パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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閑話 ラナの本性はいかに

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 年下に慰められ、いちいちびくびくした様子を見せるラナは酷く臆病な性格にうつった。典型的なメンタルが弱そうなタイプだ。

 とは思いつつ俺はラナが天然なのか実は演技をしている小悪魔なのかはかりかねていた。俺の戦士の勘だが、この子は何か臭う。

 実際の反応速度、察知能力からして、その見かけや自分で言うほど弱くはないはずだ。ならばこの態度は擬態、と考えるのがやはり妥当であるだろう。

 ルディスのことまで疑うわけではないが、今から思えばあの野盗に襲われていたところを助けたというのも、なかなか出来過ぎている。そして次は看守に絡まれているところを助けることになった。

 そもそもあれが信用を勝ち取るための芝居だったら。看守と内通しての刺客か、もしくは魔帝、はたまた第三の勢力に与していることも考えられる。

 最大の疑問点、何より彼女がおかしいのは、まさしくその存在自体である。

 気立てが良くて家事が得意で奥手、巨乳で可愛くて猫耳、その上コミュ障気味ときた。そんな生物が果たして存在しうるのか。俺の人生哲学から答えを導き出せばノーである。

 思考と直感、その両方から黒の線が追える。これが盛大な勘違いだったら申し訳ないのだが、まさかルシャでもあるまいし、俺の勘がそこまで的を外すことはないだろう。

 とにかく要注意だな、と自分の中でだけで気にかけておくことにした。以前ルシャにもラナのことをチラチラ見ていると指摘されてしまったほどだ、もっと気を張って観察しなくてはならないだろう。

 守ると言ったルシャであったがすぐに別のことに興味が引かれてラナの護衛がおろそかになる。ラナはそれに文句など言えず、ただ猫耳を元気なく垂らして意気消沈していた。

 うまい具合に庇護欲をくすぐってくる。これも上手く取り込まれたとも思える。そこで俺は彼女の真の姿を探るべく出立までのあとわずかな時刻をラナウォッチングに費やそうかと思う。



 それから少し空いた時間、何をするのかと思えばラナは自発的に料理場などで手伝い始めた。人見知りするのに俺たちの待遇を良くするために頑張って言いだしたのだろう。俺はそんな彼女のあとをこっそりとつけていた。

 料理だけでなく困った様子の亜人の雑用なども買って出る。ラナは亜人とのハーフだ。亜人たちにも受け入れられやすい。あっちこっちで精力的に働いていた。

 驚くほどに良い子だ。今のところはそれ以外の感想が思い浮かばない。しかしとことこ歩いていたところで余所見をしたか、とある亜人とぶつかった。

「あう」

 と可愛い声を出して転ぶ。ルシャとはまた違った方向でどん臭い。トラブルメーカーだ。よりによってぶつかった相手は例の獅子の頭を持つ亜人だ。名をライオットという。

 見るからに恐ろしい形相を前にしてラナはガタガタと震えていた。恐怖のあまりぺたりと猫耳が垂れている。目を見開いた、わりかし真に迫った怯えだ。

 思わず助けに駆け寄りたくもなる。いや、しかしここは心を鬼にするのだ。どっちにしろすぐ助けては彼女のためにならない。ここは子供の初めてのお使いを見守る親の気持ちでグッと堪えるべきだ。

『猫族か、珍しいな』

 ライオットは気分を害した様子も見せずにラナを見下ろした。

『悪かった。立てるか』

 しかも優しげに手を取って立たせてやった。

『大丈夫だったか。レストの傭兵に従わされていたのだろう』

「いえ。私は……」

 ラナは言葉を濁した。真実を言い難かったのだ。

『辛い目にあったな。もう安心だ。ここにお前を傷つけるものはいない』

 言いよどむその態度をライオットは勝手に解釈したようだった。

『何か酷いことをされたら私に遠慮なく言うんだぞ』

 おっかないやつが優しくすると凄く優しく見える不思議。これは不良が人助けをすると凄く良いやつに見える法則だろう。

「あ、わ、わたし」

 ラナはぽろりぽろりと涙をこぼした。彼女は自分は人間だとずっと言っていた。亜人に何か思うところもあったのかもしれない。それが亜人側の者にこうも優しくされて戸惑ってしまったのだろう。

