僕らは性欲が一致しない

風崎なをき/次作は四月くらい

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第十三話 1人の夜は*

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※夕視点です

 クリスマスと正月も過ぎ、緩やかに世間は日常に戻ろうとしていた。俺とハルは俺の地元に行ったあと2人で風邪を引いて寝込んだ。寒い中歩き回っていたせいだろう。どっちが高い熱が出るかを競い合っている間にクリスマスが過ぎ、何の準備もしてないまま年が明けてしまい、お互いバイトに勤しんでいたら(正月は時給が上がる)1月の上旬も過ぎようとしていた。

「ただいま」
「おかえりー」
 俺が大学とバイトから帰ってくるとハルはいつも通り何かを作っていた。温かい部屋とおいしい匂いとハルの姿に、ふっと体が脱力する。
「何作ってるの?」
「おでーん。もうほとんどできてるから早く手洗ってきなよ」
「うん」
「あ、夕になんか届いてるよ」
 玄関に小さめに箱が置いてあった。某大手通販サイトの箱だ。
「あっ、ありがと」
 俺は箱を拾い上げるとさっさと階下の自室に戻った。

 パタンとドアを閉めると、はぁーーーっと大きく息を吐く。心臓がドキドキしている。あ、あっぶね。今日届くの忘れてた。中身見られてないよね。通販で日用品を頻繁に買っているので不審がられてはなさそうだったが。念のため品名を見るが何も書かれてなかったのでホッとした。
 そろっと開けて中身を見てみる。中に入っていたのは、いわゆる……アダルトグッズだ。前立腺を開発する器具。多分、男なら深くは知らずとも一度は目にしたことがあるはずだ。男性器を縮小させたようなすごい形をしている。いれる。いれるのか。これを。自分で。俺はリアルにその想像をしてしまい、
「うわーーーーっ!やだやだやだ!!」
 とおもちゃを箱ごと投げ捨てた。なんで!?こんなものが存在してるの!?馬鹿なの!?人間って!!
 元々は医療用の道具らしいけど、ここに存在しているこれは当然、医療用ではない。人間の性へのエネルギーが凄すぎる。

 こわい……。

「夕ーー!もうご飯できちゃうよー」
 上からハルの呼ぶ声がする。
「!!」
 俺は慌てて箱ごと布団の中にそれを隠した。
「今行くー!」


 深夜。俺はハルが寝たのをちゃんと確認するともう一度、例の道具を出した。朝型のハルは寝るのが俺より早い。今日はレポートをやるからと告げて一緒には寝なかった。
 俺がハルを地元に連れて行って以来、ハルはまたよく笑って喋るようになってくれた。ハルに自覚があったかは知らないが、あの時のハルは表情も能面みたいになっていて、笑っていても笑っていないような、何を言ってもボーっとしているような、心ここにあらずという感じで俺は恐怖さえ感じていた。
 ハルがハルじゃなくなっていくようで怖かったし、俺のことをもう好きじゃないのではないかと思うと寂しくて絶望的な気持ちになっていた。
 なんだかんだで結局俺は、ハルが俺を求める姿に愛を感じていたのだと思い知った。
 だから俺はちゃんとハルに告白し直そうと思い地元に連れてったのだ。ハルが何を考えているのか知りたかったし、俺が何を思っているのかきちんと伝えたかった。これで拒否られたり、振られたり何も変わらなかったら、ハルとはもう離れるつもりだった。じゃないとハルが可哀想だと思ったのだ。
 結果、ハルとはもう一度やり直してみようということになり、付き合いたてのような距離感に戻った気がする。今はこっちから求めなくてもハグもキスもしてくるし、時々は一緒に寝ていた。けれどハルはやっぱり怖がってしまい、俺とはもうセックスをしたがらなかった。「勃たなかったら嫌だからしない」と言ってきっぱり断られてしまう。そのうちできそうになったらする、とは言っていたがその日はまだ来ない。
 ハルはそれでも全然良さそうに過ごしていたけど、今度は俺の方が物足りなくなっていた。
 ハルのやりたいという気持ちが俺への最大の愛情表現だとインプットされてしまった俺は、もう一度ハルにしつこいくらい求められたくて仕方がなくなってしまったのだ。昔の俺たちとは性欲が逆転してしまったようだった。もちろん無理矢理迫ったりはしなかったけれど。

