パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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45話 戦いの終わりに

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 声の主は行方不明だったルディスだった。セレーネが受けた別件の相談、それこそが怪我をしたルディスをエルフが保護しているという報告だったのだ。

 ルディスは包帯で腕を吊り、杖をついた満身創痍の姿だった。彼を見た市長の反応は尋常なものではなかった。全身をわずかに震わせ、汗を流す。

「ルディス。なぜ」

 生きていることが信じられない、そういう反応だった。

「市長。貴方を告発します」

 これからの事態を、終わりを予期したように市長の身体がぶるりと震えた。

「私はレストの傭兵に突き落とされたんです。貴方が護衛として付けてくれたものたちにです。……私は何とか生き延びた。しかし死を覚悟しました。助けのあてなどなく、あんな場所に置き去りにされたのですから。それを助けてくださったのはエルフの方々です」

「私は知らなかった。彼らの独断だ」

「依頼主に忠実なレストの傭兵がそんなことをしますか?」

 命を失おうとも依頼主に不利益な依頼を受けない、それがレストの決まりだった。

「それは俺が保証するぜ。俺の身内に極秘で市長からそういう依頼を受けていたんだろう。こっちの旦那の暗殺も狙ってたぐらいだからよ」

 ザルドの言葉がさらにそれを確実なものとした。

「貴方は私が邪魔だったんでしょう。私は貴方の行いを非難してきましたから。特にラナに言ったことは許せなかった。そう考える人も多かった。だから私にその座を奪われると考えたのではないですか。そして彼ら。「天使」の少女と終身刑の彼の存在も気にいらなかったのでしょう」

 場が沈まったところを見計らってアステールは声を張り上げた。

「私はアステール。外にいる亜人たちのリーダーの一人だ。そしてこちらがセレーネ。彼を助けたエルフの一族の姫君だ」

 セレーネは恭しくお辞儀した。
 普段の勝気な様子は微塵もない淑やかな仕草だった。

「我らは貴方がたを敵だとは思っていない。ともに生きたいと。そう思っている。その証として、彼の言葉に応えて助力に参じた」

 アステールは俺を見て高らかに宣言した。

 アステールは全ての人間を憎んでいるわけではなかった。俺など半ば人間に対する失望感のようなものを抱えているというのに、より憎しみの深いはずの彼女が人間に対してともに生きたいと願う、その姿は俺にとってあまりに神々しく、美しく見えた。

「どうか信じてほしい」

 アステールもお辞儀する。姿形がほとんど人間と変わらない、しかも綺麗どころの二人だ。その効果は大きかった。住民たちはすっかりと聞き入っていた。

「市長。彼らは私たちを助けに来てくれた。不義理なことはできません」

「家族の命を救ってくれたんですよ。それ以上に大切なことが何かありますか」

 発言した彼らの中には亜人を毛嫌いしていたものもいる、俺に出て行ってほしいと言った男たちもいる、しかし彼らは見たのだ。その眼で。見知って、聞き入って、それから先の選択は己の良心にもとづくものになる。

「市長。あなたは彼らが戦っていた時にいったいどこにいたんですか!」

「そ、それは。……今の話とは関係ないことだ! みんな騙されるな! これがやつらのやり口だ!」

 市長は怒声を張り上げた。しかし。

「それ以上はおよしなさい」
 
 そこにさらなる俺たちへの増援が。

「4英雄……イリナ様」

「恩人に剣を向けるなど恥ずべきことですよ」 

 さすがに彼女にまで言われては市長にはもうどうしようもなかった。取り囲む兵士たちも動揺し、命じられぬままに槍を降ろしていった。その瞬間、市長は己の敗北を悟ったようだった。

「くそ。お前らに何が分かる。上に立つことがどれだけの労力を要するか。私は正しいことをしてきたんだ。みんなのために正しいことを。他の誰にもできないことを」

 だん! と壁に拳を叩きつけた。その形相はまともではなかった。

「なんでいつも邪魔が入るんだ。あの女もそうだ。私は正しいことをしているのに」

 彼がここにいる理由は部下との口論の最中、事故で殺してしまったことにあるそうだ。それは不慮な事故として傷害致死で片づけられていた。

「知らねえよ。あんたの御大層な理屈なんて。俺は悪党なんでな」

 彼にも彼なりの正義があったのかもしれない。
 その思いは本物なのかもしれない。だが。

「今回は正義のあんたが負けたんだよ。それでいいだろ」

 市長はもはや言葉なくその場に崩れ落ちていった。



 満身創痍の身であったイリナ姫は揺らめいた。
 それを俺はとっさに支えた。

「今回は礼を言っておきます」

 イリナ姫は俺の手を跳ね除けようとはしなかった。

「この都市が無事だったのは、あなたのおかげです」

 それだけ言って気を失ってしまった。よほど疲れていたのだろう。疲労が表れてはいたが、それは昔に見た懐かしき安らいだ寝顔だった。

 全てがひと段落するとルシャが騒ぎ始めた。

「はわわ。マスターかっこいいです。ね。ラナさん」

「は、はい。か、かっこよかったです」

 ラナにまでそう言われて、ルシャにでこぴんしようとしていた手を止める。ため息とともに笑みがこぼれた。

 分かり合うにはきっとまだまだ障害が大きいだろう。穏健派の亜人とて王の命令に従っているだけな者も多数いる。亜人への嫌悪感が再燃するとも限らない。

 互いにその軋轢は小さくない。きっと長い時間が必要だろう。だがハーフでもあるこの子たちが繋いでくれるのではないかと思った。

 もしかしたらイリナ姫ともう一度、分かり合うこともできるのではないか。アステールにも笑顔をもたらしてくれるのではないかと。

「不肖ながら弟子一号、マスターを讃えるために歌います」

「やめい」

 ……そこまで期待しない方が良さそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 部下から事の顛末を聞いていたレギルは酷い頭痛が走って目元を押さえる。

「下がれ、もう十分だ」

「しかし」

 まだ報告は途中だった男は躊躇いを見せる。

「いいから下がれ!」

 語気を荒げて告げる。そういった感情を滅多に出さないレギルの尋常ではない態度に驚き、部下は慌てて下がっていった。

「あの馬鹿な小娘が」

 レギルは机の上のものを乱暴に払いのける。書類やペンがぶちまけられた。片付けるのは自分だと知っている、だが衝動的に、それを続けた。いつまでも冷めやらぬ怒りによって。

「ふざけるなよ。俺の責任になるんだぞ」

 イリナ姫の救出の失敗、パラディソスの第一王女を敵の手に落とすなど、信じ難い大失態だった。それのつけを払わされるのはあのイリナ姫ではなくレギルのほうだった。

「どうする。どうすればいいんだ」

 室内をぐるぐると歩き回り、ぶつぶつ呟いた。

「俺はこのままじゃ」

 立場が危うくなる可能性は十分にあった。
 死と同じぐらいに恐ろしいのは地位を失うこと。

 英雄として人々を従える、そしてさらなる権力を手に入れる野望がついえること。一番になるべく突き進んできたレギルが無能だと烙印をおされるようなことはあってはならないのだった。本来ならばすぐに本国に報告する義務がある。

 しかしいつまでも受話器に手を伸ばす気にはなれなかった。

「なんでだ。どうしてこんなことに」
 
 髪をかきむしり、うめき声をあげる。
 レギルの呪詛のような呟きは、その日の夜が更けてもずっと続いた。
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