8 / 50
第8話 事情と純情(3)
しおりを挟む
『今日は友達を見学に連れてきました』という体で佐伯から紹介をしてもらったが、光輝も奏汰もそれどころではなかった。
奏汰は部会の間ずっと『余計なこと言うなよ』と目線で圧を与え続け、光輝もボロが出ないよう却って不自然なほど奏汰と目を合わせないように黙り続け余計に奏汰の気を揉ませた。
部会が終わると佐伯からは何かあったの?と聞かれたが、特に何も答えずに佐伯をまいた。その後、光輝は教えてもらった住所を検索して奏汰の家を単独で尋ねた。
「さっきぶり」
奏汰はひと足先に帰宅していて、インターホンを押すと出てきてくれた。
「すみません、突然。俺、何も持ってきてなくて」
「いいよ、そんなの。俺も特におもてなしとかしないし」
確かに突然声をかけてしまったのは悪かったが、奏汰がずっと冷たくて悲しい。そんなに邪険にしなくても、と拗ねた気持ちになる。
奏汰の家は普通のアパートの一階だった。ワンルームのそんなに大きくはない部屋だったが、シンプルでよく片付いていた。部屋のほとんどはでかいセミダブルのベッドに占領されていた。ここでいつも寝ているのか、と思うとドキドキしてしまう。インテリアは白とグレーを基調としていて、ベッドの他にはローテーブル、作業机と椅子、テレビ台とテレビが上手く配置してあった。机の上にはノートパソコン、5本の香水、小さなサボテンが置いてあった。
「じゃあ話聞くわ」
奏汰はベッドとローテーブルの間に置いてある座布団に座った。奏汰から座布団を投げられ、光輝も少し離れたところに正座して座った。
さっきは奏汰を怒らせてしまったが、今度はちゃんと話を聞いてもらおう。自分の思いを伝えたい。光輝は手をぎゅっと握りしめた。
「え、えっと…俺、あの日から浅見さんのことがずっと忘れられなくて…」
「ふーーー」
浅見は光輝の話に被せるように電子タバコを吸って息を吐きだすと、
「君さあ、ちょろいって言われない?」
と言った。
「えっ!」
「ふふ、図星?」
奏汰はおかしそうに笑った。
「……」
「ちょっと優しくしてあげただけでマチアプの男にハマるとか、油断しすぎじゃないかなあ。悪い奴だったら弄ばれてたよ」
半分、呆れたように言われ光輝は恥ずかしくなる。
「そんなこと、」
「じゃあ俺のどこが好きなの?」
「…………優しいところ…」
そういうと、奏汰はやや自嘲気味に笑う。
「ほら、やっぱそうじゃん。君は優しくされたら誰でもホイホイ好きになるんだよ。心に隙ありすぎだよ。そんなんじゃ痛い恋愛しかできないよ」
「…………」
光輝は奏汰が言っていることを否定できなかった。ちょっと優しくされただけで、自分は奏汰に惚れこんでしまったのだ。
「…………俺、親切ではあるけど優しくはないよ」
奏汰は少しだけ沈黙した後に吐き捨てるように言った。
「……」
「悪いけど、見込み違いだよ」
自虐するように言う奏汰に光輝は問う。
「じゃあなんで優しくしてくれたんですか?」
「逆に聞くけど、他人にわざわざ冷たくする理由ある?」
つまり、奏汰は誰にでもあれくらい優しい態度をとるのだ。
「俺は、知らない人にそんなに優しくできないです…」
「そう?君、弱ってたみたいだし可哀想だったから余計にね」
「同情!?」
「同情、かなあ」
奏汰は他人事のように光輝の言葉を繰り返す。
「それだけで……セックスできちゃうんですか…体だけの付き合いは嫌だって言ってたのに…」
「いやだよ。でも、容姿は好みなんだよなあ。もうちょっと筋肉ある方が好きだけど。だからワンチャンあるかなって思って試してみたかったのはほんと。結局ヤレば分かるじゃん。どういう人間かって。まぁ結果、君は俺のタイプじゃなかったんだけど。君は人間不信そうだったし、初体験に良い思い出もなさそうだったし、先輩として良い思い出作ってあげようと思ったの。マチアプも嫌な思い出になっちゃったら、嫌でしょ?」
「な、何それ」
奏汰の言っていることは分からないではなかったし、もっともらしい言い分ではあったが、そんなことで体の関係を結ぶのはある意味異常だと感じた。まだ誰でもいいからヤリたかった、と言われた方が納得ができる。
そもそも自分は同情だったり可哀想だったりするだけで抱いてもらうほど飢えてはいなかった。
奏汰にちゃんと好意を持っていたから試したいと思ったし、奏汰だってそうだと思った。もちろん、自分にそこまで自信がるわけじゃなかった。奏汰が自分を好きになってくれたなんて思ったわけではない。
