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11話 亜人の暮らし
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それからしばらくしてアステールとレゾットをともない市中散策に勤しんでいた。亜人たちは大きな町を築いていた。都市というべきだろう。
家屋は木造がほとんどだったが、そでもしっかり作られている。そんな街並みを歩くのは亜人たち、人外ばかりである。三角の耳を生やした猫族や犬族、全身に鱗をまとい蜥蜴の顔をしているのはリザードマンだろうか。ドワーフやエルフなどの有名な亜人もいた。
容姿がバラバラな人の群れの中での共通点としては。
「人間はあまりいないのか?」
純潔の人間らしき人は見当たらなかった。
「純血は貴方だけだ。対立は根深いからな」
レゾットは千変万化とあだ名され、姿形を自在に変える技を持つ。彼に妙な魔術を施されていたが実感としてはほとんどなかった。
「本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫だ。レゾットの力がきいている。多少人間臭いところがあるからハーフだと思われる」
擬態しているらしいが自分ではその効果をあまり感じない。身体の周囲に薄皮一枚、膜が張ってあるような違和感がある程度だ。
周りが騒ぎになっていないことから、効いていることは間違いないのだろう。
亜人はかつて残虐王の配下として敵対していたこともある人々だ。残虐王の戦術と俺の戦い方の特性上、ほとんど直接的戦闘をしたことはなかったが、それでも敵対していたのは紛れもない事実であった。亜人に嫌悪感を持つというわけでもないが、こうも異形たちの中にまぎれていると、気が休まらなかった。
しばし歩みを進めていると市場に出た。広い通りの左右には行商が商品を並べ大きな声で客を引いている。その他にも雑貨屋やらレストランなどの店舗が立ち並んでいる通りになる。偶に通る馬車や人ごみにまぎれながらなんとか歩いていく。
各地の特産品や部族の工芸品、きらびやかな宝石類、ドワーフ製などの物珍しい武具類など様々なものが売られ、活気に溢れる商店街からは人が絶える様子がない。
近くの屋台には籠一杯に果物が置いてあった。
喉の渇きを覚えて一つ手に取る。
「いくらだ」
店主に問いかける。
幸い残虐王の残していったお金があるからこれぐらいは自由に買える。
はずだったのだが。
「お前臭いな」
質問に答えず店主はじろりと俺を睨んだ。
彼は熊に似た顔つきの全身が茶色い体毛に覆われた大男だった。
「混じりものに売るものなんてない」
それは見当違いの侮蔑であるため苛立ちはなかった。
むしろ問題視したのはアステールのほうだった。
「こら。なんたる言い草だ」
アステールが俺の後ろからひょいと姿を見せて言った。
「あ、アステール様」
アステールはこの亜人の集落のまとめ役の一人だという話だ。いきなりそんな彼女が現れたら店主の驚きも当然のことだった。
「混じりものなどと呼ぶんじゃない。仲間だぞ」
「でも人間は最低なやつらじゃないですか」
「な、なんたる無礼な! この方をどなたと心得ているんだ! ええっ!」
反論する店主にとうとうレゾットが切れた。唾を飛ばして発狂気味に叫ぶレゾットの頭を、
「やめんか」
アステールがぱかんとはたいた。
「レゾット様?」
彼の様子を受けて店主は完全に引いていた。
「お二人の客人にご無礼を働いて申し訳ありません」
アステールはふうとため息を吐いた。
「シーラスよ。そういうことを言っているのではない。人を憎む気持ちは分かる。だが虐げられる者がもっと弱い者を虐げてどうするというのだ。仲間を差別するんじゃない」
「……」
店主は何も言えずに黙りこくってしまった。彼の気持ちが分かるとは言わないが。感情とは理論や命令されて簡単に変わるものではないのだ。
「おとーちゃん!」
突然の声で皆の視線が注がれる。市場の道の向こうから小熊が陽気に手を振っていた。
それを見て店主も厳つい顔を緩めた。牙の生えそろった大きな口を歪めるのは少々恐ろしくも見えたが笑っているのだ。二人は家族なのだろう。
そんな時のことだ。バキィ! と鈍い音が広場中に響いた。それは道行く重い荷を積み過ぎた馬車の車輪が重みに耐えきれずに破砕した音だった。
制御を失う馬車が倒れ込む。その先には小熊の亜人が。無情にも、ずしんと地を揺らし、砂埃を巻き上げて馬車は倒れた。
「せがれ!」
店主は泣き叫びながら馬車を起こそうと駆け寄った。
「誰か、助けてくれ。せがれが下敷きに!」
その声は苦痛、苦悶に満ち溢れていた。
「おーい! こっちだ」
そこで俺は呼びかける。俺は子供を抱えて馬車の向こう側の地面に横たわっていた。あの一瞬のすきに捕まえて駆け抜けたのだ。
「……速いな」
アステールは呟く。
彼女でさえ動けていなかったのに、俺が先んじたのが驚きだったのだろう。
咄嗟のことだったが、なまってはいなかった。これが一切の魔術の才能がなかった俺が磨き続けた技術だ。刹那の魔力操作による身体能力の向上、それは亜人の使う技に似通っていた。
「うおおおおおおおおおおお!」
熊の顔面がもの凄い勢いで迫ってきて息がつまりそうになった。
あまりの気迫に戦士としての本能により腰を浮かしかければ、彼はがしっと俺の両手を掴んだ。
「あんたは恩人だ!」
そう言っていくどもすまなかったと頭を下げた。
「こんなもん幾らでも持っていってくれ」
