76 / 87
悪魔の遺伝子編
76 恐怖の遺伝子改良
しおりを挟む
嵐の荒れ狂う都。
人々は堀の上に浮かぶ白い王宮が一瞬のうちに崩れ去るのを目の当たりにすることになった。
そればかりではない。崩れ去った王宮の中から、ギラギラと輝く紅蓮の巨大な炎を纏ったモンスターが現れたのである。
ふだん目にするモンスターなどとは比べものにならないほどに大きかった。
城の塔ぐらいの高さはあるだろう。
全てを焼き尽くすほどの炎を纏ったモンスターは城から出て、動くものを認めると、深く息を吸い込み、すさまじい勢いで紅蓮の炎を吐き出した。
王都の街並みが、見る見る炎に包まれる。先刻から吹き荒れている嵐が炎をひろげ、最悪の事態を招いていた。
ーーー
「ミライとナギサが行方不明になって1週間が経っちまった……。一体どこへ消えたんだぁ~ッ⁉︎」
意気消沈したヒビキは絶叫しながら魔王城の壁を殴ると、壁一面にひびが入り、大穴が開いた。
「落ち着け、ヒビキ! 大丈夫だって。今回もきっと何とかなるさ」
楽観的なゼノンの言葉に、ヒビキは半ば呆れて言った。
「ゼノン、お前は気楽でいいよな。こっちは紅蓮の炎を纏った謎のモンスター騒動のせいで、ろくにミライたちの捜索も出来なかったというのに……」
ヒビキの頰を涙が伝う。
「だから、ヒビキに変わってミントと俺で世界中を探しまわってるじゃねえか! だが、今回はいつもみたいにミントの占いが頼りにならなくてよ。ミントの話だと、紅蓮のモンスターが現れる所にいるらしいが、ヤツの近くにミライたちの姿は影も形もなかった。お前の目でも見ただろう?」
ヒビキは敢えて何も応えなかった。
暴れ狂う紅蓮のモンスターを初めて見た時、ヒビキは何故か無性に涙が止まらなくなったのだ。
「オレの部下からさっき連絡が入ってな。今ちょうど都で紅蓮のモンスターが出現したらしい。もう王国の方は大パニックだってよ。ミライたちには悪いが、一刻も早くヤツを討伐しねえと世界中が大混乱になる。オレはもう行くぜ!」
ゼノンが背を向けた瞬間、ヒビキは思わずゼノンの腕を掴んでいた。
「待て、行くなッ!」
「はあ? 何で止めんだ?」
「………………」
ヒビキは終始無言のまま、ゼノンの腕を掴み続けていた。
「今日のお前、何だか変だぞ……」
「……すまない、やっぱり俺も一緒に行くよ。なんだか無性に嫌な予感がするんだ」
ゼノンとヒビキが肩を並べて魔王城から出て行こうとした瞬間、部屋の奥に黒ずくめの人物が現れた。
「2人とも都には行く必要はないよ♡」
突然、聞き覚えのある声がした方にヒビキとゼノンは視線を転ずる。
「この声は、まさかッ⁉︎」
奥の扉から現れたと思われる人物は、顔を隠していたフードをはずした。姿を見せたのは、他ならぬナギサだった。が、いつもの子供服ではなく、黒革の簡易戦闘服に身を包んでいる。そして、腰には長剣がさげられていた。
「おぉ~、ナギサ! 無事だったかぁ~、心配したんだぞ♡」
ゼノンが喜色満面の笑みを浮かべて戻ってきたナギサに歩み寄る。
「待て、ゼノン! ナギサの様子がいつもと違う! 本物のナギサかどうか……」
ナギサに近づくゼノンをヒビキが呼びとめた。
「何を言ってるんだ。声、姿顔立ち、背丈に至るまでナギサそのものじゃねえか……はぁうッ!」
振りかえってヒビキに異議を唱えるゼノンの背中を、黒服のナギサが長剣で突き刺した。
「ゼノンッ!!!」
ヒビキの叫びも虚しく、刺されたゼノンはゆっくりと崩れた。その顔は驚きの表情のまま固まっていた。
「ナギサ、これは一体どういうことだッ⁉︎」
思わず声を荒げたヒビキに、ナギサは冷たく言い放つ。
「ぼくはヒビキパパの優秀な遺伝子を受け継いだ神の子なんだってさ。でも、ミライパパの遺伝子が邪魔しちゃって、完璧になり損なった不幸な子でもあるんだって。だから、おじいちゃんが遺伝子改良手術を、ぼくに施してくれたんだよ。ミライパパのダメ遺伝子が発現されないように封じることで、ヒビキパパとおじいちゃんの完璧な遺伝子だけが発現される肉体へと生まれ変わることが出来たんだ♡」
血のついた長剣を手にしてにじり寄るナギサは、頰にゼノンの返り血を浴びて凄惨な可愛らしさを醸し出す。
「おじいちゃん?……遺伝子改良?……まさか、俺の親父がこの世界に来てるのかッ⁉︎」
「うん。おじいちゃん、とっても素敵な人だったよ♡ ヒビキパパと一緒に住みたいんだってさ。ミライパパのことなんか捨てて一緒に、おじいちゃんの所へ行こうよ~」
状況が飲み込めたヒビキは目の前のナギサの変貌ぶりに納得した。
「なるほど。親父がナギサの遺伝子を改良して、遺伝子のスイッチのオンオフを変えやがったのか。ミライの遺伝子の発現を抑えたうえで、人工的に俺と親父の遺伝子のみを発現したせいで、身体能力と人格が著しく変化したわけだな。こんなにも非人道的なことでも、俺の親父ならやりかねん……」
今のナギサには話が通じないと分かったヒビキは複雑な思いを抱えながらも愛する息子の懐に飛び込み、すかさず強烈なタックルをかけて強引に押し倒した。
のしかかったヒビキは、もがくナギサの両手を押さえつけ、顔を覗き込む。
「ミライの優しい遺伝子が封じられたせいで、冷酷な親父の遺伝子が色濃く発現されちまったんだ! だから俺が必ず元のナギサに戻してみせる!」
ヒビキはナギサを魔法で眠らせると、ゼノンに簡単な治癒魔法をかけ、すぐさま王宮に向かうのだった。
人々は堀の上に浮かぶ白い王宮が一瞬のうちに崩れ去るのを目の当たりにすることになった。
そればかりではない。崩れ去った王宮の中から、ギラギラと輝く紅蓮の巨大な炎を纏ったモンスターが現れたのである。
ふだん目にするモンスターなどとは比べものにならないほどに大きかった。
城の塔ぐらいの高さはあるだろう。
全てを焼き尽くすほどの炎を纏ったモンスターは城から出て、動くものを認めると、深く息を吸い込み、すさまじい勢いで紅蓮の炎を吐き出した。
王都の街並みが、見る見る炎に包まれる。先刻から吹き荒れている嵐が炎をひろげ、最悪の事態を招いていた。
ーーー
「ミライとナギサが行方不明になって1週間が経っちまった……。一体どこへ消えたんだぁ~ッ⁉︎」
意気消沈したヒビキは絶叫しながら魔王城の壁を殴ると、壁一面にひびが入り、大穴が開いた。
「落ち着け、ヒビキ! 大丈夫だって。今回もきっと何とかなるさ」
楽観的なゼノンの言葉に、ヒビキは半ば呆れて言った。
「ゼノン、お前は気楽でいいよな。こっちは紅蓮の炎を纏った謎のモンスター騒動のせいで、ろくにミライたちの捜索も出来なかったというのに……」
ヒビキの頰を涙が伝う。
「だから、ヒビキに変わってミントと俺で世界中を探しまわってるじゃねえか! だが、今回はいつもみたいにミントの占いが頼りにならなくてよ。ミントの話だと、紅蓮のモンスターが現れる所にいるらしいが、ヤツの近くにミライたちの姿は影も形もなかった。お前の目でも見ただろう?」
ヒビキは敢えて何も応えなかった。
暴れ狂う紅蓮のモンスターを初めて見た時、ヒビキは何故か無性に涙が止まらなくなったのだ。
「オレの部下からさっき連絡が入ってな。今ちょうど都で紅蓮のモンスターが出現したらしい。もう王国の方は大パニックだってよ。ミライたちには悪いが、一刻も早くヤツを討伐しねえと世界中が大混乱になる。オレはもう行くぜ!」
ゼノンが背を向けた瞬間、ヒビキは思わずゼノンの腕を掴んでいた。
「待て、行くなッ!」
「はあ? 何で止めんだ?」
「………………」
ヒビキは終始無言のまま、ゼノンの腕を掴み続けていた。
「今日のお前、何だか変だぞ……」
「……すまない、やっぱり俺も一緒に行くよ。なんだか無性に嫌な予感がするんだ」
ゼノンとヒビキが肩を並べて魔王城から出て行こうとした瞬間、部屋の奥に黒ずくめの人物が現れた。
「2人とも都には行く必要はないよ♡」
突然、聞き覚えのある声がした方にヒビキとゼノンは視線を転ずる。
「この声は、まさかッ⁉︎」
奥の扉から現れたと思われる人物は、顔を隠していたフードをはずした。姿を見せたのは、他ならぬナギサだった。が、いつもの子供服ではなく、黒革の簡易戦闘服に身を包んでいる。そして、腰には長剣がさげられていた。
「おぉ~、ナギサ! 無事だったかぁ~、心配したんだぞ♡」
ゼノンが喜色満面の笑みを浮かべて戻ってきたナギサに歩み寄る。
「待て、ゼノン! ナギサの様子がいつもと違う! 本物のナギサかどうか……」
ナギサに近づくゼノンをヒビキが呼びとめた。
「何を言ってるんだ。声、姿顔立ち、背丈に至るまでナギサそのものじゃねえか……はぁうッ!」
振りかえってヒビキに異議を唱えるゼノンの背中を、黒服のナギサが長剣で突き刺した。
「ゼノンッ!!!」
ヒビキの叫びも虚しく、刺されたゼノンはゆっくりと崩れた。その顔は驚きの表情のまま固まっていた。
「ナギサ、これは一体どういうことだッ⁉︎」
思わず声を荒げたヒビキに、ナギサは冷たく言い放つ。
「ぼくはヒビキパパの優秀な遺伝子を受け継いだ神の子なんだってさ。でも、ミライパパの遺伝子が邪魔しちゃって、完璧になり損なった不幸な子でもあるんだって。だから、おじいちゃんが遺伝子改良手術を、ぼくに施してくれたんだよ。ミライパパのダメ遺伝子が発現されないように封じることで、ヒビキパパとおじいちゃんの完璧な遺伝子だけが発現される肉体へと生まれ変わることが出来たんだ♡」
血のついた長剣を手にしてにじり寄るナギサは、頰にゼノンの返り血を浴びて凄惨な可愛らしさを醸し出す。
「おじいちゃん?……遺伝子改良?……まさか、俺の親父がこの世界に来てるのかッ⁉︎」
「うん。おじいちゃん、とっても素敵な人だったよ♡ ヒビキパパと一緒に住みたいんだってさ。ミライパパのことなんか捨てて一緒に、おじいちゃんの所へ行こうよ~」
状況が飲み込めたヒビキは目の前のナギサの変貌ぶりに納得した。
「なるほど。親父がナギサの遺伝子を改良して、遺伝子のスイッチのオンオフを変えやがったのか。ミライの遺伝子の発現を抑えたうえで、人工的に俺と親父の遺伝子のみを発現したせいで、身体能力と人格が著しく変化したわけだな。こんなにも非人道的なことでも、俺の親父ならやりかねん……」
今のナギサには話が通じないと分かったヒビキは複雑な思いを抱えながらも愛する息子の懐に飛び込み、すかさず強烈なタックルをかけて強引に押し倒した。
のしかかったヒビキは、もがくナギサの両手を押さえつけ、顔を覗き込む。
「ミライの優しい遺伝子が封じられたせいで、冷酷な親父の遺伝子が色濃く発現されちまったんだ! だから俺が必ず元のナギサに戻してみせる!」
ヒビキはナギサを魔法で眠らせると、ゼノンに簡単な治癒魔法をかけ、すぐさま王宮に向かうのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
246
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる