君とは付き合いたくない!

風崎なをき/次作は四月くらい

文字の大きさ
3 / 50

第3話 年下の男の子(3)*

しおりを挟む
鳥羽光輝には夢があった。好きな人とただ普通に暮らすこと。でもこの普通がこの世界ではとんでもなく難しいことも知っていた。



「どっちがいい?」

 優しい声音でカナタに囁かれて、コウこと鳥羽光輝はくらくらと目眩がするような気分になった。のぼせてしまいそうだった。
  のこのこついてきたホテルで、促されるままにふかふかのベッドに腰を下ろすと、カナタはいきなりキスをしてきた。
 驚いたが抵抗はしなかった。そんなことできないくらいに、カナタの唇は柔らかくふわふわとして気持ちが良かった。光輝の頬に添えられたカナタの掌は大きくて温かった。
 そのまま後頭部を抱くようにカナタはやんわりと光輝を押し倒して、

「どっちがいい?」

 と問うたのだ。


『ちょっと試してみる?』
『えっ、何を…』
『体の相性だよ』
『ヤるって事ですか!?』
『もちろん無理にとは言わないけど。でも体の相性って大事でしょ』
 
 先ほどのカフェでの会話を光輝は思い出す。こんな事を言われてホテルまで着いてきてしまった。
 流されやすい自分に嫌気がさしていたのに、ヤリモクなんてと小馬鹿にしていたのに、そんな事もうどこかへ吹っ飛んでしまった。

(俺、男の人に押し倒されてる…)

 夢に見ていたシチュエーションの一つが叶っている。男に押し倒されてみたかった。ベッドに押し付けられて求められてみたかった。それが今叶っている。しかもこんな素敵な人に。
 光輝は夢心地になる。優しくて温かくて穏やかなカナタのオーラに当てられて、色々どうでもよくなってしまった。このままカナタの温和な空気に包まれてしまいたい。
 警戒心は強いくせに人一倍夢見がちで絆されやすい光輝にとって、浅見奏汰は麻薬のように作用した。

「抱く方と抱かれる方、どっちがいい?」
 カナタは質問の仕方を変えて再び問う。
「えっ……どっちでも…」
 と答えるのが精一杯だった。光輝には性行為の経験がほとんどない。ほとんどないゆえに、アプリではポジションをリバで登録してしまった。
 光輝は先ほどまでのフワフワした気持ちから一転して急に不安になる。経験が全然ないのにそんなふうに書いてしまったが、がっかりされたらどうしようと。どっちにしろ上手くできる気がしない。
 光輝の困った様子を見てカナタは大丈夫だよ、というように髪を撫でた。
「俺もどっちでもできるよ。でも君はめちゃくちゃ甘やかされたいって顔してる」
「えっ」
「俺が抱いてもいい?」
 こくっこくっと光輝は頷いた。
「じゃあ一緒にシャワー行こっか」
 と言うとカナタは光輝の背中を抱くようにしてバスルームに向かった。
 経験がないのを見透かされた気がして、光輝は恥ずかしさで顔を赤くする。けれどカナタは光輝を馬鹿にしたり、上からものを言うようなことは決してなかった。「ここの風呂場綺麗だよ」とか「クーラー寒くない?」とかそういう事ばかり言ってきた。
 脱衣所でさえもまごまごしている光輝の服を脱がせてあげると、カナタは恥ずかしげもなくさっさと自分の服を脱いだ。
 カナタの体は意外にも筋肉質だった。緩やかな服装だったから分からなかったが、胸筋も腹筋も腕の筋肉も見て分かるほどには引き締まっていた。こういう場合、大多数が体のラインを強調するような服を着るのに、カナタは主張する事には興味がないようだ。そういうところも好感が持てる。
「すごい、鍛えてるんですか」
 ぺたっと腹筋のあたりを触ってもカナタは嫌がらなかった。自分以外の男の体にちゃんと触れるのは初めてで光輝はドキドキとした。
「んー特には。たまにテニスやるくらいかなあ。中学も高校もテニスやってたから」
 カナタは眼鏡を外すとずっと幼く見えて幼気な印象が増す。
(カナタさんかわいい……)
 とぼうっと見惚れていると、
「わっ」
 カナタに触れていた手を掴まれて、光輝は抱き寄せられ体を密着させられる。二人に一人分の熱いシャワーがザーザー降ってくる。
 カナタの背は光輝よりもやや高い。自分よりも背の高い男に抱きしめられ、安心感と高揚感に包まれた。
 カナタの首筋からはすっきりとした香水のような良い匂いが立ち上っていた。
「もっとくっつかないと洗えないよ」
「あっ」
 カナタは手でボディソープを泡立てると光輝を抱きしめながら背中を撫でるように洗う。
「んっ」
(やばい、変な声が出た!!)
 光輝は口を慌てて塞ぐ。しかしカナタは何も気にしていないようだった。
「俺、体は手で洗う派なんだ」
 などと呑気に言って手を動かしている。ボディソープの泡が光輝の肌をデコレーションするようにまとわりついては、シャワーがするする流していく。ホテルにありがちな強めなソープの香りと、カナタの匂いになんだか酔ってしまいそうだ。
 光輝はカナタに身を預けてされるがままになっていた。カナタの掌が肌をすべるのが気持ちが良くて溶けてしまいそうだった。
「あはは、もう勃ってる。結構大きいね」
 カナタはさも当然のように光輝の充血し出した性器に手を伸ばしてきた。
「!!」
 光輝は驚いてカナタから身を離すと、瞬時にくるりと背を向けた。しかしカナタは背後から光輝を抱きすくめて、なおも股間に手を伸ばしてきた。
「ここも洗ってあげるよ」
 耳元で囁かれ、内腿や鼠蹊部をボディソープのついた手でするすると触れられて、光輝のそこはあっという間に張り詰めてしまった。
 こんなところを他人に触れられるのも初めてだった。
「ちょっ、と、待って、無理、無理です」
「え、まさか、もう出ちゃう?」
「や、やめて」
 光輝は慌ててカナタの手首を掴んで動きを止めた。
「待って、あとちょっとでも触られたらダメかも……」
 光輝は情けなさを感じながら消え入りそうな声で申告した。
「わかった。じゃあもう何もしないよ。先に上がってるね。後ろの洗い方知ってる?」
「い、一応」
「じゃあ、あとでね」
 カナタは光輝の頬骨の辺りに優しくキスを残して浴室を出て行った。

 こんな調子で最後までちゃんとできるのだろうか?
 光輝の頭は期待、興奮、不安、羞恥心で爆発してしまいそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...