猫の首に鈴をつけたい騎士団長とおひさま浴びてヘソ天で寝たい闇の教祖

あさ田ぱん

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3.おひさまのにおいの部屋、ふかふかのベッド

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 コンラッドは馬に乗って家に帰る間、俺を自分の胸の中へ入れた。

 この、芳醇な香り…、ここは天国なのか?!たぶん、そうに違いない!

 コンラッドの胸の中で昇天して、次に目覚めると、嗅いだこともない高級そうな石鹸の香りに包まれていた。

「ふんふんふ~ん♪きれいにな~れ♪」

ふわふわの石鹸の泡が立てられた桶の中で、優しく撫でるように洗われていたのだ。

最後に、お湯で泡を流してくれる。

ふぁぁ~、すっごく気持ちいい~!

 俺を洗ってくれていたのは、コンラッドだった。どうやらここは風呂場のようだ。彼も、腰に布を巻いているが裸である。

「おっ、ノワール!お前にゃん玉ついてるじゃねーか。かわいいけど、雄だったんだな~。今日のあの子と一緒だ…」

…あの子って、俺のことだよな…?
 
「白いすべすべの肌に、大きな黒目、長い睫毛。俺が呼ぶと、頬を染めて…。尻も小さく、胸にも甘そうな果実があった。雄というには、あまりにも可愛すぎた…。まるでお前のようだな!」

今日、そんなところまで見られていたのか?!でも尻が小さいとか、なんかえっちな見方してない?!

 それはちょっと嫌なんだけど!

「なんだよ、その顔。面白い顔するなあ~!まるで、人間みたいだ」
「…にゃ!?」

 す、鋭い…!

 そう、俺は人間なのだ…。慌てて、ツンとした、猫らしく澄ました顔をする。

 するとコンラッドはおかしそうに笑い、俺にもう一度お湯をかけた。

「ノワール、湯船に入れるか?」

コンラッドはすぐ隣の、たっぷり湯が張られたバスタブを指差した。

 孤児院では子供達の面倒を見るのに必死で、こんなにたっぷりの湯船に、じっくり浸かったことはない。

 猫は水が嫌いだから、風呂に入ったりしたら変に思われるだろうか…?でも、お風呂に入りたいという欲求を止められなかった。

入りたいにゃー!」
「そうか、入りたいのか」

通じたー!

 コンラッドは俺を胸の上に乗せて、一緒に風呂に浸かった。

 湯気が体毛を優しく包み込み、疲れがほどけていく。
まるで体の奥まで温もりが染み渡り、心まで溶かされるようだった。

「ノワール、最高だなあ~」
最高にゃにゃあ~」
「おお、お前も気持ちいいのか?かわいいやつ♡」

 コンラッドも俺と同じ気持ちだったのか、お湯をかけながら、体を撫でてくれる。俺は思わずゴロゴロと喉を鳴らした。

 やっぱり俺は、気絶して天国にやってきたようだ…。
 
 

 ものすごく名残惜しかったが、コンラッドに抱かれて風呂を出た。

 脱衣所には使用人らしき年老いた女が待っていて、彼女は柔らかなリネンをコンラッドに差し出す。

「首輪は?」
「こちらに、洗ってございます」

あっ!俺のマジックバッグ付の首輪…!ぴかぴかに洗われてるー!

コンラッドが魔法を唱えるとあたたかな風が起き、それに包まれると、一瞬で体毛が乾く。たちまち俺は、ふわふわのちんまり子猫ちゃんになった。

「おおおお、ノワール、かわいいな♡」
「コンラッド様、よろしいのですか?首輪に名前まで書かれているのです。この子は飼い猫でしょう」
「う…」

あー!このメイドにも名前が知られてしまった…!

 けどまあ、首輪がマジックバッグだと気付かれなかったから、良しとしよう…。

「今日くらいいいだろう。明日、元の場所に返す」
「それはそれで、寂しいですわね~」

彼女は俺の喉を指で撫でて、微笑んだ。どうやら、悪い人ではないらしい。

コンラッドは、首輪を受け取ると、俺の首につけた。

「ナタリー、食事は?」
「用意してございます」

浴室を出て、長い廊下を歩いていき、コンラッドはまた別の扉を開けた。

 どうやらそこは彼の部屋らしい。落ち着いた色合いの部屋には、見たこともない美味しそうな食事が用意されている。

「ノワールの分は?」
「こちらに」

俺に用意されたのは、鶏肉を茹でて食べやすく裂いたもの。それに温かいミルク。

 良い匂い…っ!体が反応して、腹がきゅるると音を立てる。思わず、用意された食事にがっついてしまった。

美味しいーにゃにゃにゃぁー!」
「美味しいか。いっぱい食え」

 茹でただけなのに、孤児院で俺が作るごはんより美味しいなんて…!

 食材の、圧倒的な差…!!うまあ~!子供達、俺だけ美味しい思いして、ごめんよ~!