「いや一つで十分なんだが」
山ごと渡そうとする果物一つだけ拝借させてもらった。
家屋は木造がほとんどだったが、そでもしっかり作られている。そんな街並みを歩くのは亜人たち、人外ばかりである。三角の耳を生やした猫族や犬族、全身に鱗をまとい蜥蜴の顔をしているのはリザードマンだろうか。ドワーフやエルフなどの有名な亜人もいた。
容姿がバラバラな人の群れの中での共通点としては。
「人間はあまりいないのか?」
純潔の人間らしき人は見当たらなかった。
「純血は貴方だけだ。対立は根深いからな」
レゾットは千変万化とあだ名され、姿形を自在に変える技を持つ。彼に妙な魔術を施されていたが実感としてはほとんどなかった。
「本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫だ。レゾットの力がきいている。多少人間臭いところがあるからハーフだと思われる」
擬態しているらしいが自分ではその効果をあまり感じない。身体の周囲に薄皮一枚、膜が張ってあるような違和感がある程度だ。
周りが騒ぎになっていないことから、効いていることは間違いないのだろう。
亜人はかつて残虐王の配下として敵対していたこともある人々だ。残虐王の戦術と俺の戦い方の特性上、ほとんど直接的戦闘をしたことはなかったが、それでも敵対していたのは紛れもない事実であった。亜人に嫌悪感を持つというわけでもないが、こうも異形たちの中にまぎれていると、気が休まらなかった。
しばし歩みを進めていると市場に出た。広い通りの左右には行商が商品を並べ大きな声で客を引いている。その他にも雑貨屋やらレストランなどの店舗が立ち並んでいる通りになる。偶に通る馬車や人ごみにまぎれながらなんとか歩いていく。
各地の特産品や部族の工芸品、きらびやかな宝石類、ドワーフ製などの物珍しい武具類など様々なものが売られ、活気に溢れる商店街からは人が絶える様子がない。
近くの屋台には籠一杯に果物が置いてあった。
喉の渇きを覚えて一つ手に取る。
「いくらだ」
店主に問いかける。
幸い残虐王の残していったお金があるからこれぐらいは自由に買える。
はずだったのだが。
「お前臭いな」
質問に答えず店主はじろりと俺を睨んだ。
彼は熊に似た顔つきの全身が茶色い体毛に覆われた大男だった。
「混じりものに売るものなんてない」
それは見当違いの侮蔑であるため苛立ちはなかった。
むしろ問題視したのはアステールのほうだった。
「こら。なんたる言い草だ」
アステールが俺の後ろからひょいと姿を見せて言った。
「あ、アステール様」
アステールはこの亜人の集落のまとめ役の一人だという話だ。いきなりそんな彼女が現れたら店主の驚きも当然のことだった。
「混じりものなどと呼ぶんじゃない。仲間だぞ」
「でも人間は最低なやつらじゃないですか」
「な、なんたる無礼な! この方をどなたと心得ているんだ! ええっ!」
反論する店主にとうとうレゾットが切れた。唾を飛ばして発狂気味に叫ぶレゾットの頭を、
「やめんか」
アステールがぱかんとはたいた。
「レゾット様?」
彼の様子を受けて店主は完全に引いていた。
「お二人の客人にご無礼を働いて申し訳ありません」
アステールはふうとため息を吐いた。
「シーラスよ。そういうことを言っているのではない。人を憎む気持ちは分かる。だが虐げられる者がもっと弱い者を虐げてどうするというのだ。仲間を差別するんじゃない」
「……」
店主は何も言えずに黙りこくってしまった。彼の気持ちが分かるとは言わないが。感情とは理論や命令されて簡単に変わるものではないのだ。
「おとーちゃん!」
突然の声で皆の視線が注がれる。市場の道の向こうから小熊が陽気に手を振っていた。
それを見て店主も厳つい顔を緩めた。牙の生えそろった大きな口を歪めるのは少々恐ろしくも見えたが笑っているのだ。二人は家族なのだろう。
そんな時のことだ。バキィ! と鈍い音が広場中に響いた。それは道行く重い荷を積み過ぎた馬車の車輪が重みに耐えきれずに破砕した音だった。
制御を失う馬車が倒れ込む。その先には小熊の亜人が。無情にも、ずしんと地を揺らし、砂埃を巻き上げて馬車は倒れた。
「せがれ!」
店主は泣き叫びながら馬車を起こそうと駆け寄った。
「誰か、助けてくれ。せがれが下敷きに!」
その声は苦痛、苦悶に満ち溢れていた。
「おーい! こっちだ」
そこで俺は呼びかける。俺は子供を抱えて馬車の向こう側の地面に横たわっていた。あの一瞬のすきに捕まえて駆け抜けたのだ。
「……速いな」
アステールは呟く。
彼女でさえ動けていなかったのに、俺が先んじたのが驚きだったのだろう。
咄嗟のことだったが、なまってはいなかった。これが一切の魔術の才能がなかった俺が磨き続けた技術だ。刹那の魔力操作による身体能力の向上、それは亜人の使う技に似通っていた。
「うおおおおおおおおおおお!」
熊の顔面がもの凄い勢いで迫ってきて息がつまりそうになった。
あまりの気迫に戦士としての本能により腰を浮かしかければ、彼はがしっと俺の両手を掴んだ。
「あんたは恩人だ!」
そう言っていくどもすまなかったと頭を下げた。
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「いや一つで十分なんだが」
山ごと渡そうとする果物一つだけ拝借させてもらった。
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