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第二幕 雨の中を葛藤する
渡り鳥 04
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雨が降りはじめた。慎也と夏生は駅にいた。M食堂までは残り二キロくらいだ。慎也は夏生を引っ張りながら、「いくぞ」といった。
夏生は体力が少なくなっていた。しかし、今の慎也の言葉で、何かが弾けた。「よっしゃ、歩くか!」夏生は歩きはじめた。
*
長い道のように思えたはずの、二キロだった。しかし、駆け抜けて仕舞えばあっという間だった。「ああ……」と夏生はつぶやいて、ひざまずいた。「港食堂」の文字が見えたのだ。慎也もひざまずいた。駐車場に膝を立てているのだ。少し痛い。しかし、沼津民は鯵が全員好きだ。大前提、そうなのである。鯵が好きかどうかで旅行の人かわかる、といっても過言ではないかもしれない。
これは二人の共通理解事項だった。「M食堂は、ここの中だった」
*
慎也は数ヶ月ごとに通っていたらしいのだが、夏生にとってM食堂は八年ぶりだった。「うわ~、なぁんも変わってねえ!」笑顔でいう夏生に、「おいおい、それ……どっちの意味で捉えりゃいいんだ?」困惑する店主。夫婦で経営しているM食堂はもう長いこと続いていた。
看板メニューの「アジの干物定食」を二人は頼んだ。待ち時間、夏生はスマホを取り出し、アルファポリスのアプリを起動させた。
近況ボード「ブログ。」
内容「久しぶりにM食堂にきました。ところで、START!の文庫化、誠にありがとうございます……」
慣れた手つきでスマホを触る夏生を、慎也はただただ見つめていた。呆れというより、何なのか、憧れというか……。
「あい、アジだよ!」
夢見心地だった二人を現実に引き戻したのは、店主の妻の大きな声だった。
「あ、もしかして……?」妻は何かを思い出そうとしていた。
「はい、多分あってます」慎也が答える。
「——そうだ、夏生くん」妻は思い出した。
夏生は手を叩いた。「正解!」
そういえば、隣に座っているおじさんはさっきまで訝しげにこっちをみていたが、いつの間にか笑っていた。そう、M食堂はそういう店なのだ。
夏生は体力が少なくなっていた。しかし、今の慎也の言葉で、何かが弾けた。「よっしゃ、歩くか!」夏生は歩きはじめた。
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長い道のように思えたはずの、二キロだった。しかし、駆け抜けて仕舞えばあっという間だった。「ああ……」と夏生はつぶやいて、ひざまずいた。「港食堂」の文字が見えたのだ。慎也もひざまずいた。駐車場に膝を立てているのだ。少し痛い。しかし、沼津民は鯵が全員好きだ。大前提、そうなのである。鯵が好きかどうかで旅行の人かわかる、といっても過言ではないかもしれない。
これは二人の共通理解事項だった。「M食堂は、ここの中だった」
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慎也は数ヶ月ごとに通っていたらしいのだが、夏生にとってM食堂は八年ぶりだった。「うわ~、なぁんも変わってねえ!」笑顔でいう夏生に、「おいおい、それ……どっちの意味で捉えりゃいいんだ?」困惑する店主。夫婦で経営しているM食堂はもう長いこと続いていた。
看板メニューの「アジの干物定食」を二人は頼んだ。待ち時間、夏生はスマホを取り出し、アルファポリスのアプリを起動させた。
近況ボード「ブログ。」
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慣れた手つきでスマホを触る夏生を、慎也はただただ見つめていた。呆れというより、何なのか、憧れというか……。
「あい、アジだよ!」
夢見心地だった二人を現実に引き戻したのは、店主の妻の大きな声だった。
「あ、もしかして……?」妻は何かを思い出そうとしていた。
「はい、多分あってます」慎也が答える。
「——そうだ、夏生くん」妻は思い出した。
夏生は手を叩いた。「正解!」
そういえば、隣に座っているおじさんはさっきまで訝しげにこっちをみていたが、いつの間にか笑っていた。そう、M食堂はそういう店なのだ。
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