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8 新たなドキドキを知りました!

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 街並みをぐるりと見渡せる屋上で僕は友達の貴腐寺院きふじいんさんに、エレンくんとの関係について相談していた。


「αの男の子の性欲って、言葉では言い表せないほど尋常じゃないよね……」


 僕を幸せにするためなら何でもやってくれるエレンくんには普段から無理をしてでも長時間のセックスで恩返ししていた。最近はエレンくんからエッチを求められる頻度が上がり、2人っきりで会う時間の全てをセックスに費やすほどだ。


「どんなイケメンだって、結局は下半身でしか物事を考えられないからね。所詮αの男はΩを性的に搾取するモンスターでしかないわけよ」


 そう言うと、貴腐寺院きふじいんさんは柵に右肩を寄せ、グラウンドを我が物顔で占拠しているαの男子野球部を見詰めた。


「ほら、うちの野球部を見てごらん。あいつら、野球がやりたくて入部してきたΩの子をマネージャーとしてこき使ってるでしょ。Ωの子から野球をする権利を奪って、αの男にとって都合のいい肉便器に仕立て上げるつもりだよ……」


 僕もグラウンドの方を見てみると、そこには嫌がるΩの子のお尻をαの野球部員が撫で回しながらニヤついている光景があった。


「Ωってだけで下に見られて、性的に消費されて、人生をαの支配下に置かれる。どんなに抗ったところで、ΩはΩとしての役割からは逃れられない。だから、この現実を受け入れるしかないんだよ……」


 貴腐寺院きふじいんさんの言葉が僕の心にズシンと響いた。


「でも、かなでくんは幸せな部類だよ。ちゃんと愛して守ってくれる素敵な彼氏がいるんだからさ♡ それにΩでもかなでくんは男の子だから、うちの学校の女子の制服を着なくてもいいんだから本当に羨ましいよwww」


 Ωでも男子は黒一色の至って平凡な制服だが、対して女子用の制服は薄ピンクの地に赤い襟と大きなリボン、袖口を重ねた色鮮やかなものだった。靴下は白色限定、靴も茶色の革靴と決められているが、髪は染めない限り自由だ。
 ちなみに体操着やスクール水着は男でもΩの場合はブルマと女子用水着の着用が校則で義務づけられている。理由は不明だ……。


「朝起きて学校の制服に着替えるたびに一日が憂鬱な気分でスタートするよ。喪女の私にこんな格好が似合うかっつーのwww」


 貴腐寺院きふじいんさんが苦笑すると、赤いスカートが襟と同じく風に靡いて、脚を膝の裏まで晒した。


「おっと……危うく小汚いサニタリーショーツが見えちゃうところだったよ。やっぱり喪女にとって、この制服は罰ゲームだなぁ。スカートなんかなくなればいいのに……」


 今日の貴腐寺院きふじいんさんがメランコリックな理由が分かった僕はコミュ障なりにフォローする。


「確かに生理中にスカートだと、身体が冷えたり、ナプキンがずれやすかっりして大変だよね。でも、モデルさんみたいに背が高い貴腐寺院きふじいんさんにはよく似合ってるよ。とっても女の子らしくて、可愛さ限界突破しちゃってる感じ♡」


 僕は考えつくだけの褒め言葉を並べると、貴腐寺院きふじいんさんは頰を真っ赤にしながら動揺する。


「わ、私が女の子らしいって……本気で言ってるの⁉︎ 今までろくに女扱いされてこなかった私なんかが⁉︎」
「うん、貴腐寺院きふじいんさんは僕が今まで出会った女の子の中で一番魅力的な女の子だよ♡」


 今の言葉は僕の本心だ。これまでの人生で出会ってきた女の子はΩの僕をイジメたり、差別したり、嫌って避けるような人間ばかりだった。
 でも、貴腐寺院きふじいんさんはΩの僕に対しても、ひとりの人間として尊重してくれただけでなく、友達になってくれた。
 こんなにも素晴らしい人間がこの世界にエレンくん以外にもいたことを知って、僕は人生に改めて希望を持つことが出来たのだ。


