パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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29話 魔王と英雄

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 昏倒した男を放り出して俺はルシャのもとへと向かう。

「ルシャ。大丈夫か!」

「はい」

 心底心配していた俺をよそにルシャはけろりとした顔をして答えた。

「これぐらいなら全然へっちゃらですよ」

 その言葉通りだ。もう既に傷口は塞がっていた。

 平気な顔で言い放つルシャを見て分かった気がした。
 彼女がなぜ悪事が苦手なのか。

 きっとこの子は痛みに鈍感なのだ。多少のことでは傷つかないのであれば、他人に悪意を持つことも少ないだろう。そのわりに他人の脆さや痛みを知っている、それは非常に得難いことだと思う。母を亡くしたという生い立ちに理由があるのだろうか。

「この看守野郎をどうしてやりますか! 火あぶりですか! 魔物の餌にしてやりますか!」

「今日はもう帰ってもらいなさい」

 どうせできもしないに、相変わらず威勢だけは良い。

「犯罪者の蛆虫風情が憐れむつもりか!」

 一人の看守から罵声を浴びせられようと元々冤罪であり怒りがわくことはなかった。なにより俺以上に素早く反応した者がいたからだ。

「この野郎! マスターになんて口のきき方だ!」

 ルシャが男の胸倉を掴みあげて怒声を響かせる。

「こん畜生! マスターのお慈悲が受けられんのか! お慈悲が受けられんのか!」

 がっくんがっくんと激しく揺さぶった。

「やめ──ちょ──すいま──」

 男は不明瞭な言葉を断続的に発している。

「やめなさいって。さっさと帰ってもらいなさい」

「分かりました」

 手を離したあとルシャはふむ──と何かを考えるように顎に手を当てた。不思議だ。ルシャが余計な考えを巡らせた時に俺にプラスとなって働く図がどうしても想像できなかった。

「犬畜生のように這い蹲るなら生して帰してやる。だが逆らうというなら火あぶりにしてドラゴンの餌にするぞ! とマスターが言っておられる」

「いや言ってないよ」

 どんな翻訳機を通せばそこに行きつくのだろうか。そう変換するのはルシャによるルシャ翻訳機のみだ。

「違うんですか!?」

「なんでびっくりした顔してるんだ」

「でも」

 ルシャはこのまま帰しちゃっていいの? なんて顔をしている。はああ、もう面倒だ。ルシャに向かって適当に言い放つ。

「分かった。そいつを火あぶりにする。燃やして頭からドラゴンに食わせてやれ」

「ひえ」

 宣言するとルシャは明確に尻込みしてみせた。自分で言っていたことなのに、想像しただけで恐ろしかったのか、ぶるりと身を震わせる。

 どうしよう──とチラチラ俺の顔を伺い、次に看守の顔を伺う。

 そして導き出した結論は。「お、お早めにお帰り下さい」とルシャは看守を引っ張り上げて立たせると帰るように急かし始めた。

 逆翻訳に成功した! 
 なぜか偉大な発見をした気分だった。

「あ、ちょっと待て」

 目を覚まし、逃げかけた蛇目の男に呼びかける。

「今監獄都市には4英雄がいるのか?」

「もちろんだ。覚悟するがいい。お前の悪事もここまでだ」

 勝ち誇ったように彼は言う。

「それならちょうど良かった。お前らは必ず生まれたことを後悔するほどの苦しみを味あわせてから殺してやると伝えておいてくれ」

 あまりの言葉に男は怯えて逃げ去っていった。

 この程度で逃がしてしまうとは、ルシャに感化されたのか甘い対応だ。追いかけて殺しておくべきかとも思った。

 今までも敵は何人も殺してきた。人から何かを奪うことを躊躇うようでは、長生きできないと俺は良く知っていた。そのことに後悔も迷いもない。だが今は、ルシャの前で人を殺したくはないと、なぜかそう思ったのだ。こんな子供の前で殺し合いの凄惨な現場を見せることもないと。

