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神との闘い編
40 新たなるプロローグ
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月が出ていた。
森自体が安らかな夢を見ているかのように、静まりかえっていた。
「ふぇぇ……外で遊んでたら、知らない間に変な所に迷い込んじゃったよぉ~」
重なった枝の隙間から降り注ぐ白い光を受け、空気がゆらゆらと輝く森の中、ナギサはひとりさまよっていた。
じっと留まっているのも怖いので、ナギサは勘を頼りに歩き始めた。
歩き始めてすぐに陽が沈み、森は黄昏に包まれて周囲は真っ暗になった。
「疲れたよぉ……お腹すいたよぉ……。ミライパパ……ヒビキパパ……うッ、うぅッ……」
ヘタリ込んだナギサは大きな目を涙で潤ませ、か細い声で泣きだした。頼る者もいないこんな状況は、ナギサにとって初めての経験だった。
しかし、いつまでもここで泣いているわけにもいかず、ナギサは立ち上がった。半ベソかいたまま、とぼとぼ進む。
安全な所ではない。まして夜だ。
ナギサは何者かに誘われるようにフラフラと静寂に支配された森を歩き続けた。闇の中を彷徨うナギサの瞳は茫乎とし、どこか危なっかしい歩みは夢遊病者を思わせた。
やがて、行く手を塞ぐ木々の連なりが途切れた。
月光蕭然たる広場には、世にも美しい青年がひとりたたずんでいた。
「――なんて綺麗な男だろう……」
目の前の青年は性に奥手なナギサが、思わずぽっと頰を染めるほど美しい容貌をしていた。
背中に天使のような羽を持ち、輝く金髪は足もとまで届くほど長い。蒼茫とした夜気に溶けいってしまいそうな、たおやかな肢体。白に金銀をあしらった神聖な衣からのぞく雪よりも白く、透き通った肌。そして、艶やかな唇――神の化身を思わす、玲瓏とした美青年だ。
幻想的な光景の中、美青年の唇から美しい歌が紡がれていた。
どこの国のものとも知れぬ神々しいメロディー、迷える子羊を労わるような歌詞。
それは目の前にいるナギサに贈られた歌だった。
優しい歌声に、独りはぐれた心細さも忘れたナギサの心から、恐怖も疑いも消え失せて、澄んだ声に魅入られたようにフラフラと広場に進み出ていた。
ふいに歌声がやみ、黄金の風が揺れた。青年が振り向いたのだ。
「やあ、君がミライくんとヒビキくんの子だね♡ 君のパパたちのことをよく知ってるよぉ~♡」
「パパたちの知り合い? 良かったぁ~! えっと……ぼく、ナギサです。よろしくお願い致します♡」
邪気のない美青年の声を聞いた瞬間、頰が熱くなり、ナギサは夢心地で名を名乗り、迷子になってしまった旨を伝える。
「道に迷ったんだね♡ そういうドジなところはミライくんに似ちゃったんだろうなぁ~♡」
「あの……あなたは?」
「私は神様です♡」
神様はナギサへ慈愛のこもった微笑みを浮かべて言った。誰もが見惚れてしまう、絶世の美青年ぶりだ。
「はあ……そうですか」
「ふふふ、その反応を見てると、ミライくんと初めて出会った時のことを思い出すよ♡ ナギサくんはどこまでもミライくんにそっくりだなぁ~♡」
神様はナギサの顔に近づいていく。香水とも神様自身の体臭とも知れぬ芳香がほのかに漂い、ナギサの嗅覚を蕩かす。全ての者を淫靡にする、甘く蠱惑的な香りだった。
長くしなやかな睫毛に飾られた碧瑠璃の瞳に見つめられたナギサの意識は、たちまち淡いベールで覆われた。可愛らしい瞳をうっとりとさせて月光に浮かぶ美貌を見つめる。
滑るように神様は近づき、雪よりも白い手がナギサの陽に灼けた手を取った。甘い香りが辺りに漂った。
「おや、ココ怪我しているね……ダメだよ、せっかく可愛い顔してるんだから、もっと気をつけなくちゃ♡」
ナギサの右頰に小さな傷があった。森を歩く途中、灌木で引っかけたものだ。薄く血がにじむ紅い筋を神様はチロリと舐めあげた。
ナギサは立ちすくんだまま目を閉じ、甘く溶けた声を震わせた。
「本当に可愛いよ、ナギサくん♡ ――どうやら本気で君に惚れてしまったようだ」
そう囁くと、神様はナギサくんの服を脱がして健康的な肌を撫でまわした。
神様の優しげな瞳が妖しい色彩の光を放った。
「本来ならば神の愛は平等でなくてはならない決まりなんだけどね……もう、そんなことはどうでもいい。――ナギサくんは私だけのモノだ」
見る者の心を奪う魔性の笑みを浮かべた白皙の美貌が、ナギサの顔へ近づいた。
全ての者を虜にする芳香がナギサを包み込んだ。
「私の恋人になれば、その美しい姿のままで永遠の時を生きられる身体にしてあげる――うれしいでしょ、ふふふ♡」
艶っぽい囁きとともに神様の唇が重ねられた瞬間、ナギサの意識は水泡となってちぎれた。押しのけようとした手が力なく滑り落ち、見開かれた瞳は焦点を失った。