「今まで男との人間関係で散々傷つけられてきた私はいつしか『女らしさ』に価値を見出せなくなって、髪を刈り上げたの。どうせ傷つけられるんだったら、女らしくしたって意味がないし、それどころか搾取されるだけだってことに気づいたから。でも、の前でだったら……女らしくするのも悪くないかも♡」


 貴腐寺院きふじいんさんは頰を押さえて真っ赤になりながら言った。


貴腐寺院きふじいんさんにも好きな男の子がいるんだね」
「うん……最近できた。ねえねえ、かなでくん。明日から私がかなでくんにお弁当作ってきてあげるね♡ こう見えて私、料理には自信があるんだぁ」


 そう言うと、貴腐寺院きふじいんさんは恥じらいながら熱っぽい視線を僕の方に向けてくる。


「それだったら、僕に料理教えてくれない? ほら、男を掴むなら胃袋を掴めって、よく言うじゃない。だから、エレンくんに僕も手料理を食べさせてあげたいんだ」
「もちろん、かなでくんの頼みなら喜んで♡」


 その日から貴腐寺院きふじいんさんの指導の下で僕の料理修業が始まった。




ーーー




 ひとり暮らしのエレンくんが帰宅したのは陽が沈んでからだった。


「ん? なんか良い匂いがするな。誰か俺の家にいるのか?」


 キッチンの方からは匂いに限らず様々な物音がする。


「やはり誰かいるようだなぁ。よし、覗いてみるか」


 忍び足で台所に歩み寄ってくるエレンくんに僕は声をかけた。


「エレンくん、おかえり~♡」
かなでッ⁉︎ 俺のために料理を作りに来てくれたのか!」
「うん、貴腐寺院きふじいんさんに教えてもらったんだ♡」


 僕はカレーをかき混ぜながら味見をする。


「よ~し、今日は美味しくできたみたい!」
かなでが俺のために作ってくれたものなら何だって美味しいに決まってるぜ♡」


 出来上がったカレーを皿に盛り付けてからエレンくんと一緒に美味しくいただく。
 エレンくんはハフハフと熱い吐息を交えて感想を述べる。


「こんなにも美味いカレーを食ったのは生まれて初めてだぜ! かなでの真心が口の中いっぱいに広がるみたいだ♡」
貴腐寺院きふじいんさんのおかげで、僕も少しは料理ができるようになったんだ。これからも貴腐寺院きふじいんさんには色々な料理を教えてもらう予定だから楽しみにしててね♡」


 僕がそう言うと、エレンくんは少しばかり眉をひそめる。


「ずいぶんと貴腐寺院きふじいんさんと仲良くなったみたいだなぁ。学校でもよく話してるみたいだしよ」
「うん、何だか不思議と貴腐寺院きふじいんさんとは気が合うみたいなんだ」


 エレンくんは不安げな瞳で僕の顔をまじまじと見つめながら言った。


貴腐寺院きふじいんさんが悪い人でないことは知ってるが、少しばかりかなでと距離が近過ぎるような気がするんだよなぁ」


 そう言うと、エレンくんは改めてカレーを口に運んだ。


「えっと……どういう意味?」
かなでは天然だなぁ。要するに貴腐寺院きふじいんさんは明らかに俺のかなでに対して好意を持っている。悪いことは言わねえから、貴腐寺院きふじいんさんとは距離を置いた方がいいぜ。面倒くさいことにならねえうちによ」


 エレンの言うことに困り果てた僕は瞳を潤ませながら反論する。


貴腐寺院きふじいんさんが僕のことを異性として見てるわけないじゃない。エレンくんみたいなカッコいいイケメンならともかく、僕みたいに背が低くてコミュ障で男らしさの欠けらもないようなΩの男に好意を持つ女の人はいないよ」


 自分で自分を卑下したくせに、僕は勝手に凹んでいた。
 所詮Ωである僕には産む機械としての役割しか期待されない肉便器だということを強く自覚させられてしまう。


「むしろ俺はかなでのそういうところに惹かれたんだけどなぁ。かなでを守るために俺はαの男として苛烈な競争社会にも屈せず、頑張ってこれたんだ。言わば、かなでの存在が俺を強くしてくれたんだぜ。だから、かなでは安心して全てを俺に委ねればいい。Ωはαの男の庇護下で成長していくのだから」


