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田舎者って何? 璃子
しおりを挟むしばらくするとフライパンから、いい匂いが立ち上って来た。これ甘辛くて絶対旨いやつ。私のおなかはまたなった。
別にシャツインに聞かれても恥ずかしいとは思わない。いや、ちょっとは恥ずかしいかな。だけれど、こいつは聞こえないふりしてくれている。
私がそんなことを考えている間にもシャツインはお椀に卵を割り入れ、解き始めた。
油をしいて熱したフライパンにさっと流しいれると、じゅっといい音が響く。シャツインは白身を潰すようにせわしなく菜箸でかき回す。あっという間に色むらのない優しい黄色のいり卵が出来上がった。
「あんた、なんでそんなに料理うまいの?」
「母親が下手なんだ。それなのに俺に弁当を作ろうとする。だから、自分で作ることにした」
質問に過不足なく答えてくる。たいていこういうやつは頭がいい。
「ふーん、私のお母さんは料理しないなあ」
「じゃあ、遠足の弁当は冷食や総菜詰めてた感じか? 俺はその方がありがたい」
話しながら、シャツインが炊飯器のふたを開ける。
ほんのりと甘みのあるコメのたけたいい匂いが立ち上った。
この間は握り飯を持ってきていたのに、今は炊飯器で炊いている。シャツインは明らかに進化していた。
「私のお弁当箱にはお菓子が詰まってたんだ」
気付けば、私の口からポロリとそんな言葉こぼれおちた。
「へえ」
シャツインが言ったのはそれだけだった。だからかもしれない。
「でもね、友達のお弁当箱にはたこさんウィンナーや、黄色い卵焼きがはっているの」
らしくなく、そんなことを口走る。
「ふーん」
気のない相槌。
「最初は、みんな璃子ちゃんのお弁当すごい! うらやましいっていうの。でも先生に璃子ちゃんがお弁当の時間におやつを食べてるって告げ口する子がいて」
こんな話する気なかったんだけれどな。シャツインは何も言わないから話を続けた。
「そうしたら、先生が言うの。『璃子ちゃんちはいいんです。お母さんが忙しいからって』『そっか、璃子ちゃんちお父さんいないからね』って言い出す子がいて『なんでお父さんいないのって?』『やめなよ、かいわそうじゃない』ってうるさいんだよ。ほんと田舎って大嫌い。だから、お母さんと東京に来た時せいせいした」
「なんだ。成瀬は田舎者か」
つっこむとこそこ?
って田舎者って何? 地方出身者でしょ?
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