パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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33話 ハイエルフの少女セレーネ

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 傭兵のリーダーの男と気合を込めてにらみ合う。決して弱い相手ではないだろう、俺は相手がどんな敵でも舐めてかかったりはしないと決めていた。

「人間にも、こんな者がいるのか……」

 対峙する俺の背後でぽつりとハイエルフの少女の呟きが聞こえた。

「下がってろ」

 彼女らだけを逃がすにしてもまずは彼らの出足を鈍らせなければ追いつかれてまた捕まってしまうだろう。それにはリーダーを制圧して相手を怯ませる必要があった。

「よそ見なんて余裕だな」

 傭兵の男は即座に俺の眼前に肉薄した。エアスライド、風系統移動魔術だ。起動が静かで出が早い、かなり使い慣れているのが分かった。斜め下からの斬撃を剣で受けると、火花が飛び散った。

 男の剣も守護壁無効化が付与されている。他の傭兵はさすがに普通の武装だが、どうやらこのご時世にはずいぶんと大安売りしているらしい。

「もらった!」

 ドン! と破裂音がして俺の剣を持つ手が跳ね上がった。男の剣には風系統の「エアストライク」の付与魔術が、本来は圧縮した空気の弾丸を生み出す魔術だ。瞬時の魔術展開といい、やはり戦い慣れている。

 情け容赦なく追撃が繰り出された。それは態勢が崩れている以上は不可避の攻撃だった。俺はそれを左手で受け止めにかかる。無駄なことを、そう彼は思ったはずだ。守護壁無効化がある以上は、魔術で防ぐ以外は無駄なのだと。

「どういうことだ」

 男は信じがたいとばかりに呟いた。

 俺には気功の力がある、硬気により剣をつかみ取っていた。硬気は全身に使えるため別に手で受け止める必要もなかったのだが、これには傭兵たちに大きな動揺が広がった。結局は攻撃が通じないと思わせることが、相手の戦意を削ぐのに手っ取り早い。
 
「まさか亜人たちの力を使うのか!」

 傭兵の男は強く踏み込み、全身の力を使って剣を押し込まんとする。だがピクリとも動かない。彼は舌打ちして剣を捨てて退いた。

 ルシャたちは今の隙にエルフの少女を引っ張って逃げようとする。

「今の隙に逃げましょう」

「それには及ばない」

 エルフの少女は懐から取り出した口笛を一定のリズムで吹き始めた。

「全員聞けっ。既に我々の仲間が取り囲んでいる。降伏すれば命だけは助ける!」

 その時の反応は三者三様だった。ある者は即座に武器を捨て、ある者は物陰に飛び込み、ある者は全く信じようともせずに無造作にエルフの少女に近づいていった。

「何馬鹿なこと言ってやがる」

 ドス、と鈍い音がした。
 どこからか飛来した矢が男の足の肉を貫通していた。

「ぎゃあああ!」

 男の叫びが響き渡った。

「戦闘準備! 物陰にかくれろ!」

 すぐさま俺達は戦いをやめて身を伏せる。ここは泉のほとりだ。隠れる物陰などほとんどなかった。これは、明確に釣り出されたと見るべきだろう。

「ははは。お前ら! 馬鹿なエルフどもを返り討ちに──」

 言葉が途中で止まる──30を優に超える数のエルフが周囲で弓を構えていた。地上から、木の上から、完全に包囲されていた。

「おいおい。嘘だろ……なんて数だ」

 リーダーの男の決断は早かった。

「お前ら武器を捨てろ!」

 男たちは次々と見える位置に武器を放り投げた。
 俺たちも同様だ。装備していた刀剣の類を捨てる。

 だがその中で例外だったのは猟犬だ。主人の危険を感じたのか、猟犬は無謀にも敵たちに飛びかかって行った。だがやはり無謀だった、しゅっと空を切り裂く矢がその反撃を終わらせた。

