ピッキング

奥澤緩菜

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鍵屋の神様

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真っ青な空に、パタパタと泳ぐ鯉のぼり…

店を開けても、客すら滅多に来ない昼下がり…

居間でのんびりお茶をすすっていたら、母さんがいきなり息を荒くして入ってきた。

「ちょっと、輝明。あんた、そんなとこで油売ってんならこれでも配ってきて!!」

と目の前にゆうに500枚はあるであろうチラシを置いた。

「…。また?」
「そうよ!!あんたサボッてばっかりで、なんの宣伝もしないじゃないの!自転車にのぼり旗をつけて、その辺走り回るだけじゃだーめだめ!!」
「…。」

『それでもいいと言ったのは、母さんでは?』

「ほら、行った行った!今日は、駅前のスーパーでティッシュの特売があるから、ついでに買ってくるんだよ!!」

『どっちが、ついでなんだろうか?』

とりあえず、適当にチラシを鞄に入れ、のぼり旗のついた自転車に股がり、駅前のスーパーひらいに向かった。

ここ砂川通りは、俺の事を知ってる人が多く、顔を合わせば、呼び止められ少し話す、呼び止められ、少し話すを繰り返す…

スーパーひらいに着いたのは、10時をかなり過ぎていた。

「あっ、輝明ー!」

とワイシャツ姿で駆け寄ってきたこのデブ…いや、平井謙。アーティストの平井堅とは似ても似つかぬ巨体!

話を戻そう…

スーパーひらいの若オーナー・平井謙が、汗を流しながら駆け寄ってきたのだ。

まだ、4月というのに、大量の汗…

「なんだよ、デブ…」
「輝明、いま暇?!暇だよね?ありがとう!きて!!」
「…。いや、俺、仕事…。って、聞けーーーっ!!」

と抵抗するもデブの力に敵う訳もなく…

事務所に連れてこられた…

「なに?」

事務所の中は、引き出しは開けっぱなの、床には書類らしきものが散らばっていた…

「空き巣?」

『でも、開店してるよな?ここ…』

「鍵が見当たらないんだよ…輝くん。お願い!うちの金庫、開けて!あれが開かないと、今月分のお給料が…」

お今度は、デブが泣きそうな顔で懇願してきた。

スーパーひらいは、昔ながらのやり方で毎月の給料を手渡しで渡している。

『簡単な道具は、いつも持ってるが…。』

「どれくらいたってんだ?これ。」

金庫を叩くと、冷たく重い音がする…

「親父の代からだから、40年?」

『傷1つ無く、自分の存在をより深くアピールしてやがる…』

「あっ、えっちゃん!ありがとう!!はい!!道具!」
「…。」

俺の道具を、自転車からパクッてきたえっちゃんこと平井恵美は、中学の同級生で、いまは、このデブの嫁!くぅ!俺には、彼女すらいないのに!!

「ど?開けれそ?」
「まぁ、このクラスなら1時間以内か。」
「じゃ、僕たち出てるから!終わったら…」
「了解!」

ふたりを事務所から閉め出し、大きな黒光りな金庫を眺めた…

「やりますか…。」

金庫の前にしゃがみ、精神を集中させ、スコープで鍵穴を照らしながら、合うピックを差し込む…

「これか…。で、次はっと…」

大きなダイヤルと小さなダイヤルを合わせて行くんだが…

「あれ?ん?…。」

格闘すること10分…

「あと少し…あと…」

カチッと静かな音がした。

レバーを引くと、金庫の扉が開く…

「平井ーーーっ!!」

とデカい声で呼ぶと、嫁と一緒に顔を出した。

「開いた?」
「まだ、1時間たってない…よね?謙ちゃん。」
「…。」

で、大きな巨体で、扉を開けた平井…

「あったーーー!!えっ?なんで?!」

と小さな何かを取り出して、天に翳したのは…

「鍵、よね?輝くん。」
「だな。どうみても、かーぎ、だよな?謙!」
「…。」

大きな巨体から、また汗が流れてくる平井…

「そういやぁ、昨日帰るのにバタバタしてて…ごめんねぇ。」
「倍、だな。」
「…。」

「全く、お騒がせなんだから!!もぉっ!!」
「毎度!!」

で、料金を受け取って、出ようとしたら…

ガチャッ…

「あっ!!!青川さーん!!ちょうど良かった!!」

『なんとなく、嫌な予感…』

パートでレジをしてる間宮さんが、事務所に入ってきた。

「どうかしたのー?利香ちゃん。叶多くん、どう?」

とのんびり恵美が話しかける。

「それがねー!!じゃなくて、大変なんです!赤ちゃんがいるんです!!」
「うん。」

『でしょうね。もう少しで産休か?』

確かに、利香さんのお腹は、ぷっくりしてる。

「どこ見てんですか!セクハラですよ!!駐車場の車に、です!!今、泣き声が聞こえてて…覗いたら赤ちゃんがいて…待ってても、お母さん来なくて…」
「大変!!急がないと!!」

で、恵美さんが、利香さんから聞いた車のナンバーの持ち主を探す放送をやり、俺、利香さん、デブの3人は、急いで…いや、デブを除いて…車に走っていった。

何人かの客も心配そうに覗き混んでるし…

『軽なら、足りるか。』

「はぁっ、輝くん…あっ!生きてる!」

全員の冷たい視線を浴び、平井は、小さくなることは無かったが…

「たぶん、あっちにいるんじゃない?」

と隣接してるパチンコ店を指差したが、探す時間なんてない!

