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番外編
51.まだ恋を知らない(ローレン視点)
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一章が始まる前のお話、
ローレン視点
ーーーーーーーーーーーーー
「感謝の気持ちを込めて、寄付するんですよ」
礼拝の前、母から銅貨を一枚渡されるようになったのはちょうど、十三歳になった時だった。多分、背も伸びて神父たちが持つ募金箱に、背伸びせずに入れられるようになったからだ。少し、大人になったような気がして嬉しかった。
礼拝が終わると、銅貨を握りしめて出口の扉を見遣る。
誰の募金箱に入れようか…?どうせなら、感謝されたい。喜んでくれる人がいい。俺は端から順に、品定めを始めた。
身廊を出口に向かって歩いて行くと、愛想の良い母はたくさんの人に声をかけられる。
「エドガー夫人、お久しぶりです!まあまあ、ローレン!大きくなったわね~!」
母に声を掛けた恰幅の良い婦人は、俺を挟んで母と歩き出した。俺は少し、嫌な予感がした。
誰の募金箱に入れるか選ぼうと思っていたのに、間に挟まれたら選べない…。このまま、真っ直ぐ正面の箱に入れるしかないじゃないか…。俺は少し、いやかなりがっかりして、そのあとは下を向いて歩いていた。
募金箱の前に来ると、静かに一礼する。俺がちょうど、箱に銅貨を入れようとした瞬間、隣の募金箱から高い声が聞こえた。ここは修道院が運営しており、神父たちは皆、男性のはずだが…。
「ありがとうございます!」
彼は修道士ではない、普通の服を着た少年だった。いや、清掃用のエプロンをつけているから…下男なのだろう。背も俺より低く小さい。十歳くらいかもしれない。
お辞儀をした彼が、顔を上げたのを見て俺はハッとした。アーモンド型の目は少し明るめのダークブラウン。ふさふさの髪は光に照らされて輝いて見えた。小ぶりな鼻と、小さな唇。白い頬は丸くて、ほんのりピンク色…。なんだか小さい、動物みたいだ。
「ノア!相変わらず小さいのね…?ちゃんと食べてるの?」
「はい…。寄付のおかげです、ありがとうございます」
おばさんの声かけに、また彼は頭を下げる。
ああ…、だからどの箱に入れるか、自分で決めたかったのに…。彼の募金箱なら難なく銅貨を入れられただろう。今日はついてない…。
『ノア』と呼ばれた彼は、隣の自分には気が付かない。俺も母に促されて、出口へ向かった。
「今の、ほら、例の子よ…」
「例の…?」
おばさんは母に小声で話しかけた。
「親が残した借金を払いながら教会で暮らしてるのよ。まだ小さいのに、可哀想でしょう…?だから私、あの子に寄付すると決めてるの」
「まぁ…」
その話を聞いた母は、弟のルカをぎゅっと抱きしめた。俺も信じられない気持ちで、まだ出口に立っている『ノア』を振り返る。
あんなに小さいのに働きながら、借金を返してる…?まさか、信じられない…。まだ、十歳前後なら親がいなければ何も出来ないし、心細いはずだ。
俺だってそうだ。二年前に弟が生まれて、父と母の興味関心愛情が全て弟に向かった時、居場所が無くなるんじゃないか、という恐怖に襲われたのだ。それなのに彼は失う物さえ持ち合わせていない…。
次の寄付は絶対、彼にしようと決めた。
****
「ルカいれるー!」
「ルカは届かないだろ。それにお金を口に入れたら危ないし…」
週末の礼拝の終わり、寄付の列に並んでいたら、弟のルカが騒ぎ始めた。最近どうも、俺の真似をしたがるのだ。
「じゃあ母上に聞いて…」
「いやっ!」
ルカはみるみる顔を赤くして泣き出した。母に言ったらやらせて貰えないと知っていて…賢い弟に舌を巻いた。周囲は「泣かせるな」という目で俺を見ている。
もう、『ノア』まであと二人…。『ノア』にもこの小さい弟を俺が泣かせたと誤解されたくなかったから、仕方なく、ルカを抱き上げて『ノア』の前に立った。
ルカは満面の笑顔で、ノアの持つ募金箱へ銅貨を入れる。
「ありがとうございます」
ノアはいつもと変わらない態度でルカにお礼を言って頭を下げた。ルカは大人に対する対応と同じ対応がむしろ嬉しかったようだ。
「かあさまっ!出来たー!」
ルカは俺の腕の中で、嬉々として叫んだ。隣の募金箱に寄付を入れた母は、満面の笑顔でルカを抱き上げた。
「ルカ、立派だったわ!」
「はいっ!」
二人は頬ずりして、そのまま出口へ向かった。俺はその間、『ノア』をずっと見つめていた。彼から目が逸らせなかったのだ。
彼は母とルカをじっと見つめていた。ダークブラウンの瞳はゆらゆらと揺れている。そして唇をきゅっと引き結ぶと、目を伏せた。
傷付けてしまった……。俺が寄付を『してやる』なんて奢った気持ちでいたからだ…。
後悔した。でも俺はノアを慰めることは出来ない。彼から比べたらなんの苦労もない、親から与えられた銅貨を渡すことしか出来ない俺には。
****
今日も銅貨を一枚握りしめて、寄付の列に並んだ。『ノア』まであと数人、と言うところでノアは出口から出て行ってしまった。なぜ…?
