不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

文字の大きさ
16 / 51
二章

16.エヴラール辺境伯家の仕事

しおりを挟む
 新年を迎えて俺はエヴラール辺境伯家に移った。と、言ってもエヴラール辺境伯家の使用人は宿直形式で住み込みではないため、俺は新たに領都の隅に小さな家を借りることになった。エドガー家では住み込みで働いていて、給料はエヴラール辺境伯家より少なかったけれど支出は殆どなかったのだ。今後は家賃も食費も自分で払って行くとなると…暗澹たる気持ちになった。
 エドガー家を出て行く時、ルカに泣かれて、最終的に嫌われた。しかし俺もそれを宥めたりするゆとりも無く別れることになってしまった。俺が居なくなってもきっと…優しい家族に召使、エリーもまだ健在だから大丈夫なはず。そして最後に…ローレンから預かった大切なロザリオをジェイドに渡した。

 マリクは春に戻ると聞いていたのだが、夏を過ぎても戻っては来なかった。噂によるとローレンが王宮騎士団に入団したため、それに付き添って一緒に王都に残っているのだとか。ローレンが王宮騎士団で名を挙げてから領に戻り、二人は結婚するのだろうと言われている…。
二人が結婚する。そう聞かされてもさほど驚きはしなかった。二人が同じ王都の学校へ行った時点で、そんな予感はしていた。だってふたりはアルファとオメガ、本能で惹かれ合ってしまう。それが三年間、寄宿舎とはいえ寝食をともにするのだから…。
 
 ただ、本当に二人が結婚するのならエヴラール辺境伯家で働きたくない。だから俺は空いた時間に仕事を探してギルドを訪ね歩いた。
 予想はしていたが結果は散々…。絵ではなく、計算を習えば良かったと後悔した。俺は十八になっても身体が小さく力がない。力仕事が出来ない男は頭を使うしかないが、それも出来ないのだ。潰しが効かない俺をギルドの職員は「あとは娼館に身売りするしかない」と、冷たくあしらった。

 後悔していた絵だが…辛い生活のなかの唯一の救いでもあった。最近はようやく素描から一段階進展して絵の具を使わせてもらえるようになったのだ。色をつけるのはとても楽しい…。アロワにはまだ褒められてはいないが、絵を描くことは生きる支えになっていた。
 それにベルからの絵の受注もかなり増えていた。ベル曰く、最近は人気になっていてあまりにも頼まれるので少し謝礼を上げたのだとか。年若い女性からの謝礼をあげる事は一瞬躊躇したものの、実際手元に届く金銭を前にすると…正直ありがたかった。独立してやって行くには至らないが…返済を少し増やすことができた。



 忙しさに身を任せていると日々は過ぎ、暑い夏が終わり、もう、実りの秋…。

 その知らせは突然もたらされた。

「ノア、ちょっといいかい?」
 俺を呼び止めたのはエヴラール辺境伯家の侍従長、ディボットだ。ディボットの部屋に行き、小さな丸椅子に腰掛けるとディボットは眼鏡を掛けて手紙を見ながら話を始める。
「ちょうど来月、マリク様がお帰りになる。ノア、お前にはマリク様の身の回りの世話を頼む。マリク様は知っての通りオメガだ。結婚しているベータにしか、頼めない事なんだ。」
「え…。ですと、私には無理です。結婚していません 」
「なに…?エヴラール辺境伯様は、お前は結婚していて『男の妻』だとおっしゃっていた。エドガー家からもそう言われて推薦を受けたと…!」
「まさか…!」
 俺は戸惑った。ジェイドが嘘を言った?いや、ジェイドがそんな事する訳がない。…ではエヴラール辺境伯が?なんのために?
「おいおい…お前が独身なら此処では雇えない。しかし…此処を出て、食べていけるあてはあるのか?」
 ディボットは眉を寄せた。ディボットは俺の親のことも全て知っていて、以前から心配してくれている、優しい男なのだ。俺が正直に「ありません」というと、大きなため息をついた。
「…半年以上共に仕事をして、私はお前の事を信用している。マリク様はプライドがあって、女の召使にヒートを見せたくないらしくてな。お前に頼めるか?間違いを起こさないと誓ってくれるなら、結婚の事は黙っておく 」 
 俺は頷くしかなかった。仕事がなくなれば、借金を返せないどころか生きていけないのだ…。同時にもう一度別の仕事を探すことにした。

 修道院はエヴラール辺境伯家の寄付で成り立っていると言っても過言ではない。だからエヴラール辺境伯家の仕事を断って修道院に戻ることは出来ないだろう。俺は再び、いろいろなギルドへ行ったが、やはり前回と結果は同じだった。違ったことと言えば、前回「娼館に行くしかない」といったギルド職員が本当に、娼館の紹介状を渡してきたことくらいだ。
 男は俺に囁いた。
「オメガが一番高額なんだが…お前も十分需要はあると思うぞ?女だと華奢で、脆い…という方がいてな?お前は地味だが可愛い顔をしているからここならよい給料が貰える。」
 以前クレマンが俺を売ろうとしたような加虐趣味の客だろうか?まだ借金を返せていないのに殺されるのは困る。俺はできるだけ丁寧に断ってギルドを飛び出した。

 結局俺は、いもしない男の妻だと…結婚していると偽り、マリクの召使いとして働くことになってしまった。

 ローレンがマリクと結婚するならむしろ、俺も結婚している方が都合がいいのではないか?ローレンもその方が俺に、遠慮や罪悪感を抱くことはないだろうから。でも、虚しい、悲しい…。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...