君とは付き合いたくない!

風崎なをき/次作は四月くらい

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第23話 君とは付き合いたくない(3)*

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 奏汰は落ち込んでいた。なんであんなこと言っちゃったんだろう、もう死にたい…と。
 あの時のことを思い出すと恥ずかしさを通り越して青ざめる。カイとの性行為では、いつもあんなかんじだった。恥ずかしいことをいっぱい言って、そんな自分を貶めてもらって認めてもらってたくさん謝って許してもらった。それが気持ちよかった。カイの前では悪い子でいていいんだ、と思えた。

 奏汰のセックスは単に性的快感だけを求めているものではなく自身を解放して癒す行為だった。しかし光輝はそんなことを知るべくもない。
 
 光輝はあれから何事もなかったかのように接してきた。ありがたい気持ち半分、却ってそれが辛くもあった。いっそのこと全てぶちまけてしまいたい。けれどその勇気がない。あの程度で引いていたのだ。完全に引かれてしまったらしばらく立ち直れない気がする。奏汰は立ち行きできない気持ちを持て余していた。

 自分なりに少しづつ少しづつ光輝に心を開いているつもりだった。しかし、あの時の光輝のポカンとした表情、恥ずかしいものでも見ているようなあの瞳…奏汰はまたその時のことを思い出して頭を抱えて転がりたくなった。
 そんな気持ちをおくびにも出さず光輝と接していることにやや疲れを感じていた七月中旬。もうすぐ試験と夏休みだ。光輝は変わらず舞い上がりながら自分とのお付き合いを続けているが、試験後には付き合うことになってから一か月を迎える。試しに一か月、と言ったのを光輝は覚えているだろうか。
 自分はこの関係を続けていきたいのだろうか。続けていけるのだろうか。
 今年もまた暴力的に暑い夏になりそうだった。


 
「今日は生姜焼きですよ。あと茄子の揚げ浸し」
 奏汰がアルバイトから帰ると、いつものように光輝がご飯を作って待っていてくれた。
 光輝が家に入り浸るようになって台所の物が増えた。食器が増え、調理器具が増え、味醂と料理酒が常備されるようになった。それを奏汰が咎めたことはなかった。光輝がご機嫌で家事をやっている姿を見たり、家に帰るとご飯の匂いがしているのは悪い気がしなかった。
「お、うまそう」
 と奏汰がキッチンに体を向けて作業をしている光輝の背後から顔をすりつけるように覗くと光輝は嬉しそうに身をよじった。
「味見します?」
 と光輝は菜箸でよくタレが絡んだ肉を差しだしてきた。奏汰はそれをパクっと口に含むと、
「うん、美味い!」
 と笑った。その様子をぽーっとした様子で眺めて
「……すき」
 と光輝は呟いた。
「え?」
「……あ、いえ…心の声が…」
 光輝は恥ずかしそうに顔を背けて口許を抑えた。

ああ、楽しい。毎日楽しい!生きてて良かったー!!

 って顔してるな、こいつ。と奏汰は苦笑する。
 
 光輝は可愛い。素直だし、自分を立ててくれるし、色々やってくれる。けれど光輝はただただ恋人とやってみたかったこと、したかったことをしているだけだ。
 仲良くなればなるほど、光輝は理想の彼氏、恋人との理想の生活というフィルターで自分を見て過ごしていることが分かってきてしまった。都合の悪いところは触れないようにしている。
 多分相手は誰でもいいのだ。光輝にはこれといって好みのタイプがないように見える。好きになった人がタイプ。という辺りだろう。おそらく適度に優しくすればすぐ光輝は好きになる。
 
(きっと俺じゃなくても)

 はぁ、と奏汰はこっそりため息をついた。


 食後に二人で皿を洗っていると、
「あの、今日してもいいですか?」
 と光輝が尋ねてきた。光輝は会うたびに奏汰を求めてきた。これも拒否したことはない。基本的に奏汰が何かを断ることはないのだが、性行為も同様だった。
 しかし、奏汰はああ、来たなと身構える。光輝は奏汰をどうにか悦ばせたい一心で、引こうが萎えようがめげずにぶつかり稽古のようなセックスを繰り返していた。
 光輝は恥を忍んで奏汰が喜びそうな台詞を言ったり、行為をしたりしていた。その無理をしている様子がなんとなく伝わってしまう奏汰は、こんな性行為で楽しいのか?と毎回思わずにいられなかった。
「いいけど…そんな毎回しなくていいよ。ヤリたいの?」
 奏汰はなんとなく助け舟を出してみる。別に付き合っているからと言って毎回セックスしなきゃいけないわけでもなければ、したいわけでもない。確かに体の相性は大事だと言ったし、光輝がそのせいで必死になっているのは分かるのだが、やればやるほど相性の悪さを感じている気もする。 
「したい…もっと奏汰さんのこと知りたい」
 しかし光輝はそう言いながらそっと体を寄せてくる。光輝はおそらく自分が無理をしていることに気づいていない。
「………分かったよ…」
 前回のことがあったせいで今日はイケそうにないなあ、とぼんやり思いながら奏汰は返事をした。