「少し、静かにしてくれませんか?」

と周りの人を遠ざけて、鍵穴に手を翳す。

『待ってろよ!助けてやるからな!!』

車の中では、水色のキャップを被った赤ん坊が、必死に泣いている…

スコープで鍵穴を照らし、細目のピックを2本入れ、ゆっくり慎重にずらしてく…

4月と言えど、今日は最高気温が真夏とか言ってた…汗が流れてくる…

『待ってろ!待ってろ!』

心の中で、必死に語りフィットするのを待つ…

カツンッ…

『手応えあり、だな。』

ドアを開けると、中からはモアッとした空気が流れる。

「あっつ!!なんで、暖房?!」

チャイルドシートで泣き続けてる赤ん坊を必死で抱き抱えると、服が汗でかなり濡れていた。

「これ、大丈夫かな?」

お客さんが、たまたま持っていたウエットティッシュやタオルで赤ん坊の顔や腕を拭いてやると、少しずつ泣き止んできたが…

「いるんだよね?」
「たぶん…」
「あっ、どうもありがとうございました!」

と何人かのお客を帰し、日陰へと移動する。

「こねーな。」

デブから連絡を受けたえっちゃんが、かけてきて、赤ん坊を抱き締めた。

「良かったー!生きてて!!」

濡れた服だと風邪をひくと言って、デブが適当にベビー服とかを持ってきたらしく、えっちゃんが、着替えさせ、薄めたポカリウエットを飲まし終わった後に…

「あんたら、誰?」

茶髪のケバい女の子登場…

「卓弥になにしてんの?」
「あんたが母親?」
「うん。」

赤ん坊が、女の子を見て手を伸ばす…

「嘘だろ。」
「返して!卓弥を返して!」
「おい、あんた。今までこのこ、ほっといてどこにいた!?」

俺の勢いに女の子が、1歩下がった。

「か、買い物…に。とにかく、卓弥返して!!」

赤ん坊が、泣きそうだったが、すぐには渡さない。

「あんた。自分が、なにしたのか、わかってんのか?!」
「寝てたし。ちょっと位なら…」
「ちょっと、だ?俺らここにきて、2時間たってるぞ!」

赤ん坊が、泣き始め、女の子に手を伸ばす…

「ちゃんと、冷房つけたし、窓も少し開けといた…」
「嘘つけ!車の中、暖房入ってたぞ!窓も、閉まってた!」

女の子が、俺らを見る…。

「嘘じゃないわ。一応、切ったから。」

女の子が、車の中に駆け込んで…座り込んだ。

「ねぇ、お洋服汚れちゃうよ?」

と場違いな声かけをしたデブは、恵美さんに脇腹をつつかれた。

「なんでー?ちゃんと、冷房にしたはずだったのにー。」

女の子と赤ん坊を事務所に連れてき、恵美さんが、こっぴどく説教!!恵美さんも子供いるからね。父親は、デブだけど。

「本当にごめんなさい!」
「いや、謝る相手違うし。まずは、自分の子供に謝るべきだ。」

卓弥という赤ん坊が、また泣き始めたのを機に、帰らせたが…

「あーーーーーっ!!お金請求するの忘れたーーーっ!!」

とまたデブが騒ぎだした。

「お金?貰ったけど?」
「違うし。あの女の子…」

バンッ…

「パパッ!あんたって人は、情けない!!人様の命が助かったんだから!!いいじゃないの。服の1枚や2枚。」
「…。」
「でも、えっちゃん持ってきたの…あれ…イルマージュだよね?」
「検品してたから…。まっ、それは、パパのお小遣いからってことで!!ねっ!!」

と、恵美さん俺を見る。デブも俺を見る。

俺?

「じゃーなー。」

と去っていく!!


「疲れた…。」

で、家に帰り畳の上に寝転がるも、何かを忘れてる気がする…

「輝明?ティッシュは?」
「あっ…。忘れた。」

で、この年になって、また説教される始末…。

この日の事が、夜の内に広まり…

「鍵屋の神様」扱いされてる俺…。

けどな、俺…神様って柄じゃないんだよね。

俺…実は…「犯罪」犯してる。

「空き巣」と言っても過言ではないけど、金品とかではなく…「下着」を1枚拝借しては、ナニにしてるから…

「はっ?言えって?こんなとこで言えるかってーの。俺が、盗んだ下着の匂いを嗅いで、マスターベーションしてるだな…」

ゴクッ…

「えっ?俺、言ってた?そ、そう…。な、なに笑ってんだよ。頼む!だ、誰にも言わないでくれ!!頼むーーーーーーっ!!」



と、まぁ悪い事とはしりつつも、己の性癖を知られたくない男の話です…。
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