けれど、奏汰は本当に優しかったのだ。自分のこと、少しは良いって思ってくれたのかな?と思ってしまうくらいには。なんだか違うなと思った時点で止めてくれたら良かったのに、と思った。
「ヤリたかったわけですらなかった、ってことですか?」
「あー、うん。あ、でもちゃんと楽しかったよ。俺だってボランティアで寝るとかしないし」
「どの時点で俺はないなって思いました?」
「うーん、最初にどっちしたい?って聞いた時かなあ。俺、どっちもできるけど、どっちかっていうとウケなんだよね」
「………」
そんな最初の時点で自分はナイと思われていたのだ。ではそこから先は全て、
「人助け感覚で俺とヤッたんですか?」
「うん」
奏汰は当然のように答えた。実際、奏汰にとっては当然のようなことだった。足が悪い人がいたら席を譲る。迷子がいたら交番に届けてあげる。病欠した奴にはノートを。泣いてる友人には理由を聞く。寄り添ってあげる。助けてあげる。自分ができる範囲で。
今回だってそれだけだ。自分の性欲を満たしたかったわけではない。ただ、目の前に傷ついた男の子がいて、抱いて癒してあげたかった。それだけだ。
『だって、そっちの方がいいじゃないか』という行動理念で奏汰は動く。それが不健全な人間関係を構築してしまうことがあっても、奏汰は止めれられないのだ。
「信じられない」
光輝が唖然としたようにつぶやくと、奏汰は心外だとばかりにむっとした表情をした。
「結果君だって泣くほど喜んでたしよくない?何がダメなの?相思相愛の人とセックスするなんてなかなか」
光輝は奏汰の言葉を遮った。
「俺、そんなこと頼んでない!!」
怒鳴り返されると思ってなかったのか、びくっと奏汰の体が揺れた。
「人の…人の気持ちをなんだと思ってんだよ」
奏汰の言い分はよく分かった。けれど奏汰の言っていることもやっていることもただの独善だ。それを奏汰は分かっていない。けれど光輝はそれを上手く言葉にできない。できないからモヤモヤした気持ちばかり生まれてくる。
「分かったようなことばっか言いやがって」
光輝はリュックを掴むとすくっと立ち上がった。そして力いっぱい
「そんなに人助けしたいならウリ専でもしてろ!!ばーーか!!」
と言って走って家から出て行ってしまった。
「口、わっる…」
取り残された奏汰は呆然として呟いた。
奏汰は部会の間ずっと『余計なこと言うなよ』と目線で圧を与え続け、光輝もボロが出ないよう却って不自然なほど奏汰と目を合わせないように黙り続け余計に奏汰の気を揉ませた。
部会が終わると佐伯からは何かあったの?と聞かれたが、特に何も答えずに佐伯をまいた。その後、光輝は教えてもらった住所を検索して奏汰の家を単独で尋ねた。
「さっきぶり」
奏汰はひと足先に帰宅していて、インターホンを押すと出てきてくれた。
「すみません、突然。俺、何も持ってきてなくて」
「いいよ、そんなの。俺も特におもてなしとかしないし」
確かに突然声をかけてしまったのは悪かったが、奏汰がずっと冷たくて悲しい。そんなに邪険にしなくても、と拗ねた気持ちになる。
奏汰の家は普通のアパートの一階だった。ワンルームのそんなに大きくはない部屋だったが、シンプルでよく片付いていた。部屋のほとんどはでかいセミダブルのベッドに占領されていた。ここでいつも寝ているのか、と思うとドキドキしてしまう。インテリアは白とグレーを基調としていて、ベッドの他にはローテーブル、作業机と椅子、テレビ台とテレビが上手く配置してあった。机の上にはノートパソコン、5本の香水、小さなサボテンが置いてあった。
「じゃあ話聞くわ」
奏汰はベッドとローテーブルの間に置いてある座布団に座った。奏汰から座布団を投げられ、光輝も少し離れたところに正座して座った。
さっきは奏汰を怒らせてしまったが、今度はちゃんと話を聞いてもらおう。自分の思いを伝えたい。光輝は手をぎゅっと握りしめた。
「え、えっと…俺、あの日から浅見さんのことがずっと忘れられなくて…」
「ふーーー」
浅見は光輝の話に被せるように電子タバコを吸って息を吐きだすと、
「君さあ、ちょろいって言われない?」
と言った。
「えっ!」
「ふふ、図星?」
奏汰はおかしそうに笑った。
「……」
「ちょっと優しくしてあげただけでマチアプの男にハマるとか、油断しすぎじゃないかなあ。悪い奴だったら弄ばれてたよ」
半分、呆れたように言われ光輝は恥ずかしくなる。
「そんなこと、」
「じゃあ俺のどこが好きなの?」
「…………優しいところ…」
そういうと、奏汰はやや自嘲気味に笑う。