 そう言うと、エレンくんはいつの間にか山盛りあったカレーを全て平らげ、デザートに僕を美味しくいただくのであった。




ーーー




 あれから僕はエレンくんに言われたことを気にして貴腐寺院きふじいんさんとの距離感に悩んでいた。
 それでも貴腐寺院きふじいんさんの方はいつも通り気さくに話しかけてきた。


かなでくん、聞いてよ。今日、放課後に私とかなでくんだけで体育の補習を受けさせられるんだって。いつも体育は見学ばかりしてるから仕方ないとは思うけど、面倒くさいよね~」


 僕と貴腐寺院きふじいんさんは生理を言い訳にしょっちゅう体育を見学していた。
 今回の補習の内容は僕の大っ嫌いな水泳だ。
 冬でも、うちの学校は温水プールを完備してるから体育で水泳の授業をしょっちゅうやっている。


「はぁ……僕は水着を着るのが嫌なんだよね。はっきり言って、ブルマを穿くより抵抗あるよ」
「その気持ち分かるなぁ。水着が濡れた時に乳首の形が浮いて見えるのが、すごく嫌なんだよねぇ……」


 僕たちは愚痴をこぼしながら、スクール水着に着替えると、プールに行く。
 そこには早くも体育教師の助部すけべ先生が仁王立ちして待っていた。


「遅いじゃねえか、テメエら! やる気あんのか~ッ⁉︎」


 助部すけべ先生は胸の大きい子にだけ甘くて、男子や喪女に対しては厳しい体育会系気質の人だった。


「いつも生理を言い訳にして体育を休む根性なし共めッ! 生理など気合いや根性でいくらでも我慢しろ~! お前らのようなワガママで甘えたクズ共を鍛えるために、オレは貴重な時間を割いて補習をしてやっているんだ。有り難く思えwww」


 生理中の苦しみを理解しようとしない男といると本当に反吐が出る。
 本当はのたうちまわりたいほど生理で常日頃から苦しい思いをしているのに殆どの男は全く理解してくれようとはしない。それどころか、甘えてるだとか根性が足りないとか言いがかりをつけてイジメてくる始末だ。


「先生、私たちは甘えてなんかいません! 生理中でも、必死に耐えて一生懸命毎日頑張ってるんです! 勝手に決めつけないでもらえませんかッ!」


 すかさず貴腐寺院きふじいんさんが助部すけべ先生に反論する。


「おい、貴腐寺院きふじいん! 女の分際でオレに口答えするとは一体どういう了見だ⁉︎ 女は女らしくしおらしくせんか~ッ!」


 助部すけべ先生は男尊女卑丸出しのセクハラ発言をしたかと思えば、貴腐寺院きふじいんさんに掴みかかる。


「だいたい女のくせに何だ、その髪型は⁉︎ 胸はペチャンコだし、無駄に俺より背は高いし、脚も太いではないかッ! それでよく女として生きていられるなぁwww」


 助部すけべ先生は貴腐寺院きふじいんさんの容姿をとことん貶めると、ゲラゲラと高笑いをする。
 頭にきた僕は反射的に助部すけべ先生に食ってかかった。


貴腐寺院きふじいんさんがどんな髪型をしようと本人の自由だし、容姿で女の人の価値を判断するのは不当な差別としか言いようがない! これ以上、僕の友達の尊厳を傷つけるような発言は許さないッ!!!」


 僕の発言に激昂した助部すけべ先生はブチギレて襲い掛かってきた。


「Ωの分際で生意気言うんじゃねえ~ッ!!! テメエみたいな女の腐ったようなヤツに人権はねえんだよ! 可哀想なヤツだぜ、せっかく男に生まれてきたのにΩってだけで死ぬまでαの肉便器にされるんだからなぁwww」


 助部すけべ先生は僕の体軀をスクール水着の上から縄で縛り始めた。胸の真ん中を通ってぐるりと一周、腰から股間を網目に近い形で覆っていく。捕らえた僕の両手を背にまわして肩を引っ張る。
 やがて僕の身体は亀甲縛りにされていた。


