冤罪で堕ちた神子ですが、見張りの騎士に溺愛されました

結衣可

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第8話 ラウルのパーティ

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ある日の午後、村の市場は人々の声でにぎやかだった。
ラウルは初めてセラフィエルを街へ連れて、買い出しに出ていた。
この日の為にラウルはある外套を用意していた。
セラフィエルの容姿が見られ、危険なことに巻き込まれないように認識阻害の魔法が掛けられている外套を魔道具屋に頼んで、作ってもらっていたのだ。
ラウルはフードを外さないようにセラフィエルに伝え、深く被せる。

街を歩いていると、ほとんどの時間を教会で過ごしているセラフィエルは見えるもの全てに興味津々になり、キラキラした目で見ていた。

「ラウル、見て! このパン、ふかふかだよ!」

セラフィエルが両手いっぱいに丸いパンを抱えて笑う。
目をきらきらさせてはしゃぐ姿は、どう見ても16歳の元神子ではなく、ただの無邪気な少年だった。

「そんなに抱えたら落とすぞ」

「だって、みんなに分けたら喜ぶかなって」

無垢な言葉に、ラウルは返す言葉を失う。
胸がじんわりと熱を帯びる。

(はぁ……隠してても……可愛いな)

ラウルは絶対に目を離さないようにしようと誓った。

 ***

夕暮れ時、家に戻った二人は、買ったばかりのパンを並べて夕食の支度を始めた。
セラフィエルは慣れない手つきで野菜を刻む。

「おい、それだと指を切るぞ」

「大丈夫……わわっ」

包丁の刃先が危うく指先をかすめた瞬間、ラウルは思わず後ろから手を掴んだ。

「馬鹿、危ないだろ」

「……ごめんなさい」

しゅんと肩を落とすセラフィエル。
その後ろ姿があまりに小さく見えて、ラウルは思わず頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「いい。少しずつ覚えればいい」

「……うん」

少し照れたように笑うその顔に、ラウルはまた胸を撃ち抜かれる。

(どうしてこんなに……無防備で……)

思わず顔を覆いたくなるほどの衝動が身体を強張らせる。
騎士団で培った冷静さも、信仰の誓いも、この少年の前では無意味だった。

 ***

夜、寝床に入ったセラフィエルは、隣に座るラウルを見上げて、ぽつりと呟いた。

「ラウル様、僕、こうしてラウル様と過ごせるの……夢みたいだなって思うときがあります」

「夢じゃないだろ。現実だ」

「……もしこれが夢だったとしても……目が覚めた時、ラウル様は僕のそばにいますか?」

自分を見上げる青い瞳に、ラウルは言葉を失った。
心臓が痛いほど鳴り、顔に熱が上る。

(……勘弁してくれ……)

唇が震えたが、どうにか答える。

「あぁ……当然だ、ずっとお前のそばにいる」

「よかったです」

そう言ったまま、まだラウルを見上げるセラフィエルに苦笑して、「どうした?」と頭を撫でる。
すると、意を決したように話し出した。

「あの、例えばなんですけど……もし、お仕事で朝早くに出発するとき、出来れば、僕を起こしていただけませんか?」

「夜明けの時もあるぞ?」

「それでも、きちんとお見送りをしたいのです。ダメでしょうか?」

「いや、それは嬉しいが、俺に合わせていたら、疲れるんじゃないか」

「大丈夫です。朝、目が覚めた時、ラウル様がいないと……寂しくて、この間なんて泣いてしまって。子供たちと一緒にいても、上手く笑えなかったことがあって」

「は?」

ラウルは突然の告白に目を見開く。

「だから、一目でも朝貴方に会えたら、大丈夫だと思うんです」

「お前……、はぁ~」

(起きた時、俺がいないから、寂しいって……可愛すぎか)

セラフィエルの可愛さに思わず、ため息をつく。

「ラウル様?」

「わかった。朝早いときは前日に言う。朝も声を掛ける。それでいいか?」

「はい!ありがとうございます」

セラフィエルは安心したように微笑み、ラウルに寄り添った。

「あの、あともう一つ、お願いがあって」

「もう何でも言え」

「今度、ラウル様のパーティーの方にお会いしてみたいです!」

「いや、それは……」

「ダメ……ですか?」

「ダメっていうか……(見せたくねぇ)」

「ラウル様と一緒に働かれている方にご挨拶したいです」

「……」

「それと、……ラウル様の周りに可愛い方とか綺麗な方とかいないか、気になるなぁなんて……」

「うっ!?」

セラフィエルの急な嫉妬発言にラウルの心臓が止まりそうになる。

(そんな可愛いことを言われたら、断れないだろ!)

