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二松双子編
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「少し、お話ししませんか」
家の中を案内しながら連れていかれたのは一階のリビングだった。そこにもにまの絵が大きく飾られている。
もっと中二病な絵を描くかと思っていたが、家のいたるところに飾られている絵のモチーフはすべて油絵風の花で統一されているようだった。
俺に絵のことは解らない。でも美術の教科書で見たことがあるような本格的な油絵に見える。
居心地悪くソファに座っていると、ペットボトルの茶を差し出される。
「未開封です」
将人が言いながら差し出す。彼の言う通り、力を入れずにひねってみたペットボトルの蓋は固く、細工の形跡はない。
この状況なのでまず毒殺の警戒を解いている――ということもあろうが、そもそもアスリート同志、禁止薬物には警戒心が強いのだ。スポーツの世界では、毒や睡眠薬の類より、ドーピングの罠として市販の薬物を混ぜられる嫌がらせがよくある。ペットボトルで飲み物を出すのは、将人なりの気遣いに満ちたもてなしなのだ。
将人も一本ペットボトルの茶を取り、未開封のままで俺のペットボトルに押し当てる。乾杯。
「……妹さんがいらっしゃるんですか?」
ペットボトルの蓋を開けてぐいと飲み、将人の第一声は気が抜けるほど普通の世間話だった。
「《マイストーリー》持ってるんだろ? 本当なら見てみればいい」
俺も蓋をひねりながら答える。
「見てないです。興味ないですし、それは妹さんから見た記憶でしょう? オレは、あなたから見た妹さんが知りたい」
「知ってどうする」
一応臭いや味を確かめてから嚥下する。
そんな俺を見ながら将人は気を悪くした様子もなく、照れたように笑う。
「そういえば、なんででしょうね?」
それからまっすぐな瞳を向けた。
「オレ、惚気たいのかもしれません」
「惚気?」
「はい! 弟を尊敬してるって言うと、みんなブラコンって笑うから。笑わなそうなあなたににまのことをいっぱい話して、オレよりも妹が好きそうなあなたにいっぱい妹さんの自慢をしてほしい。そういう話がしたいんだと思います!」
それから、俺と将人は心行くまで語り合った。
みちるの幼い頃の思い出。小さい頃、縁日で指輪を買ってあげたらそれをいい年になってもずっと大切にしていて、嬉しいやら恥ずかしいやら判らない気持ちになったこと。その指輪が《マイストーリー》の記憶媒体のモデルになっていることは言おうとしたけど言えなかった。
将人のほうは、小学生のときの弟がいかに博識だったかとか、ゲームを最短でクリアした時間がすごかったかとか、絵がすごいことは判るのに馬鹿だからどうやって感想を言えばいいか解らなかったとか、そういうことを誇らしげに語る。
ああ、今までのことは本当にあの迷惑Youtuberの悪戯で、将人は「ドッキリでした」って報告するためにここに立っているんじゃないか。そうであってくれ。俺はそう思いながらチラリと周りに隠しカメラを探す。
そんな俺を将人はしばらく穏やかに見つめ、それから腕を上げて「そろそろ始めましょうか」と腕時計の文字盤を指した。
「……何を?」
都合のいい期待が覚める。冷汗が吹き出す。
「嫌だなあ。雅臣から聞いてここに来たんでしょう? 目的を忘れてもらっては困ります」
腕時計のはめられた腕は硝子でできている。透き通る美しい硝子製の義手。
「そんな大切な妹さんの《マイストーリー》、ぜひ取り返さないといけませんよね――オレを殺してさ!」
家の中を案内しながら連れていかれたのは一階のリビングだった。そこにもにまの絵が大きく飾られている。
もっと中二病な絵を描くかと思っていたが、家のいたるところに飾られている絵のモチーフはすべて油絵風の花で統一されているようだった。
俺に絵のことは解らない。でも美術の教科書で見たことがあるような本格的な油絵に見える。
居心地悪くソファに座っていると、ペットボトルの茶を差し出される。
「未開封です」
将人が言いながら差し出す。彼の言う通り、力を入れずにひねってみたペットボトルの蓋は固く、細工の形跡はない。
この状況なのでまず毒殺の警戒を解いている――ということもあろうが、そもそもアスリート同志、禁止薬物には警戒心が強いのだ。スポーツの世界では、毒や睡眠薬の類より、ドーピングの罠として市販の薬物を混ぜられる嫌がらせがよくある。ペットボトルで飲み物を出すのは、将人なりの気遣いに満ちたもてなしなのだ。
将人も一本ペットボトルの茶を取り、未開封のままで俺のペットボトルに押し当てる。乾杯。
「……妹さんがいらっしゃるんですか?」
ペットボトルの蓋を開けてぐいと飲み、将人の第一声は気が抜けるほど普通の世間話だった。
「《マイストーリー》持ってるんだろ? 本当なら見てみればいい」
俺も蓋をひねりながら答える。
「見てないです。興味ないですし、それは妹さんから見た記憶でしょう? オレは、あなたから見た妹さんが知りたい」
「知ってどうする」
一応臭いや味を確かめてから嚥下する。
そんな俺を見ながら将人は気を悪くした様子もなく、照れたように笑う。
「そういえば、なんででしょうね?」
それからまっすぐな瞳を向けた。
「オレ、惚気たいのかもしれません」
「惚気?」
「はい! 弟を尊敬してるって言うと、みんなブラコンって笑うから。笑わなそうなあなたににまのことをいっぱい話して、オレよりも妹が好きそうなあなたにいっぱい妹さんの自慢をしてほしい。そういう話がしたいんだと思います!」
それから、俺と将人は心行くまで語り合った。
みちるの幼い頃の思い出。小さい頃、縁日で指輪を買ってあげたらそれをいい年になってもずっと大切にしていて、嬉しいやら恥ずかしいやら判らない気持ちになったこと。その指輪が《マイストーリー》の記憶媒体のモデルになっていることは言おうとしたけど言えなかった。
将人のほうは、小学生のときの弟がいかに博識だったかとか、ゲームを最短でクリアした時間がすごかったかとか、絵がすごいことは判るのに馬鹿だからどうやって感想を言えばいいか解らなかったとか、そういうことを誇らしげに語る。
ああ、今までのことは本当にあの迷惑Youtuberの悪戯で、将人は「ドッキリでした」って報告するためにここに立っているんじゃないか。そうであってくれ。俺はそう思いながらチラリと周りに隠しカメラを探す。
そんな俺を将人はしばらく穏やかに見つめ、それから腕を上げて「そろそろ始めましょうか」と腕時計の文字盤を指した。
「……何を?」
都合のいい期待が覚める。冷汗が吹き出す。
「嫌だなあ。雅臣から聞いてここに来たんでしょう? 目的を忘れてもらっては困ります」
腕時計のはめられた腕は硝子でできている。透き通る美しい硝子製の義手。
「そんな大切な妹さんの《マイストーリー》、ぜひ取り返さないといけませんよね――オレを殺してさ!」
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