「うぅ……き、きつい……!」


 スクール水着には縄が深く食い込んでいた。模様は亀の甲羅を思わせる、過酷な緊縛である。


「ちょっと……そんなのただの虐待じゃない! かなでくんを離してよッ!」


 僕を救出しようと駆け寄ってきた貴腐寺院きふじいんさんのお腹を助部すけべ先生が思いっきり蹴り飛ばした。
 貴腐寺院きふじいんさんは立っていられない様子で眉をたわめ、プールサイドに震えながら尻餅をつく。


「バカめ、女の力で男に勝てるはずがないだろうッ! 女だてらに粋がるからこうなるのだ。これに懲りたら、これからはせいぜい女らしく生きることだなぁwww」


 そう言うと、助部すけべ先生は海パンの中から赤黒いグロテスクなモンスターを召喚した。


「今からお前たちが何のために生まれてきたかを身体で教えてやる。念入りに、徹底的に、もう二度とαの男に刃向かおうなどという気が起こらぬようになwww」


 勃起して隆々とそそり立った巨大な肉塊が、僕の鼻先へ突きつけられる。先端の割れ目から透明な粘液を滲ませる亀頭がゆっくりと唇をなぞってきた。


「ほ~ら、早く咥えんかwww」


 青黒く浮かび上がった血管を駆け巡る、ドクッ、ドクッという脈動が唇に伝わってくる。その不気味な感触に、僕はゾクリと背筋を寒くした。


「私のかなでくんから離れろって言ってるでしょうがッ!」


 涙目で震えながらも貴腐寺院きふじいんさんが果敢に立ち向かっていこうとした瞬間、助部すけべ先生の身体が数10発のナパーム弾を食らったかのように吹き飛んでいった。


かなで、大丈夫か~⁉︎ このクソチビ野郎に穢されたりなんかしてねえよなッ⁉︎」


 エレンくんの正拳突きを後ろから何発も食らって、助部すけべ先生は数メートルも吹っ飛ばされたのだった。


「ありがとう、僕は大丈夫だから。それより貴腐寺院きふじいんさんの方が心配だよ……」


 フラフラになりながらも貴腐寺院きふじいんさんは僕たちの方に歩み寄ってきた。


「さすが、エレンくんだね。やっぱり、かなでくんを守れるくらい強い男の子じゃないと釣り合わないか……。邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」


 そう言うと、貴腐寺院きふじいんさんはトボトボと去っていこうとする。
 エレンくんがこちらに目配せしたのに気づき、僕はとっさに頭の中で思いついた言葉を並べて言った。


「さっきは僕を庇ってくれてありがとう! 貴腐寺院きふじいんさんは僕の唯一無二の親友だよ♡ だから、これからも仲良くしてね……」


 僕は亀甲縛りにされたままの情けない格好で激励の言葉を述べる。
 貴腐寺院きふじいんさんは立ち止まると、いそいそとこちらに戻ってきた。


「もちろん! むしろかなでくんに感謝してるのは私の方だよ♡ さっきみたいに普段から男にイジメられてる私に優しくしてくれるのはかなでくんだけだから……」


 貴腐寺院きふじいんさんは大粒の涙をボロボロ流しながら僕をギュッと抱きしめる。その光景をエレンくんはジト目で見つめていた。


「ごめんね、エレンくん。出過ぎた真似をして……」
「いや……別に誤ることはないけどよ」
「そう。だったら、こんなことしてもOKね?」


 貴腐寺院きふじいんさんは亀甲縛りにされていて身動き出来ない僕のお尻を撫でまわす。


「きゃんッ!」


 思わず妙な声をあげて身体をビクビク痙攣させる僕を見ながら貴腐寺院きふじいんさんは満面の笑みを浮かべる。


「あ、こら~! 俺のかなでに何しやがるwww」


 エレンくんの予想通りの反応に貴腐寺院きふじいんさんはケラケラ笑う。


「2人とも面白~い♡ ふふふ……やっぱり、男女の友情は成り立たないのかも。可愛い男の子が目の前にいて、健全な女子が性的な感情を抱かないはずがないものwww」


 そう言うと、貴腐寺院きふじいんさんは艶かしいまなざしを僕に向ける。
 その時、僕は生まれて初めて女の人にドキドキしてしまった。エレンくんに対して感じたドキドキとは一味違う感覚に戸惑いながらも僕は貴腐寺院きふじいんさんの身体を優しく抱きしめ返すのであった。
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