 ハルとちゃんと最後までしてみたい。

 ハルのために我慢するとか耐えるとかじゃなくて、単純に俺がハルとセックスしたい。ハルがどんな顔をするのか、どんなふうに悦ぶのか、どんな声を出すのか、どうやって俺の中でイクのか知りたい。そして自分がどんなふうに満たされるのか知りたかった。
 しかし、やはり俺が痛がっていたら結局同じことの繰り返しだ。俺は以前、ハルが誰かと電話した内容をぼんやり覚えていた。「道具」がどうとか。以前の俺ならそこまでする!?で終わらせていたが、今はそこまでしてみるか…と思い至りこっそり色々調べてみたのだ。
 要は後ろで気持ち良くなれば、せめて痛くならなければハルも怖がらないで済むはずだ。安易であるが最適解だろう。というわけで練習しようとバックを開発する器具を今、見つめているわけだが。

 やっぱり自分でいれるの怖すぎる!

 ハルにしてもらおうか?いや今更練習したいなんて言ったってやってくれるだろうか?昔ならともかく今は乗り気でやってくれない気がする。多分そんなことまでしなくていいよ、と止められるだろう。最悪引かれるかもしれない。
 なんにせよ断られたら恥ずかしすぎてしぬ。
 それにハルに手伝わせて運よく開発できたとしてもハルが無反応だったら、それはそれでかなりしにたい。ダメだ。ハルに手伝ってもらうのは絶対になしだ。自分でやるしかない。

 はーー…。とため息をついてとりあえず布団の上にバスタオルを敷いてその上に座る。ローションはハルの部屋にホコリをかぶって棚の奥にいたのを借りた。ずぼらなハルは一本くらい取っても絶対に気づかない。
 器具の挿入部分にローションを塗りたくる。ついでに自分の後ろにも塗る。そのまま少し入り口(というか出口だけど…)をマッサージしてほぐす。
 相変わらずこういう行為は何やってんだろうと我にかえってしまう。いやいやダメだ。ハルとやらしい事をしていると思い込もう。
 体育座りのような体勢になると、少しだけ背中を壁に預けて脚を開く。
「うう…ハル…」
 できるだけハルののほほんとした顔を思い浮かべてリラックスしようと努めた。やはり体内に異物をいれるのはどうしようもなく怖い。好奇心がないわけではないが、痛かったり汚かったりする行為がどうしようもなく苦手なのは変わらない。
「はーーー」
 俺は何度か後ろの穴に器具を当てがったが、どうしても差し込むことができなかった。嫌だけど嫌すぎるけど鏡を見ながらやろう…見えないと不安だ…。俺は姿見を目の前に持ってきて自分の露出している下半身を観察してみる。自分の滑稽な姿にほとほと嫌気がさす。こんなのただの変態だ…。自分の痴態を見て興奮する性癖でもあれば良かったのだが、俺にはない。
 正気になる前に器具をぐっと穴に押し当てる。意外にも自分の意思と反してつぷ、と飲み込まれていく。なんだかそこだけ別の生命体がいるみたいだ。だが、
「い、痛い…」
 初めていれた時は少し痛くて怖くなってすぐにやめてしまった。

 
 それから1ヶ月ほどが経った。1月の半ばからインターンが始まった。疲れてるという理由でほぼ1人で寝ていたので時間と体力があれば例の器具を突っ込んでいた。
 そのおかげでだいぶ慣れた。準備から挿入まで手早くできるようになってしまった。時々我にかえってはシュールな行為にしにたくなったが、だんだんと慣れていくことに謎の達成感も感じていた。
 慣れてしまうとなんだか『そこ』が、元からハルを受け入れるために存在しているような気がしてくる。ハルと繋がるための器官なのだ、と錯覚する。最初は男同士のセックスなんて正気の沙汰じゃないと思っていたのに、自分の気持ちの変化に驚いてしまう。
 慣れてきたなら次は快感を得てみたい。今度は快感の在処を探っていた。コツはあまり動かさない事らしい。なので、俺はいつもアダルト動画をイヤフォンで流しながら布団の中でじっとしていた。ハルに触れられてる事を思い浮かべながら。

 その日も同じようにしていた。アダルト動画の音や声が俺の頭で変換されて俺の感覚にすり変わっていく。妄想の中のハルが俺の体を触り出す。
 はぁ。本当にハルに触られたい。ハルと裸で抱き合いたい。ハルの温かい手に肋骨を撫でられたい。首筋を唇で辿られたい。
 口とか手でしてくれる時はあったけど、そうじゃなくて、最初から最後までゆっくりキスをして触れ合って、お互いに快感を与え合いたい。気持ちよくなりたい。この動画みたいに。今ならできる。今ならできるのに。
「ハル…」
 俺は自分の手をハルの手だと思って体中を撫で回した。心臓が脈打つ。体がポカポカしてくる。ハルに触れられると思うと俺の真ん中は徐々に硬くなっていった。
 このまま抜いてしまおうか、と股間に手を伸ばした時だった。
「…?」
 なんだかお尻の奥からじんわりと変な感覚がする。くすぐったいような鈍い快感のようなものがせり上がってくる気がした。
「なんだ、これ…」
 俺は身を捩った。何かが出そうな感覚に戸惑う。今までに感じたことのないような疼きのようなものを体の奥から感じる。
 もっと、もっとこの先を知りたい。そんな快感の種みたいなものが体の奥底にあって、それをなんとか取り出したくてもどかしい気持ちになった。
「んっ、あぁ、はぁっ」
 やばい。声が出る。そうか。気持ち良いってこれか。快感を辿るようにお尻にきゅっと力をいれるとじわっと得体の知れない気持ち良さが生まれる。体が熱い。汗が吹き出る。血が体中を巡っている。奥から切ないような鈍くて甘い痺れがじわじわと迫ってくる。
 無意識に俺はハルにやられる妄想をしていた。妄想の中のハルが腰を降るたびに俺も腰が動いてしまう。勝手に痙攣するように下半身がびくとびくとヒクつく。
 ハルがいつもするようにシャツの下に手を入れ込んで、乳首を擦ったり弾いたりしてみた。
「ふ、ああっ」
 めちゃくちゃ気持ちがよかった。前はくすぐったいだけで感じたりしなかったのに、今はじんじんする。
 俺は我慢できなくなって自分の性器に触れた。そこは今にもイキそうなほど張り詰めていた。
「あっ、ハル、ハル、ハル、ああ」
 ハルが欲しい。ハルに抱かれたい、犯されたい、愛されたい。体の変化に伴って心まで塗り替えられて行くようだった。ハルに全身を触れられたい。奥まで暴かれたい。
「ハルっう、あぁっ」
 いつの間にか俺の性器は精液を吐き出していてお腹の辺りを汚していた。俺は初めての感覚に呆然としてしまってただ息を整える事しかできなかった。
「はぁっ、はっ、」
「夕!?大丈夫!?どした!」
 突然のガチャっという音で俺は一気に現実に引き戻された。
「!?」
 本物のハルがドアを開けてこっちを見ている。咄嗟のことで動けない。
 ハルの視線が下がる。明らかに俺の下腹部から下を見ていた。
「………」
 精液がかかったままの下腹部と丸出しの下半身と突っ込まれたままの玩具。ハルがドアを開けてから2秒ほどの出来事だったが俺には時が凍りついたように感じた。
「あ!!わあ!!ごめん!!」
 ハルは慌ててドアを閉めた。
「あ、ああああっち行ってーー!!」
 俺はパニックになり思わず身近にあった動画再生中のスマホを投げつけてしまい閉められたドアに当たった。やばい壊れたかも。っていうかハルに当たらなくてよかった。いやそんなことより。

「…………」

 見られた。見られた。見られた。

「見られた」

 しのう。





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