 光輝は奏汰に覆い被さるといつものようにたどたどしい手つきで奏汰に触れてきた。
 最初に出会った時以来、奏汰が光輝を抱いたことはなかった。奏汰が『抱いてあげる』と言っても、意固地になって断るからそのうち言うのもやめてしまった。
 しかし光輝は当初から変わらず、ずっと甘やかされたいという目で奏汰を見てきた。今この瞬間もそうだ。

(あーあ。乳首までこんなに勃たせて…触って欲しそう)
 奏汰は懸命に自分の足の間をまさぐっている光輝の充血した乳首に指先でツンと触れた。
「あっ」
 爪弾くように弄ると光輝はすぐに体を震わせた。
「やっ、あっあっ、待って」
 光輝の体に電流のように快感が駆け巡る。最近愛撫らしい愛撫を受けていなかった光輝の体は奏汰からの突然の刺激に戸惑う。
「ふふ、触って欲しい?」
「う……うん……」
 光輝は困ったように頷いた。
「今日は抱いてあげるよ」
 奏汰は光輝を抱きしめるとぐるりと体を回転させる。
「えっ!!いやいいですよ、俺がやります」
 組み敷かれた光輝は慌てて体を起こそうとするが、奏汰は光輝の両手を強い力で押さえつけた。そのまま首筋にキスを落とすと光輝の体は弓なりにしなる。
「あっ」
「どうせ毎回期待して準備しといてくれてんでしょ」
 と言って下着の上から会陰に沿って奥の方まで手を滑らせると、光輝は気持ちよさそうに息を吐いた。
「続きされたい?」
「…され…たい…」
 光輝はもう断る術がなかった。


 光輝の体をほぐしながら、奏汰は
「何かして欲しいことある?」
 と優しく声音で言った。
「奏汰さん…」
「ん?」
「セフレの人が100だとしたら、俺のことはどれくらい好き?」
「はい?」
 予想と違うことを言われて奏汰は素っ頓狂な声をあげる。
「50くらいは好き?」
 光輝は続けて問いかけてきた。
「……どうしてそんなこと聞くの?」
「奏汰さんに好きって言われてみたくて…」
 光輝は恥ずかしそうに視線を逸らした。
 奏汰からは最初に付き合おうとなった時に好きになりかけてるとは言われた。その後もよく可愛いよ、とかは言ってくれる。でも『好きだよ』とちゃんと言われたことがないのを光輝は密かに気にしていた。まだ好きになってもらっていないなら仕方ないけれど、光輝は奏汰から好きだと言われてみたかった。
 好きな人に好きと言われるのはどんなに気持ちが良いのだろう。光輝は未だにその経験がない。
「俺、言ったことなかったっけ…?」
「多分…。俺のことちょっとでも好きになってくれてるなら言って欲しい…」
 光輝は切迫詰まったような声で訴えてきた。懇願していると言ってもいい。
「…………」
 奏汰は少し考える素振りをしたあと光輝の耳元に口を近づけて
「コウくん、す」
 『き』と続けようとした。だが、
「あーーー!!やっぱりいいです!!」
 と光輝が突然叫んで中断してしまった。
「やっぱり、ちゃんと好きになってもらって自然に言ってもらえるまで我慢します」
「…………」
 健気だなあ、と思う。こんなに健気に関係を構築しようとしてくれている。好きになりたい。一番好きになってあげたい。自分のこともまるごと受け入れて欲しい。その思いは確かにある。

 思っているのに最後の壁が崩せない。



「んう、あっ、あ、」
 奏汰が腰を振るたびに光輝は切なげに声をあげた。
「だ、だめすぐイッちゃう」
 光輝と繋がったまま彼の陰茎に触れてやると、そこはあっさりと白濁とした体液を吐き出した。
「あ、やだ、一回止めて…また…イッちゃう…」
「いいじゃん、何回でもイけば」
 愉快そうに囁いて奏汰は腰を光輝にぶつけた。
「んん、ああっ!」
 光輝は奏汰にしがみついて断続的な快感に耐えていた。
「コウくん、後ろの才能あるよね」
 と揶揄うように奏汰が言う。
「はぁっ、あっ、それは…」
 奏汰さんだから、奏汰さんが相手だから気持ちが良い、と言葉にしたいのに息が切れて上手く言えない。
 奏汰は自分の下で幸福そうに喘いでいる光輝をしばしじっと見た。

「コウくんは、根っからのネコちゃんだなあ」

 ぽつりと呟いた奏汰の言葉は何気ないものだったかもしれないが、光輝は一瞬固まる。

(え………)

 それって、俺じゃだめってこと…?と思ったのも束の間、奏汰からもたらされる快感の衝撃に光輝はもう何も考えられなくなってしまった。
 
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