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第2話 年下の男の子(2)
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日曜の夕方の繁華街は若者で溢れかえっていた。人の熱気で蒸し暑さが増している。まだ陽も落ちていないというのに既に酔っぱらっているような若者もたくさんいた。
雑踏を抜け、落ち着いた路地裏に入る。奏汰が行きつけのカフェに案内している間、コウは鴨の子のようにひたすら奏汰の後にくっついてきた。その様子に奏汰はひっそり苦笑する。
「ここ、俺がよく使うカフェなんだけど。そういう人いっぱいいるから周り気にしないで話せるよ」
店のドアを開けてコウをエスコートする。
「あ、ありがとうございます」
驚いたような顔をするコウと目が合う。しかし、慌てて目を逸らされた。僅かに耳が赤い気がする。
(??もしかして照れてる?)
奏汰は生クリームがたっぷりホイップされたアイスココアを頼み、コウは蒸し暑いというのにブラックのホットコーヒーを頼んでいた。暑くないの?と奏汰が聞くと確かにそうですね、と顔を赤くしていた。奏汰はコウの反応が面白くなって、からかい半分に尋ねる。
「俺はどう?想像と違った?」
コウはブンブンと首を振った。
「違います。キョドってすみません。かっこいい人が来たからびっくりしちゃって…」
「えー、嬉しいなあ」
コウは上手くお世辞を言えるようなタイプには見えなかった。年下らしくて素直で可愛いじゃないか。と思う。そして確信する。
(この子、むしろ俺のことイイって思ってそうだな…)
「もしかしてこうやってアプリで誰かと会うの初めて?」
「えっ、えっと…はい……」
コウは間を置いてから言いづらそうに呟く。
「なんか…ただヤりたいだけの人が多すぎて…なかなか会ってみたいってならなくて…」
「あー、あるあるだね。特にこのアプリはそういう人多いよ。俺もヤリモクは嫌いだなあ」
「で、ですよね!」
同意してくれたのことが嬉しかったのか急に声が大きくなる。ついでに動いたせいでテーブルが揺れてコップの水が跳ねた。
「すみません……」
コウがテーブルを拭きながら申し訳なさそうに縮こまった。
「ふふ、コウ君って可愛いね」
「……」
今度はあからさまに嬉しそうに照れて下を向いた。分かりやすいなあ。と奏汰は微笑ましくなる。反面、この子大丈夫かな?と心配になる。初心ですぐ騙されそうな雰囲気がある。
「俺、ちゃんと誰かと付き合ってみたくて…ちゃんとした彼氏が欲しくて…」
「今まで彼氏は?」
「……いたような、いなかったような…」
と言葉を濁す。
「どういうこと?」
「…………高校の時に色々あって、結局振られて…」
「そっか。辛い思いしてきたんだね」
優しく言うとコウの目が泣きそうに揺れる。涙をこぼすことはなかったが、目元と鼻がほのかに赤くなった。なるほど、と奏汰はコウを観察しながら思う。絶賛傷心中、というわけらしい。失恋して新しい恋を探している、というところだろう。
奏汰も似たようなものなので気持ちは分からないではない。
「きっとこれから良い人に会えるよ」
奏汰がそう言ったのは本心だった。この子は見た目もなかなか良いし、若干影はあるものの素直で可愛い。自分のタイプとは言い難いが、何より若いしモテない事もないだろう。と奏汰は思う。
「そう、ですかね…」
しかし、コウは明らかに何かを期待をするような目を奏汰に向けてきた。口説いたつもりはないのだが、コウの目は翳りが消えてキラキラしている。ように見える。
奏汰はこの眼差しに弱かった。自分に希望とか期待とかそういう感情を向けられると、応えないと、と思ってしまう。応えたくなくても。
なんとなく嫌な予感がして、奏汰は汗をかいたココアを口に含む。甘くて冷たくて美味しい。ここのココアは濃厚で好きだった。子供の頃にあまりチョコとかケーキとかカラダニワルイおやつを食べさせてもらえなかった反動で、奏汰は甘いものが好きだ。
「あの、カナタさんは…?」
コウの目が縋るような焦がれるような瞳になる。目は口ほどにものを言うというが、全くその通りだ。奏汰は昔から人の顔色を窺う癖があって、なんとなく相手が何を考えているか感じ取ってしまう。
甘やかされたい。
優しくされたい。
好かれたい。
愛されたい。
救われたい。
癒されたい。
奏汰はあーあ。と思う。自分の中の悪いスイッチが入ってしまったのを感じる。こうなるともう自分でも止められない。相手が望むように振る舞ってしまう。あとで自己嫌悪に陥るのが分かっていても。あとで相手を傷つけると分かっていても。
「コウ君、俺のこと気になってる?」
奏汰はクスッと笑って問いかける。
「え……っと、うん……」
コウの睫毛が恥ずかしそうに伏せていくのを奏汰はフィルムを見ているような気持ちで眺めた。
何を言われたいか何をして欲しいか、が手に取るように分かる。
奏汰は相手の望むように振る舞うことが一種の快楽のようになっていた。そうすることで心の安定を保ってきた。だって、嫌われるより嫌われない方がいい。ギスギスしているより平穏でいる方がいいじゃないか。自分がちょっと頑張ってみんなが笑っている方がいいじゃないか。
正解が分かっているのに正解を選ばないなんて無理だ。
そうやって、いろんな人と付き合っていろんな理想を演じては破綻してきた。自分を曝け出すことができるのが唯一『カイ君』だった。昼まで一緒にいたのに、もう会いたくなってしまった。
自分に好意を向ける人に良い顔をしながら、別の男のことを考えている。
自分は嫌な奴だ。
悪い奴だ。
良い子じゃない。
優しくもない。
俺は全然そんなんじゃない。
俺は本当は悪い子だ、悪い子なんです。
「ちょっと試してみる?」
奏汰は動揺しているコウに追い打ちをかけるように、尋ねた。
雑踏を抜け、落ち着いた路地裏に入る。奏汰が行きつけのカフェに案内している間、コウは鴨の子のようにひたすら奏汰の後にくっついてきた。その様子に奏汰はひっそり苦笑する。
「ここ、俺がよく使うカフェなんだけど。そういう人いっぱいいるから周り気にしないで話せるよ」
店のドアを開けてコウをエスコートする。
「あ、ありがとうございます」
驚いたような顔をするコウと目が合う。しかし、慌てて目を逸らされた。僅かに耳が赤い気がする。
(??もしかして照れてる?)