「さあ、おいで……私の可愛いナギサくん♡」
唇を離した神様は、森の中を悠々と歩き始める。その後を、意志を失ったナギサがふらふらとつづいた。
森自体が安らかな夢を見ているかのように、静まりかえっていた。
「ふぇぇ……外で遊んでたら、知らない間に変な所に迷い込んじゃったよぉ~」
重なった枝の隙間から降り注ぐ白い光を受け、空気がゆらゆらと輝く森の中、ナギサはひとりさまよっていた。
じっと留まっているのも怖いので、ナギサは勘を頼りに歩き始めた。
歩き始めてすぐに陽が沈み、森は黄昏に包まれて周囲は真っ暗になった。
「疲れたよぉ……お腹すいたよぉ……。ミライパパ……ヒビキパパ……うッ、うぅッ……」
ヘタリ込んだナギサは大きな目を涙で潤ませ、か細い声で泣きだした。頼る者もいないこんな状況は、ナギサにとって初めての経験だった。
しかし、いつまでもここで泣いているわけにもいかず、ナギサは立ち上がった。半ベソかいたまま、とぼとぼ進む。
安全な所ではない。まして夜だ。
ナギサは何者かに誘われるようにフラフラと静寂に支配された森を歩き続けた。闇の中を彷徨うナギサの瞳は茫乎とし、どこか危なっかしい歩みは夢遊病者を思わせた。
やがて、行く手を塞ぐ木々の連なりが途切れた。
月光蕭然たる広場には、世にも美しい青年がひとりたたずんでいた。
「――なんて綺麗な男だろう……」
目の前の青年は性に奥手なナギサが、思わずぽっと頰を染めるほど美しい容貌をしていた。
背中に天使のような羽を持ち、輝く金髪は足もとまで届くほど長い。蒼茫とした夜気に溶けいってしまいそうな、たおやかな肢体。白に金銀をあしらった神聖な衣からのぞく雪よりも白く、透き通った肌。そして、艶やかな唇――神の化身を思わす、玲瓏とした美青年だ。
幻想的な光景の中、美青年の唇から美しい歌が紡がれていた。
どこの国のものとも知れぬ神々しいメロディー、迷える子羊を労わるような歌詞。
それは目の前にいるナギサに贈られた歌だった。
優しい歌声に、独りはぐれた心細さも忘れたナギサの心から、恐怖も疑いも消え失せて、澄んだ声に魅入られたようにフラフラと広場に進み出ていた。
ふいに歌声がやみ、黄金の風が揺れた。青年が振り向いたのだ。
「やあ、君がミライくんとヒビキくんの子だね♡ 君のパパたちのことをよく知ってるよぉ~♡」
「パパたちの知り合い? 良かったぁ~! えっと……ぼく、ナギサです。よろしくお願い致します♡」
邪気のない美青年の声を聞いた瞬間、頰が熱くなり、ナギサは夢心地で名を名乗り、迷子になってしまった旨を伝える。
「道に迷ったんだね♡ そういうドジなところはミライくんに似ちゃったんだろうなぁ~♡」
「あの……あなたは?」
「私は神様です♡」
神様はナギサへ慈愛のこもった微笑みを浮かべて言った。誰もが見惚れてしまう、絶世の美青年ぶりだ。
「はあ……そうですか」
「ふふふ、その反応を見てると、ミライくんと初めて出会った時のことを思い出すよ♡ ナギサくんはどこまでもミライくんにそっくりだなぁ~♡」
神様はナギサの顔に近づいていく。香水とも神様自身の体臭とも知れぬ芳香がほのかに漂い、ナギサの嗅覚を蕩かす。全ての者を淫靡にする、甘く蠱惑的な香りだった。
長くしなやかな睫毛に飾られた碧瑠璃の瞳に見つめられたナギサの意識は、たちまち淡いベールで覆われた。可愛らしい瞳をうっとりとさせて月光に浮かぶ美貌を見つめる。
滑るように神様は近づき、雪よりも白い手がナギサの陽に灼けた手を取った。甘い香りが辺りに漂った。
「おや、ココ怪我しているね……ダメだよ、せっかく可愛い顔してるんだから、もっと気をつけなくちゃ♡」
ナギサの右頰に小さな傷があった。森を歩く途中、灌木で引っかけたものだ。薄く血がにじむ紅い筋を神様はチロリと舐めあげた。
ナギサは立ちすくんだまま目を閉じ、甘く溶けた声を震わせた。
「本当に可愛いよ、ナギサくん♡ ――どうやら本気で君に惚れてしまったようだ」
そう囁くと、神様はナギサくんの服を脱がして健康的な肌を撫でまわした。
神様の優しげな瞳が妖しい色彩の光を放った。
「本来ならば神の愛は平等でなくてはならない決まりなんだけどね……もう、そんなことはどうでもいい。――ナギサくんは私だけのモノだ」
見る者の心を奪う魔性の笑みを浮かべた白皙の美貌が、ナギサの顔へ近づいた。
全ての者を虜にする芳香がナギサを包み込んだ。
「私の恋人になれば、その美しい姿のままで永遠の時を生きられる身体にしてあげる――うれしいでしょ、ふふふ♡」
艶っぽい囁きとともに神様の唇が重ねられた瞬間、ナギサの意識は水泡となってちぎれた。押しのけようとした手が力なく滑り落ち、見開かれた瞳は焦点を失った。
「さあ、おいで……私の可愛いナギサくん♡」
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