「ほら、やっぱそうじゃん。君は優しくされたら誰でもホイホイ好きになるんだよ。心に隙ありすぎだよ。そんなんじゃ痛い恋愛しかできないよ」
「…………」
光輝は奏汰が言っていることを否定できなかった。ちょっと優しくされただけで、自分は奏汰に惚れこんでしまったのだ。
「…………俺、親切ではあるけど優しくはないよ」
奏汰は少しだけ沈黙した後に吐き捨てるように言った。
「……」
「悪いけど、見込み違いだよ」
自虐するように言う奏汰に光輝は問う。
「じゃあなんで優しくしてくれたんですか?」
「逆に聞くけど、他人にわざわざ冷たくする理由ある?」
つまり、奏汰は誰にでもあれくらい優しい態度をとるのだ。
「俺は、知らない人にそんなに優しくできないです…」
「そう?君、弱ってたみたいだし可哀想だったから余計にね」
「同情!?」
「同情、かなあ」
奏汰は他人事のように光輝の言葉を繰り返す。
「それだけで……セックスできちゃうんですか…体だけの付き合いは嫌だって言ってたのに…」
「いやだよ。でも、容姿は好みなんだよなあ。もうちょっと筋肉ある方が好きだけど。だからワンチャンあるかなって思って試してみたかったのはほんと。結局ヤレば分かるじゃん。どういう人間かって。まぁ結果、君は俺のタイプじゃなかったんだけど。君は人間不信そうだったし、初体験に良い思い出もなさそうだったし、先輩として良い思い出作ってあげようと思ったの。マチアプも嫌な思い出になっちゃったら、嫌でしょ?」
「な、何それ」
奏汰の言っていることは分からないではなかったし、もっともらしい言い分ではあったが、そんなことで体の関係を結ぶのはある意味異常だと感じた。まだ誰でもいいからヤリたかった、と言われた方が納得ができる。
そもそも自分は同情だったり可哀想だったりするだけで抱いてもらうほど飢えてはいなかった。
奏汰にちゃんと好意を持っていたから試したいと思ったし、奏汰だってそうだと思った。もちろん、自分にそこまで自信がるわけじゃなかった。奏汰が自分を好きになってくれたなんて思ったわけではない。
けれど、奏汰は本当に優しかったのだ。自分のこと、少しは良いって思ってくれたのかな?と思ってしまうくらいには。なんだか違うなと思った時点で止めてくれたら良かったのに、と思った。
「ヤリたかったわけですらなかった、ってことですか?」
「あー、うん。あ、でもちゃんと楽しかったよ。俺だってボランティアで寝るとかしないし」
「どの時点で俺はないなって思いました?」
「うーん、最初にどっちしたい?って聞いた時かなあ。俺、どっちもできるけど、どっちかっていうとウケなんだよね」
「………」
そんな最初の時点で自分はナイと思われていたのだ。ではそこから先は全て、
「人助け感覚で俺とヤッたんですか?」
「うん」
奏汰は当然のように答えた。実際、奏汰にとっては当然のようなことだった。足が悪い人がいたら席を譲る。迷子がいたら交番に届けてあげる。病欠した奴にはノートを。泣いてる友人には理由を聞く。寄り添ってあげる。助けてあげる。自分ができる範囲で。
今回だってそれだけだ。自分の性欲を満たしたかったわけではない。ただ、目の前に傷ついた男の子がいて、抱いて癒してあげたかった。それだけだ。
『だって、そっちの方がいいじゃないか』という行動理念で奏汰は動く。それが不健全な人間関係を構築してしまうことがあっても、奏汰は止めれられないのだ。
「信じられない」
光輝が唖然としたようにつぶやくと、奏汰は心外だとばかりにむっとした表情をした。
「結果君だって泣くほど喜んでたしよくない?何がダメなの?相思相愛の人とセックスするなんてなかなか」
光輝は奏汰の言葉を遮った。
「俺、そんなこと頼んでない!!」
怒鳴り返されると思ってなかったのか、びくっと奏汰の体が揺れた。
「人の…人の気持ちをなんだと思ってんだよ」
奏汰の言い分はよく分かった。けれど奏汰の言っていることもやっていることもただの独善だ。それを奏汰は分かっていない。けれど光輝はそれを上手く言葉にできない。できないからモヤモヤした気持ちばかり生まれてくる。
「分かったようなことばっか言いやがって」
光輝はリュックを掴むとすくっと立ち上がった。そして力いっぱい
「そんなに人助けしたいならウリ専でもしてろ!!ばーーか!!」
と言って走って家から出て行ってしまった。
「口、わっる…」
取り残された奏汰は呆然として呟いた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる