パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

文字の大きさ
49 / 114

46話 交渉

しおりを挟む
 俺の目の前には残虐王の顔があった。壁にかかった大鏡を見つめている顔はかつての怨敵のものだった。残虐王はいつも不敵な笑みを浮かべていたものだが、今は疲れ果てているような顔をしていた。それはあてがわれた部屋が問題となっているのだ。

 俺がいる場所は市長室であった。まさか俺がこんな役目を任されることになるとは思ってもみなかった。与えられた役柄は市長代行ということになる。ルディスあたりが手を上げるかと思えば辞退して、その他に成り手がいなくて半ば押し付けられたようなものだ。だが町の運営などノウハウの欠片もない。

 基本的には実務はルディスや元市長の秘書メッリサなど元々この都市の運営に携わってきたものに大きく頼るしかなかった。主に俺はこの都市の代表として顔の役割を果せばいいということになっている。

 しかし監獄都市に収める税金をなくすだけでこの都市は飛躍的に潤うはずだった。だがそれは完全に監獄都市とたもとを分かつということを意味しているため、住民たちとの慎重な話し合いが必要になるだろう。元より俺がいる時点で敵対しているようなものではあったが。

 そんな思案に沈み続ける俺の目の前でイリナ・パラディソスは机に掌を叩きつけた。

「聞いているんですか!」

 まったく、お姫様が品のないことだ。

「ちゃんと聞いている」

 何度目かの問答にうんざりして投げやりに答える。

「ならばどういうことか説明してください」

「何がだ?」

「何がも何も。何のつもりなんです。自由にしていいとは」

「言葉通りの意味だ」

 俺は疲労困憊していた彼女を拘束することはせず、治療をほどこしたあとも軟禁や監禁の類はしてはいなかった。捕虜としてではなく、普通の住民として扱っていた。

「無辜の民を襲うことさえしなければ好きにすればいいさ」

「そんなこと」

 するわけがないというイリナの言葉だったが、俺は過去の出来事を持ちだす。

「いつぞやは襲ってきたのではなかったかな。それも奴隷にするために」

「あれは……確かに野蛮なことをしました。しかし」

「亜人は敵だって言いたいんだろう? そうやって教わって、それ以外を知らなかった」

 イリナはぐっと言葉につまった。

「人が人に首輪をはめて鞭で打つなんて愚かだとは思わないのか?」

「そ、それは」

 本来奴隷制などとうに廃止されて久しいというのに、なぜこの世界にて対象が亜人にならば許される。イリナ姫ならばおかしいと、そう思っていても不思議ではなかった。

「自由都市では人と亜人が急に共に暮らすことになる。もめ事は多いだろう。貴方にも協力して欲しい」

「私にですか」

「そうだ。あなたは英雄だ」

 何を当たり前のことを、とイリナは訝しげな顔をした。

「あなたが英雄なのは絶望的な状況でありながらこの都市を救うために単身で戦ったからだ、そして俺たちと共に救った。住民たちの手前、手荒にするつもりもない」

 そういう魂胆なのかとイリナ姫にも納得がいったようだった。

「私が逃げるとは思わないんですか」

「逃げるならいつでもできるだろう。その前に見ていけばいい」

「いったい何を」

 悠然とそれに答える。

「この世界を。己の目でみなくては分からないこともある」

 イリナ姫は黙り込んでしまった。彼女の性格的に手荒にするよりも、こういう扱いをすると律儀なところが災いして逆に逃げられなくなるのだ。もちろん逃がすつもりはなく、監視をつけておくのだが。

