのお守りである…!

「 暗黒神オルドの教祖さまぁー、精が出ますね」
「あ、娼館の…、エミリアさま…!」
「今日も初めて客を取る子がいてね。お守りを5個、いただけますか?」

 エミリアはこの娼館の主人だ。昔は自らも娼婦をしていたという、亜麻色の髪が美しい、中年女性である。しかも 暗黒神オルドに理解があり、場所を貸してくれるばかりか、お守りまで買ってくれる。

 エミリアにお守りを渡し、銀貨をニ枚受け取った。お守りは孤児院の貴重な収入源なので、ものすごーくありがたい。

「どうぞ、こちらを」
「まあ可愛らしい…!教祖様、ありがとう!」

 そう、暗黒神オルドのお守りはうちのルナがモデルだから大変可愛らしいのだ!

 喜んでもらえて良かった!
 
    

 毎週金曜日のはだいたいこうして始まる。あとは、道行く人に、積極的に声をかけて、客を探す。
    暗黒神オルドのミサは教会で祈るのではなく、道行く人に呼びかける形式なのだ!

暗黒神オルドのお守りだよ~、魔除けに一つ、いかがですかぁ~?」
暗黒神オルドさまぁー!私には祈祷をお願いします!」

   俺が客引きをしていると、一人の年老いた男が現れた。髪色も瞳も紫色の、疲れ果てた風体の中年男だ。

 ーーこいつ、孤児院の、元院長である。

「たまには、お守りはいかがですか?」

 祈祷はお守りの半額の設定なのだ。だからケチな元院長は、お守りを買わず、いつも祈祷だけですませる。

暗黒神オルドの教祖様の力は強大。ただ手をかざして頂くだけで、いいのです!」
「は、はあ…」

   元院長は、ある日『子育てに疲れました』という置き手紙を置いて、孤児院を出てった。普通の孤児とは違い、黒目黒髪、闇属性の俺達には、別の孤児院へ行くという選択肢はない。当時まだ、十歳にも満たない子供だった俺は『大人に頼らず生きて行けるのか』と、絶望したものだ。

 しかし、年長の俺は、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかなかった。

 子供達だけで生きていくために、知恵を絞り、捻り出したのが、「暗黒神オルド教団」を作ること…。

 おどろおどろしい仮面とマント、教祖という肩書きで自分を大きく見せ、悪い大人から身を守った。生活費は黒猫のお守りを売ったり、祈祷をして稼いだ。

 特に魔法を仕込んだり、細工をしている訳ではないのだが、お守りも祈祷も、まあまあ売れる。

 元院長は俺に魔法を教えた、いわば師匠。その元院長から祈祷で金を取るのは複雑だけど、収入になるのだから、致し方ない。

「これで心置きなく今日も天国へいけます!」

 ヤツは俺に銅貨を二枚手渡すと、上機嫌で娼館へ入っていった。暗黒神オルドの祈祷で行く天国って、どこなんだ…?

 理解はできなかったが、アイツの口コミらしく、娼館の客には祈祷を頼まれる。

暗黒神オルドのお守りだよー、祈祷もやってまーす。いかがですかぁー?」
 
 そうして追加で祈祷を二、三回すると、財布が少し重くなった。今日はもう、頃合いだろう…。

 天鵞絨の布を畳み帰り支度を始めた、ちょうどその時、頭上に影がさした。

 視線を上げると、見たこともない立派な服を着た兵士達が、いつの間にか自分を取り囲んでいた。
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