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二松双子編
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アスリートが嫌いだった。
「アスリートって奴らは、アスリートにあらずんば人にあらずって思ってるんですよ、これはマジ」
本音をセンセーショナルに演出すれば投げ銭が降り積もる、そんなちょろい悪意が好きだった。
「だからオリンピック期間中、高速料金の法外な高騰を擁護するためにあいつら一生懸命『スポーツはかけがえのない感動を与える』って言ってますけど、俺たちの感動ってアニメとかゲームとか別のもののほうがよっぽど感動だし生きる活力だし、そういうの首都高封鎖のせいでAmazonが届かないとか言われたらマジで困っちゃうじゃないですか。スポーツ以外で感動してる奴は害虫とでもいいたいんですかね。『感動を与える』の押し売り、もはやスポーツファシズムと呼んじゃいましょう。与えてるのは感動じゃなくてキラキラコーティングした恐怖と差別と愛国心」
思い出せ。毎週土日にいなくなる家族。「将人の柔道の試合のために」すべてが融通される無茶苦茶な日常。
オレは週末に家族とご飯を食べたことがない。
それでも、ひとりで自由にコンビニのおにぎりを買って浮いたお金でゲームをしているほうが幸せだった。自由だった。将人の食卓にだけ一品多く準備された美味しそうなおかずを見なくても済むから。
別にオレは虐待されていたわけじゃないし憎まれていたわけでもない。ただ、あの家の息子は将人ひとりだけだった。
どんなゲームも機材も買い与えて経済的にはいっさい不自由させない代わりに、親は無関心な態度を隠しもしなかった。
だからあの日、俺と将人の乗った後部座席にトラックが突っ込んできたときは、誕生日プレゼントだと思った。
これでもう将人は一生柔道ができないって。同じ車輪に巻き込まれながら、これでオレ達、同じゴミクズになるんだって笑った。
「スポーツで感動を与えようとか、傲慢じゃないですか」
オレはにんまりと笑う。
人生で一番感動したのは、スポーツ選手がオレの隣で手をもがれるのを見た瞬間。
――でも……
『にまさん、弟さんがパラリンピック出てんのにそんなこと言っちゃっていいの?』
飛んでくるコメントに、オレは口角を上げる。
「兄弟だからハッキリ言わないいけないんじゃないでしょーか」
ああ、早く死ね。手をもがれても惜しまれる才能、絶望の中のリハビリに耐える精神力、健全なる肉体に宿った健全な魂なんて。
……将人は、パラリンピックがオリンピックを凌駕する時代に乗り、さらなる英雄になった。
「人間はね、おぎゃーと生まれたそのときから平等なんですよォ。オレみたいなゲーム廃でもね。だから――」
釣り上がる投げ銭、やんやと湧き上がるコメント。
『感動を与えるって言い方の傲慢さよ』
『にまさんは俺たちに言えことを言ってくれる』
『そこに痺れる憧れるゥなんて』
『これは良いグラフ。五輪を名目にしたぼったくりの程が解ります』
『そしてそのアスリートさえも熱中症で焼き殺そうとしている鬼畜五輪草』
電源を落とせば消える狂騒に、オレはにっこり笑いながら言う。
「高評価、チャンネル登録お願いしまーす」
「……どこに高評価チャンネル登録するんだ、どこに」
俺はあきれてリモコンを投げる。
俺しか見られないはずの動画は、グラフを多用し音楽で盛り上げ、テロップを凝らしたとても見やすいもので、癖なのかYoutubeの決まり文句までついてくる。その凝りようはさすがにYoutuberだ。
……だからこそ。
到底信じられない。
妹の記憶のデータは五人のパラリンピアンが分割して持っている。彼らは妹の指輪のレプリカを持っている。おもちゃみたいな指輪のレプリカは記録媒体になっており、ひとり殺すごとに一部のデータの入った動画と全体を統合するパスワードを奪取できる。五人殺し、さらに彼らにこれを依頼した犯人を殺せば、妹の《マイメモリー》が帰ってくるというわけだ。
狂った与太だ。正気で考えれば、母国東京で行われるパラリンピックを前に、殺人を行おうとか差し違えて死のうとかいう奴はいないはずだ。それもこんなふさけたゲームで? 冗談じゃない。
俺は一度指輪を投げ、なるだけ騒がしいバラエティを選んでテレビを眺め続けていたが、あまりの集中できなさにリモコンを投げると、指輪を拾い、部屋へ駆け込んだ。
竹刀袋を提げ、俺は画面を睨む。
――竹刀なら。
『真竹さん、絶対真剣で来てくださいね。持ってるでしょ、袴田さんの家から証拠隠滅に持ってきた真剣』
画面の中のにまが刀を振るう仕草をして笑う。
乗るか、そんな手。よくわからないが、これは罠なんだ。例えばこどもの探偵ごっこで、師匠殺しの犯人を突き止めたが物証がないので嵌めようとしているとか。
だから俺は竹刀で行く。
「アスリートって奴らは、アスリートにあらずんば人にあらずって思ってるんですよ、これはマジ」
本音をセンセーショナルに演出すれば投げ銭が降り積もる、そんなちょろい悪意が好きだった。
「だからオリンピック期間中、高速料金の法外な高騰を擁護するためにあいつら一生懸命『スポーツはかけがえのない感動を与える』って言ってますけど、俺たちの感動ってアニメとかゲームとか別のもののほうがよっぽど感動だし生きる活力だし、そういうの首都高封鎖のせいでAmazonが届かないとか言われたらマジで困っちゃうじゃないですか。スポーツ以外で感動してる奴は害虫とでもいいたいんですかね。『感動を与える』の押し売り、もはやスポーツファシズムと呼んじゃいましょう。与えてるのは感動じゃなくてキラキラコーティングした恐怖と差別と愛国心」
思い出せ。毎週土日にいなくなる家族。「将人の柔道の試合のために」すべてが融通される無茶苦茶な日常。
オレは週末に家族とご飯を食べたことがない。
それでも、ひとりで自由にコンビニのおにぎりを買って浮いたお金でゲームをしているほうが幸せだった。自由だった。将人の食卓にだけ一品多く準備された美味しそうなおかずを見なくても済むから。
別にオレは虐待されていたわけじゃないし憎まれていたわけでもない。ただ、あの家の息子は将人ひとりだけだった。
どんなゲームも機材も買い与えて経済的にはいっさい不自由させない代わりに、親は無関心な態度を隠しもしなかった。
だからあの日、俺と将人の乗った後部座席にトラックが突っ込んできたときは、誕生日プレゼントだと思った。
これでもう将人は一生柔道ができないって。同じ車輪に巻き込まれながら、これでオレ達、同じゴミクズになるんだって笑った。
「スポーツで感動を与えようとか、傲慢じゃないですか」
オレはにんまりと笑う。
人生で一番感動したのは、スポーツ選手がオレの隣で手をもがれるのを見た瞬間。
――でも……
『にまさん、弟さんがパラリンピック出てんのにそんなこと言っちゃっていいの?』
飛んでくるコメントに、オレは口角を上げる。
「兄弟だからハッキリ言わないいけないんじゃないでしょーか」
ああ、早く死ね。手をもがれても惜しまれる才能、絶望の中のリハビリに耐える精神力、健全なる肉体に宿った健全な魂なんて。
……将人は、パラリンピックがオリンピックを凌駕する時代に乗り、さらなる英雄になった。
「人間はね、おぎゃーと生まれたそのときから平等なんですよォ。オレみたいなゲーム廃でもね。だから――」
釣り上がる投げ銭、やんやと湧き上がるコメント。
『感動を与えるって言い方の傲慢さよ』
『にまさんは俺たちに言えことを言ってくれる』
『そこに痺れる憧れるゥなんて』
『これは良いグラフ。五輪を名目にしたぼったくりの程が解ります』
『そしてそのアスリートさえも熱中症で焼き殺そうとしている鬼畜五輪草』
電源を落とせば消える狂騒に、オレはにっこり笑いながら言う。
「高評価、チャンネル登録お願いしまーす」
「……どこに高評価チャンネル登録するんだ、どこに」
俺はあきれてリモコンを投げる。
俺しか見られないはずの動画は、グラフを多用し音楽で盛り上げ、テロップを凝らしたとても見やすいもので、癖なのかYoutubeの決まり文句までついてくる。その凝りようはさすがにYoutuberだ。
……だからこそ。
到底信じられない。
妹の記憶のデータは五人のパラリンピアンが分割して持っている。彼らは妹の指輪のレプリカを持っている。おもちゃみたいな指輪のレプリカは記録媒体になっており、ひとり殺すごとに一部のデータの入った動画と全体を統合するパスワードを奪取できる。五人殺し、さらに彼らにこれを依頼した犯人を殺せば、妹の《マイメモリー》が帰ってくるというわけだ。
狂った与太だ。正気で考えれば、母国東京で行われるパラリンピックを前に、殺人を行おうとか差し違えて死のうとかいう奴はいないはずだ。それもこんなふさけたゲームで? 冗談じゃない。
俺は一度指輪を投げ、なるだけ騒がしいバラエティを選んでテレビを眺め続けていたが、あまりの集中できなさにリモコンを投げると、指輪を拾い、部屋へ駆け込んだ。
竹刀袋を提げ、俺は画面を睨む。
――竹刀なら。
『真竹さん、絶対真剣で来てくださいね。持ってるでしょ、袴田さんの家から証拠隠滅に持ってきた真剣』
画面の中のにまが刀を振るう仕草をして笑う。
乗るか、そんな手。よくわからないが、これは罠なんだ。例えばこどもの探偵ごっこで、師匠殺しの犯人を突き止めたが物証がないので嵌めようとしているとか。
だから俺は竹刀で行く。
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