 それに看守を殺してしまうことで自由都市と監獄都市の関係が修復不可能なまでに拗れる可能性もある。そもそも俺がここにいる時点で関係の修復は望めないのかもしれないが。

 ……さてどうするか。追うべきか。追わざるべきか。

「ご、ごめんなさい。マスター。帰してしまって」

 思考を巡らせる俺のもとにルシャがやって来て言った。

「いや、よくやった。ラナを守っただけで上出来だ」

「ありがとうございます。ルシャちゃん。エルさん」

 二人してせっかく褒めたというのに、しゅんと肩を落とした。

「私が変な意地張ったせいで、ラナさんを一人にしてしまったんです。私のせいです」

 ルシャは俯き気味に呟く。俺はその頭にポンと手を乗せる。

「さすが一番弟子」

 我ながら甘い。煮え切らないと言うべきか。本当はこんなこと言うべきではないのに。
 
 ぱああとルシャは顔を明るくする。

「はい! ありがとうございます!」

 喜色でいっぱいの笑顔は眩しかった。

 こうやって大袈裟に喜ぶことは言う前から分かっていた。どれだけちぐはぐな関係だが十分に理解してはいたが、ルシャが暗く沈んだ顔をしているとこっちまで調子が狂った。

 たった、それだけのことだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「負けた、だと」

 看守長は信じられないと言ったように口を結んだ。

「確かに残虐王の能力は強いが、しょせん古臭い魔術師だろう」

 身体を霊体にされる前に首を飛ばしてしまえば良かったはずだ。そう考えているのだとしたら、やはり甘い考えだったとレギルは思う。実際に対峙したものでなければ残虐王の恐ろしさは分からないのだ。

「それが、私の技が全く通用しませんでした。まるで熟練の魔法剣士です」

 しかし残虐王の話は強力な魔術ばかりを聞いて、近接格闘術を使うなどは初耳だった。実際に相対して戦ったレギルですらそうなのだ、他のものの驚きは当然だろう。

「残虐王は人のギフトを奪うと風の噂で聞きます」

 一人の男が口にした。

「もしやあのエル・デ・ラントの力を奪ったのでは」 

「最強の魔術師が最強の剣士の技術を……」

 がたんと机が音を立てた。
 その音は英雄の場所からだった。

「どうしました?」

「いいや、少し立ちくらみがしただけさ」

 動揺した者も現れたため、レギルは慌てて取り成した。いついかなる時も冷静で、思慮深く、人々の希望であること。彼の考える英雄としての振る舞いを何とか維持した。

「そうだ。残虐王から4英雄のみなさまに伝言があります」

「何かの交渉か?」

 レギルの言葉にはわずかな希望に満ちていた。交渉を求めるということは話が通じるということ。話が通じるのならいくらでもやりようはあった。

「そのままお伝えいたします。『お前らは必ず生まれたことを後悔するほどの苦しみを味あわせてから殺してやる』だそうです」

 あまりの内容に室内から音が消えた。

 だがそこに一つの笑い声が生まれた。それはもちろん、それだけの胆力を持つ者、英雄のものだとその場にいたみながすぐに理解した。

「ふ。ふっふっふ。そんなつまらない脅しを残虐王がするとはね。ずいぶん隠居してたせいで彼も少し時代に乗り遅れてしまったのかな」

「さすが英雄殿。肝が据わっていらっしゃる」

「本当だ。私など生きた心地がしなかったのに」

 あまりにどっしりと構えた英雄の姿は、これこそが英雄だと人々の目に焼き付いた。彼に対する賞賛や賛辞の言葉で溢れた。

 そんな中で一人の男が異音を捉えた。

 ガタガタガタ。

「ん? 何の音だ」

 ガタガタガタ。

 断続的に続き、いつまでも聞こえている。
 不思議なものだと男は首を傾げた。
 
 誰もがまさか英雄の震えた足が立てる物音だとは誰もが気が付かなかった。



 全精力を使い果たしたレギルは寝室に戻ると、よろよろとベッドに倒れ伏した。連絡をとったニースやロイスが到着したという知らせはまだない。彼らも英雄だ、そんなすぐに自由に動けるほどの身分ではなくなってしまっているのだ。

「くそ! いつまで待たせる気だ。俺を見捨てるつもりなのか」

 彼らのそんな事情は分かっていた。
 だが恐怖をかき消すために苛立ちを湧きあがらせる。

『お前はシルセス家の人間だ。常に一番であれ』

 親から親戚から、周囲の人間からずっとそう言われ続けてきた。

 レギルは学術成績も魔術でも常にそれを実現してきた。自分が常に一番に、そんな夢想に過ぎない夢物語は普通すぐに敗れて、現実を知るはずだ。しかし全ての分野で他を寄せ付けないレギルは間違いなく一握りの天才だった。だが上には上がいた。残虐王、そして剣にのみに生きた男。

「俺は一番に」

 天才だったレギルは自分を超えるものが現れた時にどうしたらいいか分からなかった。そしてエル・デ・ラントにイリナ姫が惚れていることは一目瞭然だった。だから消えてもらったのだ。

 レギルが一番になるために。
 常に細心の注意を払い、慎重に行動して、一番になってきたのだ。

 だが今度の障害は魔王ときた。
 しかもレギルが謀殺した相手の能力を得て。

「エル。お前が呪ってやがるのか」

 最近はあの男のことばかり考える。彼の怨念がレギルを殺そうとしているのだと、そんな馬鹿げたことまで考えた。

「ちくしょう。死んでたまるか。生きてやる。俺は」

 心身ともに疲れ果てたレギルはいつの間にか泥のように眠りについていた。
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