 猟犬の喉元に矢が突き刺さり痙攣して、すぐに動かなくなった。

「あーくそ。高いんだぞ」

 リーダーの男が口にするのは金のことばかりだ。

「全員手を挙げて出てこい!」

 ハイエルフの少女が命令口調で叫ぶ。
 完全に立場は逆転していた。

「残念だが、お前らは罠にかかっていたんだ」

 お宝を手に入れて油断しているところを囲んでいたということだ。悪名とともに武名がとどろくレストの傭兵を制圧するために少女は囮としてあそこにいたのだ。

 ハイエルフの少女は唐突に俺を睨みつけた。

「そこの人間。私はもう子供じゃない。それに!」

 彼女は強い口調で続ける。

「人間なんか怖くなんてなかった!」

「そいつは勘違いして悪かったな」

 俺は肩をすくめて返答する。

「セレーネ様! ご無事ですか」
 
 俺たちが降伏すると、すぐに一人のエルフの男がハイエルフの少女、セレーネのもとに駆け寄ってきた。

「大事ない」

「お顔に傷が……人間め」
 
「よせ。いい。今殺すべきではない」

 その宣言で傭兵たちにも俺たちにもわずかな安堵が訪れた。だがセレーネの傍らのエルフの男がその場で少女の前に跪いた。

「セレーネ様。どうか少しの時間、お許しください」

「ああ。分かった。いいだろう」

 とセレーネは頷く。

「貴様の顔は覚えてるぞ。2年前に弟を攫った男だ」

 エルフの男はリーダーの男に向かって指差した。

「弟はどこだ!」

 怒声を受けたリーダーの男はそれでも飄々として答える。

「ああ。悪い。言いにくいことだが弟さんはもうこの世にいない」

「なんだと!」

「俺が男を売る客はたいてい女装した美少年が好きなホモ野郎だ。きっと弟さんはいま頃……妹さんになってる、残念だが」

「けだものめ」

 エルフの男はぎりと弓を引き絞った。

「駄目だ! 人の血の穢れを受ける気か」

 その行いをセレーネと呼ばれた少女は止めた。彼の腕を掴み、弓を降ろさせると元気づけるように背を何度か叩いた。 

「このことは我々だけでは決められない。分かるだろ?」

「はい」

 エルフの青年は悔しそうに弓を下した。

「お前らの処遇は後で決める。ベースキャンプに戻ってからな」

 どんな目に合うかはまだ分からないと。
 ただ少なくとも歓迎されることだけはなさそうだ。

  

 俺達が連れて行かれた場所には無数の人影があった。軍隊と言ってもいいほどの人数がおり、小さな集落が出来上がっていた。天幕がいくつも張られ、騎乗用の魔獣が何頭も繋がれている。

 そこにはありとあらゆる種類の亜人が混在している。

『ニンゲンダ』

『人間だ』

 足を踏み入れると圧倒的な敵意が波のように押し寄せた。

「どういうことだ。こんな南にエルフの団体がいるのもおかしいが、ここまでとは」

 傭兵たちから困惑の呟きが聞こえる。そんな驚きをよそに俺達は縛られて天幕の中に放り込まれた。セレーネたちは隣にある一際大きな天幕の中に入っていった。

 確かにこれは異常事態だ。まるで戦争の準備ではないか。彼らは人間との戦いでも始めるつもりなのだろうか。

 なんとか破れた隙間からこっそりと覗き見る。だが隣の天幕までは見通せない。

 俺は指先にマナを流して物理的なエネルギーとして飛ばす。気功の応用だ。ほんの一瞬、わずかな力の発露で隣の天幕に小さな穴をあけた。俺たちの見張りに立っている亜人の誰もそれに気づけてはいなかった。

『人間を捕えたそうだな。なぜここまで連れてきた』
 
 集中するとぼんやりと声を捉えた。

「彼らは北上していた。捕まえねばいずれここまで辿りついただろう。それに、我らの姿を見られた」

 だんだんとはっきりと声が聞こ始めた。
 それはハイエルフの少女セレーネのものだ。

『そういうことを言ってるのではない。なぜその場で殺さなかった』

 野太い声はライオンの頭を持つ亜人だ、獣人だろう。

「あの中には私を助けてくれた者もいる。亜人とのハーフの者もだ。我々は人間と無為に争うことはしないと決めたはずだ」

『確かにそうだとも。しかし我々を討伐しに来た相手をただで帰すわけにもいかない。分かっているはずだ。それ以上に帰せない理由があることぐらい。少なくともあの傭兵どもはな』

 俺一人ならばいつでも逃げ出せた。エルフに囲まれていた時も、今この時もそうだ。

 戒めである手かせを一瞬で破壊して、3秒以内に見張りの全員を皆殺しにすることができる。もっともその場合は物音で気づかれて周囲の敵がなだれ込んでくるだろう。それに完全にこの謎の団体たちと敵対することになる。そして亜人を殺す、それはあまり気が進まない行為だった。

 それを回避するのは人質をとることぐらいか。最悪、奥の手もある。俺の名を明かすこと、できればしたくはないが。

「術者に記憶を消させればいい。もしくは誓約の呪いで」

『それは確実ではない。万が一がある』

「ならばどうしようと言うのだ。もはや戦意もない相手を殺せとでも」

『戦いの神に審判を求める』

 セレーネはほんの一瞬息を飲み、すぐに声を張り上げた。

「あんな野蛮な方法は好かん!」

『野蛮とは何だ。お高くとまったエルフめ。我らの作法で言えば敵は生きたままはらわたを裂いて殺す。生きるチャンスを与えるだけ慈悲深いだろう』

「蛮族めが」

 ぐるるるる! と獅子の男は威嚇するように唸り声を発した。するとセレーネを守るように男のエルフが前に出た。彼女の補佐役なのだろう。弟を探していたエルフだった。

 かつん、と杖がテーブルを叩く。
 それは年老いた亜人の仕業だった。

 彼が相談役、まとめ役を担っているのだろう、殺気だったような剣呑な空気は冷や水を浴びせられたように霧散していた。

 珍しい種族を見た。髭をたくわえ、皮膚に深い皺を刻んで非常に年老いてはいるがゴブリンロードだ。弱いゴブリンという種族で長く生き延びて、さらに圧倒的に強さをためこむとその種族になる。秘められたかなりの力を感じた。

「公平とは言い難いが、多数決で決めようではないか」

 セレーネがまず口火を切った。

「解放を」

「審判を」

 それと同様の言葉がいくつも続き、

『審判を』

 と獅子の亜人が最後に言った。

『決まりだ!』

 彼はテーブルを力強く叩いた。 

『運命を決めるのは神々だ』
 
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