無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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四章

35.【最終話】幸せな旅立ち

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 フェリクス王国暦百七十二年、三月九日。

 俺は魔法学校を無事、卒業した。本来なら卒業式を待って結婚する予定だったのだが、ジークはあの日、俺を三日三晩離さずに、結局、婚姻の儀を終えたと発表せざるを得なくなった。

 母もエヴァルトもジークが水神の竜だと知った時は、腰を抜かしていた。唯一、ロザリーだけは「やっぱり、何かあると思った」みたいなしたり顔をしていた。

 そして、ベルキアのアシュ王女のした事も明るみになった。なにせべルキアの船が泊まっていた港にはジークが現れ、壊滅状態になったのだ。

 フェリクスは港の修繕費用をベルキアに請求した以外は、罪に問わなかった。ベルキアは竜が消えて以降、困窮しておりそれを慮った格好だ。

 大きすぎる力はやはり、災いの元なのかも知れない…。

 それもあって、ジークと俺はフェリクスを出て、世界を見て回る事にした。

「寂しくなってしまうわ!」
「ロザリー……、でもまた戻ってくるよ。竜の巣もあるし…。俺たちの家はここだから」
「きっとよ?私達の結婚式にはきっと戻って来てね。それから、エリオが孕ったら必ず戻って来て!それまでにあの、大量の書物を解読しておくから!私、勉強して出産に立ち会うわ!絶対よ!」

 大量の書物とは、ジュリアスが残した日記のことだ。出産、子育てに関する記述があれば安心だろうと、ロザリーは言う。
 
 ジュリアスはどうやら、あの後、前世の…もう一つの自分の過去を思い出したらしい。書物にはその事も書かれているようだ。
 ジュリアスとジークの関係がどうだったかは聞いていないが…。ジュリアスのことは、ファーヴの怨念が看取ったと、ジークから聞いた。最期を知っていると言うことは、そこまで拗れなかったと信じたい。



 
  俺とロザリーの挨拶を待っていたジークは、痺れを切らして、いつもより低い声で声をかけてきた。

「そろそろ行こう」
「うん…。ロザリー!またね…!」

 ロザリーや、エヴァルト達に手を振って別れた。

 竜体のジークは俺を背に乗せると、空へ舞い上がる。

「おいエリオ、子育てにあいつの書物なんて不要だ。俺がやる」
「え?ジークが…?子育てなんて出来るの?」
「実際やっていたろう?三歳からエリオを育てていた」

 確かに、ジークは三歳から俺の家庭教師として、俺を育てていた。しかし…。

「三歳までは何してたの?」
「…生まれて直ぐ、本当はお前を俺が育てたかったんだ。でも人間の子供は生まれたてはふにゃふにゃで、首も座らない目も見えない、乳はすぐ吐くし…。出来なかったんだ…。それで孤児院に行って子供を育てる事を学んで…。三年かかってしまった」

  そうなんだ…。ジークはたしか、孤児院での教師実績が評判を呼んだことがきっかけで、母に採用されたけど、そういうことだったんだ。

「……苦労をかけてごめんね。でも、ありがとう。嬉しい…」
「いや、小さいエリオと一緒にいられたのは至上の喜びだった……。俺こそ、ありがとう」

 ジークはフェリクスの上空を、ぐるりと旋回した。

 春は花を摘んで、夏には川で遊んだ。

 秋は山に木の実を採りに行った。赤い、つぶつぶの実…美味しかった。

 冬はアルバスまで出掛けて雪遊びをした…。

「季節はあっという間に巡り…十を超えると『エリオ』の面影が色濃く現れ始めた。俺は、焦燥に駆られた…。エリオは以前、初恋の相手がいると言っていたし…俺以外を好きになってしまうかも知れないと…」

 そうか、それであんなに瘴気を吐き出していたんだな?そんな心配、要らなかったのに。

「ジーク…俺、二百年分を挽回するにはどうしたら良い…?」
「………何もしなくて良い。生きて、側で俺を見ていてほしい」
「ジーク…」
「俺と共にいれば、人間には悲しいこともある。それでも…生きていてほしい」

  ジークの精を受けて竜同様に長命になれば、親しい人との別れを多く経験する。そういうことを言いたいのだろう。

 俺は返事のかわりに、ジークの身体に頬擦りした。

 春は冬眠から覚める動物に会いに行こう。

 夏は海で泳いでみたい。

 秋は金木犀の香りを嗅ぐ。

 冬は霜柱を踏んで、氷の上を滑る…。

 春夏秋冬、巡る季節を何回も…。

 共に過ごそう。

 一緒に居られなかった大きな穴をきっと埋める。これからの、日々の中で、お互いの命が尽きるまで。ずっと。

 
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