俺は動揺した。先週、母とルカを見て、孤児のノアは傷付いた顔をしていた。親子を見る事が嫌になったのだろうか?
俺は寄付をした後、出て行ったノアを慌てて追いかける。
するとノアは教会の裏手で、掃き掃除をしていた。声をかけることも出来ず、少し離れたところからその姿を観察していると、法衣に身を包んだ司祭らしき男が俺の横を通り抜けてノアに話しかけた。
「おい、ノア!今日の寄付、足りていないぞ!」
「えっ?!でも確かに…」
「お前、計算を間違えたんじゃないか?足りなければ給金から引くからな!」
司祭の言葉を聞いたノアは眉を下げて小さく「はい…」と呟いた。
つまり、ノアは寄付を受けた金額をその場で数えていて、今日は計算を間違えて割り当てられている寄付額に満たなかったと言うことだろうか。そして不足分を給料から引く…?あまりにも厳しい内容に、俺は動揺した。
ノアは沈んだ顔のまま掃除をしている。でもやはり、俺には何もできない…。
暫くぼんやり見つめていると、ノアの足元に猫がまとわりついているのが見えた。ノアは猫を抱き上げて頬擦りすると、ポケットから何か取り出して、てずから食べさせている。
猫に餌をやっている間、ノアは笑顔だったから、心底安堵した。同時に猫に、心から感謝した。
ノアが裏庭の掃除を終え教会に戻った後、俺は猫に近寄った。猫は人見知りしないのか手を差し出すとふわふわの顎と頭を撫でさせた。しかし、その毛がすこし湿っている事に気がついて俺の心臓はぎゅっと痛くなった。
****
「母上、今日から寄付の銅貨はいりません」
「あら…。ルカが面倒になったの?それならルカは私が…」
「違います。自分の小遣いから出そうと思って…。その方が、神により感謝を伝えられるかと…」
「まあ、立派になったのね!ローレン!」
いつもの礼拝の前、母は感心したように頷いた。
結局小遣いを貰っている身なのだから、何も変わらないかも知れないけど、俺はそうせずにはいられなかった。
今日こそは、ノアに寄付をするんだ。俺は少し足早に、身廊を進んだ。ノアの寄付の列に並ぶと、鼓動が早くなる。
遂に俺の番になり、ノアの募金箱に銅貨を入れる。銅貨はカチャ、と小さな音を立てて吸い込まれた。音に反応して、ノアが俺に頭を下げる。
「ありがとうございます」
それはたぶん、いつもと全く同じ動作だったと思う。しかし頭を上げたノアと目が合った時…彼の瞳はキラキラと光って揺れていた。
俺の心臓はまたぎゅ、と痛くなった。
何で、そんな顔するんだ。母とルカのことを覚えていて、それで?俺に寄付を貰うのは嫌?でも、寄付額が少ないと、困るんだろう?
