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私に関心のないアイツ 璃子

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 ダイエットしてるのか? というシャツインの言葉に正直私はびびった。

「なんで、私がダイエットしてるって思ったの?」
「あんた、顔色わるいから。おおかた菓子食ったら、飯食わないって生活してたんだろ。それを改善しようと思ってここで飯を食おうと思った」

 淡々とした口調で答える。
 シャツインのくせに鋭い。

 そういやこいつ学校でも成績上から数えたほうが早くて、陰キャのくせにとイケメン男子たちから陰口叩かれてた。

 ここは進学校なので、成績がいいと陰キャだろうが何だろうが、それなりに嫉妬される。
「うるさいなあ、インフルエンサーは大変なんだよ」

「やめりゃあ。いいじゃん」
 簡単に言ってくる。
 バイトをやめてしまった私の唯一の収入源なのに。

 リンスタがバズってから時々声をかけられるようになって、今ではモデルの仕事をやるようになっているのだ。

 話しながらも奴はかちゃりと部室のカギを開けると、第二理科室に入っていた。
 私も彼の後に続く、ぼろい校舎に最新の設備。
 不思議な取り合わせだ。なにせ学校の家庭科室より充実しているのだから。

 シャツインはブレザーをぬいでエプロンを身に着け、袖まくりをする。

 気のせいか慣れた様子で手早く準備するシャツインがかっこよくみた。おかしい、あまりにも食事しなさ過ぎて、幻覚でも見えるようになったのだろうか? 
 でも確かに背は高くてすらっとしてるよね。

 そこまで考えて私は慌てて頭を振る。

「一度バズったら、そんな簡単にやめらんないよ。収益出てるし」

「地道にバイトすりゃいいだろ」
 こっちの気も知らず、さして興味もなさそういうとシャツインはまな板と包丁を出し、いんげんを細かく刻んいった。
 リズミカルな包丁の音が響く。なんだか落ち着く音だ。

 それをボールに入れ、レンジでチンした後、白だしと炒りごまでさっと合える。手つきがいい。簡単な料理なのに、こいつが作っているとなぜかおいしそうに見えるから不思議だ。

 次にシャツインはテフロンフライパンに油を敷かずさっと塩コショウしたひき肉を炒め始める。じゅうじゅうとフライパンからいい音がする。

 肉の色がかわってきたころ、砂糖、しょうゆ、みりんを手早く目分量で入れ、さらによくわからない調味料を入れようとする。

「ちょっとまった。シャツイン、何入れようとしてんの?」
「ん? 豆板醬とテンメンジャン。これが味の決め手になる」
「ふーん」
「あんた、食ったことないのか?」
「わかんない。料理しないし、私もお母さんも」
「あっそ」

 関心なさそうだ。
 みな私の話を聞きたがるのにこいつは違う。

 何かというと私を追い払いたがる。女子といるより、料理している方が数倍楽しいとでもいいように。
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