 その時、扉がノックされてルディスが入室してきた。
 彼は一枚の書状をひらひらと振ってみせた。

「監獄都市からだ」

「内容は?」

 聞く前から分かり切ってはいた。予想通りだとルディスは頷く。

「長いから要約するとイリナ姫を開放せよという書状だ」

「どうするつもりなんですか」

 と、まさしく話題の本人がそう問いかけた。

「そんなの決まってる」

 受け取った書状を軽く振って答えた。

 ◇◇◇◇◇◇

「亜人の全開放が要求?」

 残虐王から監獄都市に届けられた返答にはそう書かれていた。

 レギルはため息をついて顔を覆う。それはレギルが想定していた要求の範疇ではあった。

 しかしそれは容易く可能だという意味では決してない。実行するには本国に連絡を取って許可を仰がなければならないが、それをすれば失態が明るみに出る。

 今のところはイリナ姫の所在については箝口令をしいて情報を握りつぶしている。本国への連絡はまだしていなかった。なんとか交渉で彼女を取り戻せば、しらを切り通してしまえばいいのだ。なんせこんな隔離された世界のことだ、国のご老人がたも知るよしもない。

 上手くイリナ姫を救い出せれば、彼女はこれでレギルに負い目ができる可能性もあった。上手く丸め込めばきっと本国に報告するような真似はしないだろう。

「そんなふざけた要求はのめませんよ」

 部下の一人が強張った口調で口にした。だが。

「イリナ姫の命は全てに優先される」

 本当に余計なことをしてくれたと腹立たしい思いだった。彼女がいなければレギルの野望もとん挫してしまう。そして今まさにこの時は何に代えても彼女を取り返す必要があった。

「イリナ姫の解放までに亜人を一人ずつ殺していくと脅してみれば?」

 部下の一人が提案し、

「相手が誰だか分かってるのか?」

 レギルは彼を道理の分からない子供に叱責するように言う。

「人質なんて通用するわけがないだろう」

 相手は残虐王、まさに人の命などゴミクズとしか考えていない悪鬼だ。それに人質などどうして通用するという。ちょっとした気まぐれや戯れにイリナ姫を殺されかねない。多少傷物にされていたとしても、それは何とでもなる。命さえ無事であれば。

 何か方法はないのか、レギルは歯噛みする。

 本国に連絡すれば亜人の解放を命じられるだろう。イリナ姫はそれだけ特別だ。兄がいるはずなのに王位継承権第一位、昔からパラディソスはそうだ。王位はその者の素質や性別、年齢など度外視して王が決める。

 どういった基準があるのかは誰も分からない。しかし確かなのはイリナ姫はパラディソスにとってそれほど重要な存在だということだ。だからこそのレギルの失態だ。尋常ではない大失態だ。

 だがそんな思考を吹っ飛ばす一言がレギルに告げられた。

「署長。それと交渉にはレギル・シルセス様を寄越すようにと残虐王が」

 もし人間が魂を見ることができたら、レギルの口から飛び出ていったのが見えたかもしれない。それほどの衝撃だった。何を言われたのか脳が理解を拒否しているようだった。

「……私が?」

「はい。何か問題でも?」

 不思議そうな顔で部下は問い返した。

 ──お前の頭はカボチャか、何がつまってる。問題どころの騒ぎではないだろうが。喉まで出かかった罵倒の言葉を飲み込む。英雄はそんな振る舞いをしてはならないからだ。

 会うだと、あの男と直接。レギルは以前届けられたメッセージを思い出す。「必ず殺す」という怨念染みた伝言を。やつは復讐に燃えた狂った獣だ。そんな男と馬鹿正直に同じテーブルにつくというのは、その日のディナーにしてくれと言うようなものではないか。いったい何をしてくるか分かったものではない。

「なに。私がわざわざ行く必要もあるのかと思ってな」

 平然な顔を取り繕って、極めて自然に見えるよう静かに言った。

「しかし、残虐王の指定ですので」

「……そうだな」

 交渉相手は敵方のトップを選ぶのはもっともな話だ。部下はいったいどうしたのかと訝しげに佇んでいる。そんな彼にレギルは全精力を振り絞って告げるのだ。ぎりぎりと渾身の力で己の足に指を食い込ませながら。

「何も、問題はない。そうしよう」

 あらゆる意味で頷くしか道はなかった。
 それはレギルにとって地獄の日々の到来を告げていた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...