『ど、どうしたのだ?』

「ご、ごめんなさい」

 見かけで差別される苦しみを知っていたはずなのに、自分も同じく姿形で判断して怯えてしまったという後悔も入り混じっているはずだ。

 そんな様子を見てアステールがすっ飛んできた。

「こらあ! 女の子を虐めるでない!」

『あ、アステール殿。虐めているわけでは』

 獅子の顔を困らせてライオットは慌てて言い訳を口にした。

 なおも言いすがろうとしたアステールは「ん?」と妙な顔をする。そして何やら俺の居る場所へと真っ直ぐに来て。

「何をやっているのだ。エル」

 完璧に動揺する。
 まさか完全に気配を消した俺の擬態を見破るとは。

「エルさん?」

 ラナにまで完全にばれてしまった。
 く。いったいどうして。

「私の命を分け与えたと言ったろ。お前の魂には私の力が宿っている。これだけ近くにいれば分かる」

 アステールはあっけらかんに答える。そんな重要なことはさっさと教えてもらいたかったものだ。

「こんなところで何をしてたんだ?」

「ああ、それは」

 という俺の答えよりも先に、

「見てた見てた」

 手のひら大の小人が複数人、俺の足元にまとわりついて口にする。

「ずっと猫のお姉ちゃんのこと見てた」

「じっと見てた」

「私をですか?」

 ぐ──と言葉につまる。余計なことを。監視していたことは最も隠したかったことだ。もはや見てたことは誤魔化しようがない、変に否定すれば疑念を持たれる。

 しっしと軽く小人を追い払うと、きゃーきゃー笑い転げながら逃げていった。

 何て答えるべきだ。猛烈に頭を回転させる。

 ラナのことが心配であとを付けていた。何を馬鹿な、お前はストーカーかという話になる。こんな答えではいけない。

「もしかして。心配してくれていたんですか?」

 当の本人からそう問われ、安堵して、そうだよと答えようと口を開き──はっと閃光のように思考が走った。

 これは撒き餌だ。あえて最初に考え付くような解答を誘っている。これに迂闊に飛びつけば網にかかった魚のごとく、監視していたことが看過されてしまう。

 危なかったと冷や汗が流れる、この即座の思考力と計算高さ、彼女はやはりできる。

「違う。偶然だ。たまたま通りかかって。それでラナがいたから」

 いたらなぜじっくり凝視しなくてはいけないのか。

「俺はただ」

「ただ?」

 何でしょう──とラナはこてんと首を傾げる。

「思わず君に見惚れてしまって」

「え?」

 予想外の言葉だったか、ラナはポカンと口を開ける。

「その胸から目が離せなくなってしまった」

 俺はラナのふくよかな胸を指し示す。
 すると彼女はバっと両手で胸元を隠した。

「はう」

 ラナは顔を真っ赤にすると、もごもご言葉にならない呟きを残して走って逃げていってしまった。

 ふう。これでセーフだと額をぬぐう。危ないところだったが上手く誤魔化せたようだ。男ならば多少胸を凝視するぐらいはやるものだ。あの情報屋の男の変態性を真似させてもらった。

 どうやら最悪の事態は免れた。胸を見つめる変態に成りすますことによって、存分に彼女を観察する免罪符を得た。これは大きなメリットだろう。デメリットはまさしく変態と見なされることにある。

「人間は変わった求愛行動をするのだな」

『私は率直で好ましいと思います。男らしいですね』

「私的にはあまりときめかないなぁ」

 と人間ではない二人は変な会話を繰り広げていた。
 
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