夢中で食べていると、入り口の扉が開く音がした。誰かが入ってきたらしい。

「コンラッド、久しぶりですわね」
「母上…!」
「まぁ~、なんです?かわいいねこちゃんがいるじゃないの♡」

 コンラッドの母だという、気の強そうな女も俺を見て目尻を下げた。今の俺は洗われてふわふわな上に、ご飯を食べて、おなかぽっこり。

 自分の姿は見ていないけど、愛らしさ全開のはず。

「まあまあ!小さいお腹がぽんぽこりんだわ!かわいい~♡」
「ダメですよ、この猫は差し上げられません!」
「ダメなのは、コンラッド貴方です。今日こそ、ハーケンベルク伯爵家の男子として、婚約者を決めなさい。決めるまで猫ちゃんはお母様が抱っこします!」
「はぁ、またその話ですか…」

コンラッドは頭をかきながら、嫌そうな声を出した。

「今夜はご遠慮ください…。任務中に一時帰宅しただけですから。それにほら、ノワールも眠たそうだ」

 コンラッドに目配せされて、俺はあくびをして見せた。追加でちょっと体も伸ばして、前足をぴーんとさせる。

「まあまあ、本当だわ。お腹いっぱいで眠そうね…♡じゃあお母様と眠りましょう?貴方のお友達も紹介したいわ」
えっにゃ?!」

コンラッドのお母様は、俺を捕まえようとした。

 や、やだー!俺はコンラッドがいいんだ~!

 条件反射で、小さい体がぽんっ、と膨らんだ。

「え…。膨らんでまんまるになってる!威嚇までかわいい~♡♡♡」
「母上!ノワールが嫌がっています!やめてください!」

 コンラッドは俺を抱き上げてくれた。優しく撫でられると、また勝手にゴロゴロと喉が鳴る。

「コンラッドは困った子ねえ。幼なじみに振られてしまったのに、動物にばかり好かれるんだから…」
「動物は表面的なことではなく本質を見てくれますから」
「……今日のところは、猫ちゃんが眠たいみたいだから帰ります。明日、必ず私のところへ来なさい。いいわね?」

お母様は、コンラッドの腕の中の俺を一撫でして出て行った。

 


「ノワール、ありがとう。母上には困っていたんだ」
「にゃんっ!」

 俺が闇属性だからなのか、この子猫の姿はまるで、闇魔法の『魅了』のように、見たもの全員をメロメロにしてしまう。

お母様を撃退しコンラッドを助けた俺は、世間には忌み嫌われる自分の力が誇らしくなって、少しだけ胸を張った。すると、コンラッドは俺の顎を撫でてくれる。

「にゃー」
「眠いな?今日は一緒に眠ろう。少し待っていろ」

 さっと食事をすませると、コンラッドは隣の寝室に俺を連れて行った。

 孤児院は、貧民街の隅にある、古くて汚い一軒家だ。ジメジメとして日もろくに当たらない。だからこそ、ひっそり暮らせているのだが…。

 それに比べてこの部屋はどうだ?

 今は夜だが、きっと昼間は大きな窓から日差しが降り注いでいたのだろう。部屋中、おひさまの匂いがする…。

 抱っこで連れていかれ、ベッドに下りると、足がふわっとした。なんて柔らかい、ベッドなんだ…!

吸い込まれる~にゃにゃにゃにゃぁ~
「お腹も一杯で、気持ちいいのか?」

 おひさまの匂いと、柔らかいベッド。最高に気持ちよくて、思わずヘソ天で転がると、コンラッドは膨れた俺の腹をモフモフと撫でた。手で撫でるだけでは満足できなかったらしく、顔を近づけて、すんすんと吸われる。

「ああ…、かわいすぎる…っ!おい、ノワール、うちの子になれ!」

 本当に俺を猫だと思っているコンラッドは、蕩けるような笑顔を向ける。

 それができたら、どんなにいいだろう…。

 けれど、孤児院には俺を待っている子供たちがいる。あの子達が市井で暮らせるようになるまで、孤児院を出ていくわけにはいかない。

 それに、俺の力は闇。夜は特に魔力が強く、子猫の姿を維持できるが、日が昇ると力が弱まり、ここまで小さい姿は保てない。

「にぃ…」

 コンラッドの手に頬擦りすると、少しだけ甘くてスパイシーな香りがした。

 この匂い、大好きだ…。

 今はまだ夜。少しだけ、もう少しだけ…、こうしていよう。

 俺は、甘い香りに誘われて、コンラッドの体の上をちょこちょこと這い、発生源である、コンラッドの股の間に顔を埋めた。

「お、おい。ノワール?!」

忘れないようにいっぱい、この匂いを吸っておくんだ!ここが一番、匂いが強い!

「流石にそこはよせ!潰してしまうかもしれないし、匂いが強い!」
だからここがいいのーにゃにゃぁぁぁーっ!」
「し、仕方ないやつだ…!どうなっても知らねえぞ」

俺はコンラッドの股の間に入り、思いっきりすんすん匂いを吸い込む。

「ノワール、くすぐったい…!おいっ、吸いすぎだ!あはは!」

ああ、幸せだ…。俺は再び、昇天した。
 

 
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