不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

文字の大きさ
10 / 51
一章

10.婚約

しおりを挟む
 俺は結局、クレマンに謝罪して養子の話を断った。クレマンは俺が断ると少し不機嫌になったが、仕方がない。俺はどうしてもローレンとの約束を叶えたかったのだ。
 ローレンと見に行くと約束した、今年の最後に行われる騎士祭り。騎士たちの予選は順調に進み、多分今年もローレンの父親が優勝するだろうというのが大方の予想だ。騎士祭りの勝者が誰になるのか、誰に賭けるのか…修道院はその話題で持ちきりで、他の話題などもうみんな忘れてしまったかのようだった。
 騎士祭りは成人後の十八歳から、参加が許可される。だからローレンはまだ参加しない。いつかローレンが出場する時はローレンに賭けよう。そんなことを考えながら俺は騎士祭りの日を指折り数えて待った。
 


 騎士祭りの準備を全て終えた前日…。明日はどうするのだろう?何時頃、ローレンは迎えに来てくれるのだろうか?俺は連絡がないことを、少し不安に思っていた。

「おいノア!」
 時間は既に昼を過ぎ、午後。もう仕事は終わって、明日に備えてゆっくり過ごそうと思っていたのだが突然、ウルク司祭に呼び止められた。呼び止めたウルク司祭は慌てた様子で駆け寄ってくる。
「今からすぐに市場に行ってくれ!白い薔薇を買って来るんだ!買えるだけ、沢山頼む!」
「白い薔薇を?しかしもう、市場は休みではないですか…?」
「いいから、店を開けさせてでも買ってこい!いいな!」
「そ、そんな…無理です。」
「無理でもやるんだ!騎士祭りでエヴラール辺境伯家が婚約者のお披露目を行う!婚約の祝いに白いブーケがなければ格好がつかん!」
「エヴラール辺境伯家が婚約者のお披露目を…?」

 まさか…。それって…。俺は顔から血の気が引いて行くのを感じた。司祭は非情にも、俺に告げる。

「マリク様とローレン様の婚約だろう!婚礼も教会の仕事だぞ…!急げ!いいな!」

 そんな…。俺は愕然とした。しかし、ウルク司祭に早くしろと怒鳴られ、震える足で市場へと走った。

 マリクとローレンの婚約…。よりによって俺と行くと約束した、騎士祭りで婚約を?誰か、嘘だと言ってくれ…。
 
 俺は祭事の花をいつも買いに行く店へ駆け込んだ。すると今年はもう仕事納めだと言っていたはずの店主が、まだ店を開けている。

「ノア!聞いたよ。マリク様とローレン様が婚約するんだろう?!街でも噂になっているから、来るんじゃないかと思っていたんだ。」
  店主は今年の最後に、めでたいなぁと言って俺に白い薔薇を沢山手渡した。明日、マリクとローレンが結婚の約束をする…白い薔薇を俺に。

 俺は会計を済ませるまで、何とか泣かずに堪えた。店を一歩出たら、歩く事が出来ないくらい涙が溢れて来て道の往来だと言うのに立ち止まってしまった。

 婚約するなら、どうして…一緒にランタンを見ようなんて言ったんだ。年が明けて来年、一緒にギルドに行ってくれるって約束した…。指切りもしたのに。…嘘つき…。

 立ち止まっていたら、前から歩いて来た男にぶつかった。泣いていたから上手く謝れず、怒った男に腕を掴まれてしまう。何とか声を出して謝ろうと顔を上げると、偶然にも俺の腕を掴んだのはクレマンだった。クレマンも俺に気付き驚いた顔で俺を見下ろしている。

「ノア!どうしたんだこんな時間に!その花…しかも、そんなに泣いて… 」
「… 」
「ああ、ひょっとしてエヴラール辺境伯家マリク様の婚約用の花かい?エドガー家のアルファと婚約するんだってな 」
「なぜそれを… 」
「私はエヴラール辺境伯様とも懇意にしていただいている 」
 クレマンの言葉にまた俺は衝撃を受けた。やはり、本当なんだ…ローレンは、マリクと。俺が涙を流すと、クレマンは俺の背中をさすった。
「ひょっとしてノア…エドガー家の息子のことを?エドガー家の息子はよく、礼拝に来ていたものなぁ。先日養子を断ったのもそれが理由なのか…?彼らはアルファとオメガ…。番になってしまっては、もう見込みはない。それに身分も…諦めなさい 」
 俺が鼻を啜ると、クレマンは優しく俺の頭を撫でる。
「まだ、養子の件は間に合う。考え直さないか?既にエヴラール辺境伯には許可もいただいている。明日の騎士祭りの日、日が沈むまで…船着場で待っているから。いいね?」
 クレマンは俺に船の切符を手渡した。見たこともない文字の切符だ。…これがあればローレンのことを忘れられるのだろうか?
 クレマンが馬車で送ってくれるというので通りを歩いて行くと、大通りで俺を呼び止める声がした。

 俺を呼び止めたのは今、最も会いたくなかった人物…。

「おい!お前!」

 俺を呼び止めたのは、マリクだった。一際豪華な馬車の窓から顔を覗かせ、俺を手招いている。

「マリク様…!」
「おいノア!こっちにこい!」
 
 俺がクレマンを振り返ると、クレマンは「私に遠慮せずあちらへ。明日、待っているから 」と言うと行ってしまった。

 俺は仕方なくマリクの馬車に近づく。

「もう仕事納めだと言うのに、よく見つかったな?なかなかやるな、お前。」
 マリクは感心した、と俺を褒めた。
「花は貰っていく。ついでに送ってやる。」
 マリクに乗って行くように言われたが、丁重に断った。しかしマリクは譲らなかった。
「今隣の国からも他領からも人が大勢集まってとんでもなく治安が悪いんだぞ!お前みたいな弱そうなやつを日暮に一人で帰して死んだりしたら寝覚めが悪い!乗っていけ!」

 マリクは強引に俺を馬車に乗せて、修道院に向かった。ブツブツ言っているが本当に送ってくれるらしい。エリーを虐待しようとしたけどあれはオメガだと分かった精神的ショックからで、本当は悪いやつでは無いのかもしれない。むしろ悪いやつであって欲しかったのに…、俺は少しがっかりした。マリクは修道院への道すがらじっと、俺の顔を見つめる。

「お前とさっき一緒にいたやつ…見た事がある気がする…。」
「クレマン様ですか?」
「そんな、名前だったかなあ…。ちょっと待て!もうすぐ出そうだから…。」
 マリクは腕を組んで、うーんうーんと唸っている。クレマンはエヴラール辺境伯と懇意だといっていたからマリクも面識があるのかも知れない。
「クレマン様は貿易をされていると、伺っていますが…。」
「あー!思い出しそうだったのに、余計なことを言うなっ!」
 マリクに叱られて俺は閉口した。…やっぱりマリクは、意地悪かも知れない…。
 俺は怒ったマリクに、修道院の前で馬車から降ろされた。不機嫌なマリクは婚約に使う薔薇を俺から奪って、帰って行った。ウルク司祭にその事を報告すると、俺のその日の仕事は終わった。



 俺は部屋に戻って、クレマンからもらった船の切符を見つめた。養子のこと、断る理由がなくなってしまった。借金も返してもらえるし…それに…もうローレンと騎士祭りを見ることもギルドへ行くこともないんだから。

 俺は再び二人で作った物語の最後のページの挿絵を描いた。夜空に浮かぶランタン…二人で見上げたかった。その絵には俺の夢を詰め込んだ。夢の中でだけは、永遠を誓って…。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...