喪女な私にフタナリ彼氏が出来ました!

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最終回 家族と再会したんですけど……

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「私、二也井ふたなりいさんの家でお泊まり会したい。何処に住んでるの?」


 今まで二也井ふたなりいさんを自宅に招いたことは何度もあるが、私が招かれたことは一度もなかった。


「う~ん、あんまり知られたくなかったんだけどなぁ……」


 私の不躾な質問に二也井ふたなりいさんはいたく困惑する。


「えぇ~、なんでそんなに動揺してるの? 私たち、友達以上の関係じゃなかったの?」
「いや、そうじゃなくてね。ボクが住んでる所は人を呼べるような場所じゃないんだよ。それでも泊まりたい?」


 人を呼べるような場所ではないという二也井ふたなりいさんの言に引っかかりを覚えたが、友達以上の関係なのにもかかわらず相手の家を知らないことの方が私には気がかりだった。


「そりゃあ、行きたいかなぁ」
「ふ~ん、それならおいでよ♡」


 私たちは最寄りの駅から元町・中華街行きの電車に1時間以上乗って渋谷駅で降りると、田園都市線に乗り換えて池尻大橋駅で下車する。


「学校近くの駅から一本で渋谷や新宿、横浜に行けるのって結構便利だよね。ボクらの地元って実はそんなに田舎じゃないのかな?」
「ド田舎ではあるけど、駅だけは何故か利便性高いんだよね。それだけがうちの地元の唯一の救いかなぁ」


 たわいない話をしながら駅から徒歩で7分ほど歩いた先にドアだらけの謎の小屋が鎮座していた。


「何、あの変な小屋?」
「あれが僕の住んでるシェアハウスだよ」
「えぇ……あそこに住んでるの⁉︎ つか、5メートル程度のクソ狭い空間をシェアなんて出来るの⁉︎」
「実質ホームレスの寝床だね。夜は2畳の床にダンボールを敷き詰めて、みんなで寝るんだ。まあ、ボクは一台しかないベッドを占領してるけどwww」


 恐る恐るドアを開けてみると中はベッド、トイレ、手洗い器、デスクのみが置かれた独房だった。ちなみにトイレの周囲に敷居はなく、WiFi、エアコン、コンセント、共有バスルームも存在しない。
 もはや人が住めるような所じゃないカオスな物件に足を踏み入れてしまったことを私は深く後悔した。


「夜になると冷えて腹を下したホームレスの人がブリブリ下痢するから、ベッドの枕元の横にトイレがある環境は超絶悪臭地獄でね。小便する時なんか男は洋式便所であろうと立ってするから周囲に飛び散りまくって、寝てると顔にかかるんだ……もう最悪の極み!」


 二也井ふたなりいさんが言う通り、ベッドの枕元の目と鼻の先にトイレが設置してあるため、立ちションなんかされたら一溜まりもない。はっきり言って、まともな神経の人間なら寝に帰るだけの利用さえ憚るレベルの物件だろう。
 そんな中、シェアハウスのドアが軽い音を立てて開いた。
 突然の闖入者たちに私の息遣いが止まる。


「ただいま~♡……って、えぇ~⁉︎」
「母さん、どうしたの?……ファッ⁉︎」


 目の前に現れたシェアハウスの住人を見て私は愕然とした。何故なら、もう二度と会うことはないと思っていた実の母と兄だったからだ。
 そうとは知らずに二也井ふたなりいさんは私のことを2人に紹介し始める。


「どうも~、こちらはボクの親友の農田のうた りんさん。真々子ままこさんたちと同じ苗字で字も一緒なんですよ。今夜はお泊まり会をするので2人とも宜しくお願いします♡」


 私は母の方をチラチラと横目で見やりながら全力で他人の振りをするようアイコンタクトで要請した。だが、兄の方は空気を読まずに私の肩に腕を回すと盛大に絡んできた。


「よぉ、久しぶり! 相変わらずのボッチだと思ってたら、こんな美人の友達ができたとはね。昔より少しは成長したんじゃないか」


 私は急いでクソ兄の腕を振り払うと、すぐさま二也井ふたなりいさんの後ろに隠れる。


「ひ、人違いですよ……それとも新手のナンパですか?……迷惑なので話しかけないでもらえます?」


 2人を前にして急にたじたじとなった私を不審がった二也井ふたなりいさんは母の方を見やる。母は私に呆れながらも気を遣って話を合わせてくれた。


「やれやれ、私以外に声かけちゃダメでしょ。息子はママの傍で大人しくしてなさい」
「えへへ、母さんの前で大人しくしてられるほど僕のムスコは子供じゃないよ♡」


 そう言うと、クソ兄は股間を誇らしげにモッコリさせながら黒光りする革製のボンデージを広げた。


「今日は母さんにボンデージを着てもらおうかなぁwww」
「もぉ~、実の母親にボンデージ着せて喜ぶ息子なんか世界中探してもいやしないんだから♡」


 そうツッコミながら母さんは変態兄貴からボンデージを引ったくる。そのまま捨てるのかと思いきや、次の瞬間ボンデージを着始めた。


「男の子って皆、女の子にこういうの着せたいんでしょ♡」
「さすが、母さんはよく分かってるなぁ♡」


 男がスケベなことはよく理解しているが、実の母親に欲情するような重度のマザコンはなかなかいないのではないだろうか。
 思えば私が男に対して幻滅する切っ掛けを与えたのがマザコン兄貴だった。見た目はイケメンで背も高いが、精神年齢は幼児で永遠に母親との関係を卒業できない兄貴の存在が私に男という生き物の現実を教えてくれたのだ。
 そして母からは幼い頃より女という生き物の醜いサガをまざまざと見せつけられて育った。
 母は狡猾で女としての特権をフルに活用しながら抜け抜けと他者を利用するような人間だった。
 実の家族への失望と嫌悪感によって私の心は徐々に蝕まれ、いつしか精神に異常をきたすようになり、今では精神障害者手帳1級を取得したことで『無敵の人』の仲間入りを果たしてしまった。


「ウホォ~ッ、母さんのボンデージ姿に僕のボルテージはメガマックス状態だよ!」
「いやん……息子に凝視されて、ママとっても恥ずかしい~♡」


 母さんは羞恥と興奮で上気した頰を両手で抑えながらボンデージ姿を実の息子に見せびらかす。
 ボンデージというよりは革製のスクール水着にも見える衣装は母さんが動くたびに股間部分へと食い込んでいき、クリトリスのある辺りが歪に盛り上がっていた。
 マザコン兄貴が身を乗り出すようにして母さんの肢体に釘付けになっている様に呆れた私は思わず腕を組んで「フン」と鼻を鳴らした。


「いやだ、物欲しそうな顔しちゃってさ。マジでキモいことこの上ない」
「やれやれ、りんのそういうところは相変わらずガキだなぁ~」
「はぁ~、キモい男にキモいと言って何が悪いわけ?」
「あのな、男ってのはいい女を手に入れるためだけに日々精進する生き物なんだよ。愛する女のためなら例え火の中、水の中、ボンデージの中だろうが、突き進むのみ!」


 そう言うと、変態兄貴は伸縮性のない窮屈な革製のボンデージの中へ無理やり両手を入れて母さんの胸を鷲掴みにする。


「いやぁ……らめぇ♡」


 双乳の谷間をピッタリと寄せ合わせるように母さんの貧乳をこねくり回しながらクソ兄は説教し始める。


「男は女を求めることで成長し、大人になる。女は男に求められることで心身共に女となり、やがて母となるんだ。男に求められない女、つまりりんみたいなのは一人前の女とは見做されず、一生世間から後ろ指さされながら孤独に生きるのさwww」
「そんなこと……」


 言い返そうとしたが、私は反論できずに視線を伏せて唇をつぐんだ。
 確かに今までの人生で男から求められたことなんか一度もない。けれど、それで女としての価値を決められるのはあまりにも理不尽ではないだろうか。そう思ったら、いきなり涙が溢れ落ちて頰を伝った。


「あ、おい……泣くなよ。まだ若いんだし、そのうちりんを求めてくれるイケメンが颯爽と現れるはずさ。たぶん……」


 申し訳なさそうにフォローするクソ兄を母さんは戒める。


「いくら相手が実の家族でも言っていい事と悪い事があるでしょ。あれでもりんは歴とした女の子なんだから、ちゃんと女の子として扱ってあげなきゃダメじゃないの」
「ごめん、母さん。僕、母さん以外の女の子の扱いって苦手でさ。だから、いつも嫌われちゃうんだ」
「うふふ、しょうがない子ね。兄妹揃って、まだまだ子供なんだから♡」


 涙に濡れた私の目からは感情が消えかかっていた。嫌な事や辛い事があると私は己の感情を消去し、脳内をフリーズさせることで心を休ませる癖があった。けれど私の口は無意識にゆっくりと動いていた。


「お母さん……」
「あらあら、りんったら目が死んでるじゃないの……」


 母さんはゆっくりと私に近づくと、そっと抱きしめてくれた。


「やっぱり、ママがいないと寂しい?」
「別に……今はもう独りじゃないから」


 母さんの問いに私は自然な気持ちで応えることができた。二也井ふたなりいさんと出会ったことで私の荒みきった心は少しずつ癒されていたからだ。


「本当にごめんよ。思えば、りんがこんな風になったのも僕が母さんの愛情を独り占めにしたからだよね……」


 親の愛情という潤いがなく、全てがひび割れてしまった心の荒野にあったのは母を独占した兄に対する嫉妬と家族を捨てた父への憎悪だけだった。それがやがて男嫌いミサンドリーへと変わり、何も生み出さない虚無のみが私の心を果てしなく覆い尽くしていった。
 だが、今の私には二也井ふたなりいさんがいる。もう怨念と絶望で震えていた頃の私とはおさらばすると心に誓ったのだ――。
 私は振り返らずにシェアハウスを後にすると、二也井ふたなりいさんが追いかけてきた。


農田のうたさん――」


 二也井ふたなりいさんに呼び止められると振り向きざまに肩を抱き寄せられた。


「ボクたち、家族にならない?」
「えぇ?」
「実はボクも農田のうたさんと同じで一緒に住んでる家族がいないんだ。だから結婚……じゃなくて同棲しよ♡」


 上目遣いで甘い吐息をこぼす二也井ふたなりいさんの唇が私の唇に重なり、思わずビクッと肩を震わせた。
 柔らかく、温かく、ただ触れ合うだけでも蕩けてしまいそうな心地良さに感服した私は二也井ふたなりいさんの申し出を承諾し、我が家へと連れて帰るのだった。
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