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二松双子編
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「……本気か?」
優等生然とした柔道家が中二病めいた馬鹿げたせりふを言い出す。その非現実感に現実に引き戻される。頭を殴られたみたいで笑いが止まらない。
ずっと笑っている俺を見て、馬鹿にされたと思ったのだろう。将人が咎めるように言う。
「本気じゃなかったら、真竹さんは何のために来たんですか?」
将人は竹刀しか持っていない俺の持ち物――それも竹刀袋に手をかけてすらいないのを目で確認し、「ふざけないでください」と言った。まるで優等生が素行の悪い生徒の忘れ物を叱るような口調で。それはそうだが、まるで常識的なほうが悪いみたいだ。
「仕方がないですね。雅臣からの連絡、ちゃんと見ていただいたんですか? 真剣で来てくださいって言ったのに」
将人はあきれたようにため息をついて、リビングのオーディオボードに飾られた日本刀を手に取る。それをぞんざいに俺のほうへと差し出した。
「祖母の遺品です。使ってください」
ペンを忘れた隣の席の同級生に貸してやるような仕草で、雑に差し出された黒漆の鞘入りの太刀。それをぼんやりと見つめる俺からますます現実感が消えていく。なんだろうこの状況は。どこまで本気にしたらいいのか判らない。
わずかな希望を持って少しだけ鞘を抜くと、それは美しい刃紋の真剣なのだった。とん、と音を立てて再び鞘にしまう。
「……柔道と剣道の対決、ガキならいっぺんやってみたくなるよな。解るよ。――遊べと言うなら遊んでやる。でも真剣は使えない」
「舐めてるんですか?」
温厚な将人が初めて苛立ちの表情を浮かべた瞬間だった。
「柔道と剣道の対決なんて、死ぬほどやったことがある。オレの師匠はいつも、オレ相手の稽古には竹刀を使っていました」
「おいおい」
俺はあきれて笑う。
「今どき、そんな稽古してたらパワハラか体罰で辞めさせられる奴だぞ」
昔は柔道の強い子に竹刀相手でも実戦で勝てるようにするとかそんな名目で、稽古に竹刀を持ち込んでいた師もいたと聞く。もちろん今なら大問題だ。まあそんな奴はだいたい、弟子に勝てなくなったのでやっかみを込めて無茶苦茶な指導をやっているのだろう。長物を持ち出せば力の差が見えづらくなるし、生意気な弟子を竹刀でしばく理由もできる。でも、そんな練習をする理由がない。
それにだ。将人は俺にばかり真剣でやれ真剣にやれと言うが、そういう将人の義手だってとても格闘に向いているとは思えない。
「お前だってどうだ。その義手で戦えるのか? 随分洒落た腕じゃないか」
透き通る硝子の義手を肩から指先まで眺め下ろし、俺はわざと挑発を込めて鼻を鳴らす。
将人はそれを聞き、自信に満ちた笑みを浮かべて自分の腕を持ち上げた。眼前にかざした硝子の腕が透けて、内部で屈折した光が骨のように輝く。
「見た目だけで義手を選んでるわけじゃないんです。楽しいですよ。後悔はさせません」
優等生然とした柔道家が中二病めいた馬鹿げたせりふを言い出す。その非現実感に現実に引き戻される。頭を殴られたみたいで笑いが止まらない。
ずっと笑っている俺を見て、馬鹿にされたと思ったのだろう。将人が咎めるように言う。
「本気じゃなかったら、真竹さんは何のために来たんですか?」
将人は竹刀しか持っていない俺の持ち物――それも竹刀袋に手をかけてすらいないのを目で確認し、「ふざけないでください」と言った。まるで優等生が素行の悪い生徒の忘れ物を叱るような口調で。それはそうだが、まるで常識的なほうが悪いみたいだ。
「仕方がないですね。雅臣からの連絡、ちゃんと見ていただいたんですか? 真剣で来てくださいって言ったのに」
将人はあきれたようにため息をついて、リビングのオーディオボードに飾られた日本刀を手に取る。それをぞんざいに俺のほうへと差し出した。
「祖母の遺品です。使ってください」
ペンを忘れた隣の席の同級生に貸してやるような仕草で、雑に差し出された黒漆の鞘入りの太刀。それをぼんやりと見つめる俺からますます現実感が消えていく。なんだろうこの状況は。どこまで本気にしたらいいのか判らない。
わずかな希望を持って少しだけ鞘を抜くと、それは美しい刃紋の真剣なのだった。とん、と音を立てて再び鞘にしまう。
「……柔道と剣道の対決、ガキならいっぺんやってみたくなるよな。解るよ。――遊べと言うなら遊んでやる。でも真剣は使えない」
「舐めてるんですか?」
温厚な将人が初めて苛立ちの表情を浮かべた瞬間だった。
「柔道と剣道の対決なんて、死ぬほどやったことがある。オレの師匠はいつも、オレ相手の稽古には竹刀を使っていました」
「おいおい」
俺はあきれて笑う。
「今どき、そんな稽古してたらパワハラか体罰で辞めさせられる奴だぞ」
昔は柔道の強い子に竹刀相手でも実戦で勝てるようにするとかそんな名目で、稽古に竹刀を持ち込んでいた師もいたと聞く。もちろん今なら大問題だ。まあそんな奴はだいたい、弟子に勝てなくなったのでやっかみを込めて無茶苦茶な指導をやっているのだろう。長物を持ち出せば力の差が見えづらくなるし、生意気な弟子を竹刀でしばく理由もできる。でも、そんな練習をする理由がない。
それにだ。将人は俺にばかり真剣でやれ真剣にやれと言うが、そういう将人の義手だってとても格闘に向いているとは思えない。
「お前だってどうだ。その義手で戦えるのか? 随分洒落た腕じゃないか」
透き通る硝子の義手を肩から指先まで眺め下ろし、俺はわざと挑発を込めて鼻を鳴らす。
将人はそれを聞き、自信に満ちた笑みを浮かべて自分の腕を持ち上げた。眼前にかざした硝子の腕が透けて、内部で屈折した光が骨のように輝く。
「見た目だけで義手を選んでるわけじゃないんです。楽しいですよ。後悔はさせません」
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