笑って欲しい。ほら、猫に餌をあげる時みたいに…。
それでもし、俺に笑いかけてくれたら…。
俺は次の寄付も絶対、ノアにしようと決めた。
ローレン視点
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「感謝の気持ちを込めて、寄付するんですよ」
礼拝の前、母から銅貨を一枚渡されるようになったのはちょうど、十三歳になった時だった。多分、背も伸びて神父たちが持つ募金箱に、背伸びせずに入れられるようになったからだ。少し、大人になったような気がして嬉しかった。
礼拝が終わると、銅貨を握りしめて出口の扉を見遣る。
誰の募金箱に入れようか…?どうせなら、感謝されたい。喜んでくれる人がいい。俺は端から順に、品定めを始めた。
身廊を出口に向かって歩いて行くと、愛想の良い母はたくさんの人に声をかけられる。
「エドガー夫人、お久しぶりです!まあまあ、ローレン!大きくなったわね~!」
母に声を掛けた恰幅の良い婦人は、俺を挟んで母と歩き出した。俺は少し、嫌な予感がした。
誰の募金箱に入れるか選ぼうと思っていたのに、間に挟まれたら選べない…。このまま、真っ直ぐ正面の箱に入れるしかないじゃないか…。俺は少し、いやかなりがっかりして、そのあとは下を向いて歩いていた。
募金箱の前に来ると、静かに一礼する。俺がちょうど、箱に銅貨を入れようとした瞬間、隣の募金箱から高い声が聞こえた。ここは修道院が運営しており、神父たちは皆、男性のはずだが…。
「ありがとうございます!」
彼は修道士ではない、普通の服を着た少年だった。いや、清掃用のエプロンをつけているから…下男なのだろう。背も俺より低く小さい。十歳くらいかもしれない。
お辞儀をした彼が、顔を上げたのを見て俺はハッとした。アーモンド型の目は少し明るめのダークブラウン。ふさふさの髪は光に照らされて輝いて見えた。小ぶりな鼻と、小さな唇。白い頬は丸くて、ほんのりピンク色…。なんだか小さい、動物みたいだ。
「ノア!相変わらず小さいのね…?ちゃんと食べてるの?」
「はい…。寄付のおかげです、ありがとうございます」
おばさんの声かけに、また彼は頭を下げる。
ああ…、だからどの箱に入れるか、自分で決めたかったのに…。彼の募金箱なら難なく銅貨を入れられただろう。今日はついてない…。
『ノア』と呼ばれた彼は、隣の自分には気が付かない。俺も母に促されて、出口へ向かった。
「今の、ほら、例の子よ…」
「例の…?」
おばさんは母に小声で話しかけた。
「親が残した借金を払いながら教会で暮らしてるのよ。まだ小さいのに、可哀想でしょう…?だから私、あの子に寄付すると決めてるの」
「まぁ…」
その話を聞いた母は、弟のルカをぎゅっと抱きしめた。俺も信じられない気持ちで、まだ出口に立っている『ノア』を振り返る。
あんなに小さいのに働きながら、借金を返してる…?まさか、信じられない…。まだ、十歳前後なら親がいなければ何も出来ないし、心細いはずだ。
俺だってそうだ。二年前に弟が生まれて、父と母の興味関心愛情が全て弟に向かった時、居場所が無くなるんじゃないか、という恐怖に襲われたのだ。それなのに彼は失う物さえ持ち合わせていない…。
次の寄付は絶対、彼にしようと決めた。
****
「ルカいれるー!」
「ルカは届かないだろ。それにお金を口に入れたら危ないし…」
週末の礼拝の終わり、寄付の列に並んでいたら、弟のルカが騒ぎ始めた。最近どうも、俺の真似をしたがるのだ。
「じゃあ母上に聞いて…」
「いやっ!」
ルカはみるみる顔を赤くして泣き出した。母に言ったらやらせて貰えないと知っていて…賢い弟に舌を巻いた。周囲は「泣かせるな」という目で俺を見ている。
もう、『ノア』まであと二人…。『ノア』にもこの小さい弟を俺が泣かせたと誤解されたくなかったから、仕方なく、ルカを抱き上げて『ノア』の前に立った。
ルカは満面の笑顔で、ノアの持つ募金箱へ銅貨を入れる。
「ありがとうございます」
ノアはいつもと変わらない態度でルカにお礼を言って頭を下げた。ルカは大人に対する対応と同じ対応がむしろ嬉しかったようだ。
「かあさまっ!出来たー!」
ルカは俺の腕の中で、嬉々として叫んだ。隣の募金箱に寄付を入れた母は、満面の笑顔でルカを抱き上げた。
「ルカ、立派だったわ!」
「はいっ!」
二人は頬ずりして、そのまま出口へ向かった。俺はその間、『ノア』をずっと見つめていた。彼から目が逸らせなかったのだ。
彼は母とルカをじっと見つめていた。ダークブラウンの瞳はゆらゆらと揺れている。そして唇をきゅっと引き結ぶと、目を伏せた。
傷付けてしまった……。俺が寄付を『してやる』なんて奢った気持ちでいたからだ…。
後悔した。でも俺はノアを慰めることは出来ない。彼から比べたらなんの苦労もない、親から与えられた銅貨を渡すことしか出来ない俺には。
****
今日も銅貨を一枚握りしめて、寄付の列に並んだ。『ノア』まであと数人、と言うところでノアは出口から出て行ってしまった。なぜ…?
