振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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四章 ソロ活動編

44.メリークリスマス!

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 机に突っ伏して声を殺して泣いていると、突然、部屋の明かりが消えた。

「…?!」

 思わず顔を上げて、あたりを見回したが、真っ暗で何も見えない。わずかに、壁側に非常灯の明かりを見つけたので、そこを目指して立ち上がると、突然、扉が開いた。 

 俺は驚いて後ずさりした。

「メリークリスマス圭吾!」
「ソロデビュー決定おめでとう、あとメリクリ!」

 暗闇の中、蓮とドラムの藤崎が「メリークリスマス!」と言って部屋に入ってきた。 

 蓮は先頭で沢山、蝋燭の火が点いたケーキを持っている。

「圭吾、早く消してくれ!熱い!」
 
 俺は事態が飲み込めず戸惑った。

「圭吾、早く!ケーキが溶ける!」

 蓮が焦った声を出したので、おずおずとケーキに近付いて、蝋燭に息を吹きかけて火を消す。
 火が消えると部屋の明かりが点いて、パーン、とクラッカーが弾けて飛んだ。

「ドッキリ大成功!」

 掛け声とともに、マコトがテレビでよく見る『ドッキリ大成功!』の看板を持って現れた。

 俺は状況について行けず、ただただ茫然と立ち尽くした。

「圭吾…!お前泣きすぎだ!」

 蓮はケーキをテーブルの上に置くと、自分の服の袖で俺の涙を拭く。俺は涙が止まらず、しばらくされるがままになった。蓮が「誰かタオル持ってきて」というのをぼんやりと聞いていた。
 
 俺はタオルを手渡されても、まだ話せなかった。
 
「圭吾くん、ごめん。ドッキリだよ!わかった?」

 マコトは看板をもったまま俺に近づいた。

「ドッキリ…?」
「そう。圭吾くんが蓮くんの番組にサプライズ出演するドッキリ、と、見せかけて、蓮くんが圭吾くんにキレるドッキリ企画。俺が考えたんだよ。天才じゃない?」
「え…?」
「だから、蓮くんは…あ、これは本人が言った方がいいよね?」
 マコトは蓮に、ほら、と続きを促した。
「別に怒ってねーよ」
 蓮は照れたように、頭を掻いた。
「うそだ…!」
「なんでだよ、本当だよ。RELAYは俺が行き詰まってて…少し休みたかった、それだけだよ。だから圭吾のせいじゃない。『行き詰まってた』なんて、かっこ悪いから言わなかっただけ…」

 まだ信じられない俺の涙を蓮はまた手で拭った。 

「控室での冒頭インタビューをさ、こっちの控室で、みんなで聞いてたんだよ。あの後にお前にあのセリフを言うの、マジでしんどかった」
 蓮がそう言うと、ドラムの藤崎が少し神妙に頷いた。
「うん。俺はあの時、蓮のセリフ聞いて…蓮は凄い俳優だなって思ったよ。俺じゃ言えないよ。だってさ、かわいそうじゃん…俺のせいだって、健気に思い詰めてる圭吾に『帰れ!』とか…。セリフでも、俺なら言えないよ。絶対!」
 藤崎は本当に感心していたようなのだが、蓮に肘で小突かれた。

「いやこれ、俺だけ損してない?俺の好感度、大丈夫?」
 蓮がそう言うとスタジオ中に笑いが起こった。俺は皆が笑っている間に、急いで涙を拭いた。
 マコトはドッキリの看板を持ったまま俺と、蓮に聞いた。

「じゃ、遺恨なし。仲直りってことで良いの?」
 俺はマコトに確認されて、蓮の方を見た。
「いや、初めから喧嘩とかしてないんだよ。圭吾が変に誤解して、俺を避けてただけで…」
「そうなの?!」
 俺が驚くと、蓮は目を細めた。ん?何…?やっぱり違う?
「そうだよ」
 そして意味深に笑った。

「じゃ!本当に、仲直り!」
 マコトに号令されて俺たち…蓮と俺と、藤崎も入って仲良くピースサインをして写真に収まった。
 周りをよく見ると、ラジオのスタッフさん数人と阿部マネージャーが泣いていた。そうだ。突然の活動休止、事実上の解散となってみんなに心配をかけていた。ここに見える人以外…あの日ライブ会場に来てくれたファンの人たちにも、きっと。

 そう思うとまた涙が溢れた。

「いろいろ解決して良かったな。ホント、どうなることかと思ったよ」
 ドラム藤崎は感慨深げに微笑むと、俺の顔を覗き込んだ。
「実は俺、圭吾の連絡先をマコト君の他にも、2~3人に教えちゃったんだよ。で、その後、薬騒ぎに神谷さんの騒動があったろ?焦ったぁー!」
 薬騒ぎは誤解だけど…。藤崎は「でも大丈夫だったんだろ?」と俺に尋ねた。

 俺はなんと答えていいか、わからなかった。悪いこともあったけど、いいこともあったと思う。人との出会いが俺を変えて、今日につながった気がするんだ。
 でも蓮は「人の番号勝手に教えるとか、本当にない…」といって藤崎を睨んだので、大きな身体を小さくして、藤崎は改めて俺に謝罪した。

 これで本当に、全部、仲直り…?