奏汰は生クリームがたっぷりホイップされたアイスココアを頼み、コウは蒸し暑いというのにブラックのホットコーヒーを頼んでいた。暑くないの?と奏汰が聞くと確かにそうですね、と顔を赤くしていた。奏汰はコウの反応が面白くなって、からかい半分に尋ねる。
「俺はどう?想像と違った?」
コウはブンブンと首を振った。
「違います。キョドってすみません。かっこいい人が来たからびっくりしちゃって…」
「えー、嬉しいなあ」
コウは上手くお世辞を言えるようなタイプには見えなかった。年下らしくて素直で可愛いじゃないか。と思う。そして確信する。
(この子、むしろ俺のことイイって思ってそうだな…)
「もしかしてこうやってアプリで誰かと会うの初めて?」
「えっ、えっと…はい……」
コウは間を置いてから言いづらそうに呟く。
「なんか…ただヤりたいだけの人が多すぎて…なかなか会ってみたいってならなくて…」
「あー、あるあるだね。特にこのアプリはそういう人多いよ。俺もヤリモクは嫌いだなあ」
「で、ですよね!」
同意してくれたのことが嬉しかったのか急に声が大きくなる。ついでに動いたせいでテーブルが揺れてコップの水が跳ねた。
「すみません……」
コウがテーブルを拭きながら申し訳なさそうに縮こまった。
「ふふ、コウ君って可愛いね」
「……」
今度はあからさまに嬉しそうに照れて下を向いた。分かりやすいなあ。と奏汰は微笑ましくなる。反面、この子大丈夫かな?と心配になる。初心ですぐ騙されそうな雰囲気がある。
「俺、ちゃんと誰かと付き合ってみたくて…ちゃんとした彼氏が欲しくて…」
「今まで彼氏は?」
「……いたような、いなかったような…」
と言葉を濁す。
「どういうこと?」
「…………高校の時に色々あって、結局振られて…」
「そっか。辛い思いしてきたんだね」
優しく言うとコウの目が泣きそうに揺れる。涙をこぼすことはなかったが、目元と鼻がほのかに赤くなった。なるほど、と奏汰はコウを観察しながら思う。絶賛傷心中、というわけらしい。失恋して新しい恋を探している、というところだろう。
奏汰も似たようなものなので気持ちは分からないではない。
「きっとこれから良い人に会えるよ」
奏汰がそう言ったのは本心だった。この子は見た目もなかなか良いし、若干影はあるものの素直で可愛い。自分のタイプとは言い難いが、何より若いしモテない事もないだろう。と奏汰は思う。
「そう、ですかね…」
しかし、コウは明らかに何かを期待をするような目を奏汰に向けてきた。口説いたつもりはないのだが、コウの目は翳りが消えてキラキラしている。ように見える。
奏汰はこの眼差しに弱かった。自分に希望とか期待とかそういう感情を向けられると、応えないと、と思ってしまう。応えたくなくても。
なんとなく嫌な予感がして、奏汰は汗をかいたココアを口に含む。甘くて冷たくて美味しい。ここのココアは濃厚で好きだった。子供の頃にあまりチョコとかケーキとかカラダニワルイおやつを食べさせてもらえなかった反動で、奏汰は甘いものが好きだ。
「あの、カナタさんは…?」
コウの目が縋るような焦がれるような瞳になる。目は口ほどにものを言うというが、全くその通りだ。奏汰は昔から人の顔色を窺う癖があって、なんとなく相手が何を考えているか感じ取ってしまう。
甘やかされたい。
優しくされたい。
好かれたい。
愛されたい。
救われたい。
癒されたい。
奏汰はあーあ。と思う。自分の中の悪いスイッチが入ってしまったのを感じる。こうなるともう自分でも止められない。相手が望むように振る舞ってしまう。あとで自己嫌悪に陥るのが分かっていても。あとで相手を傷つけると分かっていても。
「コウ君、俺のこと気になってる?」
奏汰はクスッと笑って問いかける。
「え……っと、うん……」
コウの睫毛が恥ずかしそうに伏せていくのを奏汰はフィルムを見ているような気持ちで眺めた。
何を言われたいか何をして欲しいか、が手に取るように分かる。
奏汰は相手の望むように振る舞うことが一種の快楽のようになっていた。そうすることで心の安定を保ってきた。だって、嫌われるより嫌われない方がいい。ギスギスしているより平穏でいる方がいいじゃないか。自分がちょっと頑張ってみんなが笑っている方がいいじゃないか。
正解が分かっているのに正解を選ばないなんて無理だ。
そうやって、いろんな人と付き合っていろんな理想を演じては破綻してきた。自分を曝け出すことができるのが唯一『カイ君』だった。昼まで一緒にいたのに、もう会いたくなってしまった。
自分に好意を向ける人に良い顔をしながら、別の男のことを考えている。
自分は嫌な奴だ。
悪い奴だ。
良い子じゃない。
優しくもない。
俺は全然そんなんじゃない。
俺は本当は悪い子だ、悪い子なんです。
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