俺は動揺した。先週、母とルカを見て、孤児のノアは傷付いた顔をしていた。親子を見る事が嫌になったのだろうか?
俺は寄付をした後、出て行ったノアを慌てて追いかける。
するとノアは教会の裏手で、掃き掃除をしていた。声をかけることも出来ず、少し離れたところからその姿を観察していると、法衣に身を包んだ司祭らしき男が俺の横を通り抜けてノアに話しかけた。
「おい、ノア!今日の寄付、足りていないぞ!」
「えっ?!でも確かに…」
「お前、計算を間違えたんじゃないか?足りなければ給金から引くからな!」
司祭の言葉を聞いたノアは眉を下げて小さく「はい…」と呟いた。
つまり、ノアは寄付を受けた金額をその場で数えていて、今日は計算を間違えて割り当てられている寄付額に満たなかったと言うことだろうか。そして不足分を給料から引く…?あまりにも厳しい内容に、俺は動揺した。
ノアは沈んだ顔のまま掃除をしている。でもやはり、俺には何もできない…。
暫くぼんやり見つめていると、ノアの足元に猫がまとわりついているのが見えた。ノアは猫を抱き上げて頬擦りすると、ポケットから何か取り出して、てずから食べさせている。
猫に餌をやっている間、ノアは笑顔だったから、心底安堵した。同時に猫に、心から感謝した。
ノアが裏庭の掃除を終え教会に戻った後、俺は猫に近寄った。猫は人見知りしないのか手を差し出すとふわふわの顎と頭を撫でさせた。しかし、その毛がすこし湿っている事に気がついて俺の心臓はぎゅっと痛くなった。
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「母上、今日から寄付の銅貨はいりません」
「あら…。ルカが面倒になったの?それならルカは私が…」
「違います。自分の小遣いから出そうと思って…。その方が、神により感謝を伝えられるかと…」
「まあ、立派になったのね!ローレン!」
いつもの礼拝の前、母は感心したように頷いた。
結局小遣いを貰っている身なのだから、何も変わらないかも知れないけど、俺はそうせずにはいられなかった。
今日こそは、ノアに寄付をするんだ。俺は少し足早に、身廊を進んだ。ノアの寄付の列に並ぶと、鼓動が早くなる。
遂に俺の番になり、ノアの募金箱に銅貨を入れる。銅貨はカチャ、と小さな音を立てて吸い込まれた。音に反応して、ノアが俺に頭を下げる。
「ありがとうございます」
それはたぶん、いつもと全く同じ動作だったと思う。しかし頭を上げたノアと目が合った時…彼の瞳はキラキラと光って揺れていた。
俺の心臓はまたぎゅ、と痛くなった。
何で、そんな顔するんだ。母とルカのことを覚えていて、それで?俺に寄付を貰うのは嫌?でも、寄付額が少ないと、困るんだろう?
笑って欲しい。ほら、猫に餌をあげる時みたいに…。
それでもし、俺に笑いかけてくれたら…。
俺は次の寄付も絶対、ノアにしようと決めた。
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ノア…最後モテモテでしたね…(〃ω〃)
楽しんでいただけて良かったです!
感想ありがとうございます(*´∀`*)
無事ハッピーエンドを迎え&楽しんでいただけて良かったです(*≧∀≦*)
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけて良かったです(〃ω〃)
しょ…→口に出すのも緊張します…!そうなったら嬉しいですが、現実は厳しそうなので引き続き精進してまいります。゚(゚´Д`゚)゚。