「圭吾、このあとラジオ番組用で歌、収録するけど大丈夫か?」
 蓮に聞かれて俺は、はっとした。
 歌うと思っていたから泣くのを我慢していたのだが、ドッキリに引っかかって、見事に大泣きしてしまった。涙と鼻水も出てしまって、鼻声になっている。
「う…うん。顔洗ってうがいして…ちょっと時間貰えれば、なんとか」
「わかった」
 もう年末だ。収録を後ろに伸ばすのは無しだろう。蓮は番組のディレクターと話して、いったん休憩、ということになった。

 俺は洗面台の備え付けられている小さな控室に移動させてもらった。阿部マネージャーはラジオスタッフと話をする、と言って出て行ったので俺は一人になった。
 顔を洗ってうがいをしてから声を出してみて、なんとか行けそう、とほっとしたとき、控室のドアをノックする音が聞こえた。

「はい」
 そう呼びかけると、挨拶もなく扉は開いて、内鍵を閉める音がした。 

「圭吾」

 部屋に入ってきたのは蓮だった。

「蓮…」

 蓮はあっという間に俺を捕まえて抱きしめた。何も言わずに、蓮は俺にキスした。長くて、深いキス。ああ、これは息できなくて、溺れてもいいやつ…。

 キスが終わると蓮は俺のおでこに額をぴったりとくっつけて、唇が触れるくらいの距離で囁いた。

「本当はまだ怒ってる。俺がなんで怒ってたか、わかる?」
「あの日、俺が寝ちゃって…」
「違う、圭吾が俺に黙って帰ったからだ」
「黙って帰ったから…?」
 それって、蓮、ひょっとして…。

「普通、帰れって言われても、部屋まで追いかけて『ごめん』って抱き着いてくるだろ?」
 蓮は俺をじっと見つめて、不満気な顔をした。
「あの、ツアーの後もさ…普通、俺の家まで来て、『辞めるな』っていって、抱き着いて止めるだろ?」
 蓮の中で、『抱き着く』のはマストなんだろうか?とてもそれができるような雰囲気じゃなかった。しかも。

「だって、蓮は他の人と一緒に帰ったから」
「ふりだよ…!でもそんなの見たら、余計行くだろ、普通。少なくとも連絡はするだろ?」
「そんなことしたら、うっとおしいかなって思って…」
 蓮は小さく一つ、ため息を吐いた。

「何もわかってない、圭吾は。お前あの日もコンビニで、俺の好きそうなものを買って置いていっただろ?でも、俺が一番好きなものは置いて行かなかったんだよ」
「一番好きなもの…?」
「上村圭吾」
「蓮…!」
「ほら、わかってない。だから怒ってたんだ。ずっと」
 蓮はもう一度キスをした。軽く音を立てて唇を吸われた。甘い雰囲気だけど、蓮は不満気な顔のままだ。
「ごめん…」
   やっぱり俺、あの日は帰っちゃいけなかったんだ。蓮がつらい時、一緒にいなきゃ、いけなかった。

「REPLAYの曲だってそうだ。思わせぶりで、誰のことかはっきりしなくて…。俺のファンとか言って、ファンって何だよ恋人じゃねーのかよって、イライラした」

 俺は、蓮の言葉にドキリとした。蓮はREPLAYは俺って知ってた?知ってて俺に、ダイレクトメッセージ、送って来てた?

「蓮、あれが俺だって知ってた…?なんで…?」
「なんで…って、あれはまんま圭吾じゃん。俺のタブレット、お前がいつもいじってたから、キーワードで関連動画にすぐ出てきてさ…。アニメ画も似てると思ったけど、話す声なんか変えてるつもりかもしれないけどそのまんま…。しかも歌ってる時の高音は圭吾がイク時の声だよ?」
「うそっ!?」
「本当…。俺にばれない方がおかしい」
「あれ、蓮へのメッセージだったんだ。俺の渾身のメッセージ…。好きだよ。蓮。好き。離れて初めてわかったんだ。楽しい時もつらい時もいつも側にいたい」

 蓮と至近距離で見つめ合った。見つめ合ったらこれから歌うのに、また涙が溢れてしまった。

「泣くなよ。本当は…もう怒ってない。この間、コンビニで会ってキスした時に、全部許してた。この企画があって言えなくて…。本当はあの日、連れて帰りたかった…」 

 蓮は俺が落ち着くまで、頭を撫でたり、涙を拭いたりしてくれた。

「今日、圭吾を連れて帰ってもいい?」
「うん」
 蓮は笑って、俺をぎゅっと抱きしめてから「先に行ってる」といって控室を出て行った。

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