「あ~も~、わかったよ、今度な!」

「ほんとですか!」

ぱぁっと笑顔になり、ラウルに抱き着いた。
その背中を撫でながら、ラウルは頭を抱える。

(はぁ……マジで見せたくねぇ)

 ***

冒険者ギルドの昼下がり、依頼掲示板の前は今日も騒がしく、常連たちの笑い声が響いていた。
そんな中、ラウルが扉を押し開けて入ってくる。
いつもと違うのは――背後に、小さな気配がついてきていたこと。

「……あ、ラウルだ」

「今日も渋い顔してんな」

仲間たちが軽口を叩こうとした時、ラウルの後ろからひょこっと顔をのぞかせる人物がいた。

淡い金髪。
青い瞳。
小さくて、可愛くて、ふわっとした雰囲気の少年。

セラフィエルだった。

「……あの、こんにちは」

控えめで、少し高めの声に、仲間たちは一瞬で固まる。

「はっ……誰? めちゃくちゃ綺麗な子いる……!??」
「ちょ、ラウル、どういうことだよ!?お前、とうとう天使をつかまえちゃったの!?」
「うわ、可愛すぎるんだが!?!?」

ラウルは顔をしかめて仲間たちを押しやった。

「うるさい。こいつを驚かすな」

セラフィエルはおずおずとラウルの袖を掴み、その後ろに隠れるように立つ。
その仕草に、仲間たちはさらに騒ぎ出した。

「おいラウル、何だ、その可愛い生き物は!?」
「お前……やべぇな……!」

ラウルは耳まで赤くしながら咳払いする。

「……紹介する。この街で世話になっている……セラフィエルだ。俺と……一緒に暮らしてる」

“暮らしてる”のひと言で、仲間たちの目がギラついた。

「え、同棲!?!?」
「はぁぁぁ!?ラウル、お前……!!」
「マジか……ていうか、本当に天使みたいだな」

仲間たちがセラフィエルを見ようと、寄ってきた。

「おい、近づくな!」

その声にセラフィエルはびくっとしたが、ラウルに守られるように背中を支えられ、にこっと微笑む。

「……ごめん、怖がらせたな」

「大丈夫です……ラウル様がいるから」

その言葉に、仲間たちは悶えた。

「くそっ、ラウル、お前こんな可愛い子と住んでるなんて!!」

仲間の一人が急に真面目な顔になり、ラウルに言った。

「ラウル、その子、あまり一人にしない方がいいな」

「あぁ、そうだ。お前が依頼を受けている間、その子はどうしてるんだ?」

「俺がいない間は家か、教会にいる」

「教会って、……あの街はずれのか?」

「そうだ。教会に居住スペースがあって、そこに住んでいる。敷地内から普段出ることはない。昼間は大体教会で子供たちと過ごしているようだ」

「そうか……、この街は治安が悪くないが、ちょっと心配になるな」

セラフィエルはみんなの視線が自分に集中したのがわかり、さっと顔を赤らめる。
ラウルは外套のフードを被せ、セラフィエルの顔を隠した。

「ラウル様?」

「それ、認識阻害の外套か!?」

「あぁ。フードさえ外さなければ、この顔がバレることはない。ただ、教会では……まだ何の対策もないんだ」

「俺が警備に行こうか?」

仲間の中で一番年若い弓使いが提案してきた。
ラウルは難しい顔をして、悩み出す。

「それは……」

「俺は毎回依頼に同行するわけじゃないし、年も近そうじゃない?まぁ、毎日は無理だけど」

「待ってくれ、そんな迷惑はかけられない」

「どうして?普段依頼がないときは暇なんだよね。セラフィエルちゃん、俺が護衛として近くにいても、怖くない?」

「あ、はい。大丈夫です」

にこっとその弓使いが笑う。ついっと顔をセラフィエルに近づけ、自己紹介をした。

「俺、弓使いのユーゴ。年は18。護衛としてどう?」

ラウルは慌てて、セラフィエルを自分に引き寄せる。

「おい、勝手に決めるなって」

「余裕ないな、ラウル。でも、本当に俺は適任だと思うよ。それに……」

ユーゴはラウルを手招きすると、耳打ちした。

「俺、彼氏いるからさ、セラフィエルちゃんに手を出す可能性がないのよ」

ラウルは思わず、ユーゴを見た。

「な、安心だろ?」

「わかった。そしたら、その対価はきちんと支払わせてくれ」

「ということで、改めて、セラフィエルちゃん、よろしくね」

「はい、ユーゴ様、よろしくお願いします」

「ふふ、ユーゴでいいよ」

「ユーゴ、悪いが、一度家に来てくれると助かる」

「わかった。明日は?」

「夕方以降なら」

「了解。セラフィエルちゃん、また明日ね」

「はい、また明日」

「……帰るぞ」

「あ、待って下さい」

セラフィエルは仲間たちの方を向いて、フードを外し、微笑んだ。

「あの、今日は皆さんとお会いできて嬉しかったです。ありがとうございました」

ラウルの仲間たちはその微笑みに釘付けになった。

「あ、おい!フード外すなって。ほら、行くぞ」

セラフィエルにフードを深く被せる。
ラウルはセラフィエルの肩を抱き、ギルドを出ていった。

急ぎ足のラウルに肩を抱かれて、セラフィエルは嬉しそうだった。

「……ラウル様、みんなと仲良くて、楽しそうです」

「別に仲良くねぇ」

「ふふ。ありがとうございます。皆さんに会わせてくれて」

ラウルは顔をそむけたまま、小さく答えた。

「……いつか、お前にも……ちゃんと紹介したいとは思っていたんだ。ただ、……あまりお前が可愛いのを知られたくなかった」

その言葉を聞いた瞬間、セラフィエルの胸はふわりと温かくなった。
セラフィエルはラウルに微笑みかける。

「……ラウル様?」

「なんだ?」

「やっぱりラウル様が一番かっこいいです」

「!?」

ラウルの足がピタッと止まった。

「あの、ラウルさ、うわ!」

セラフィエルを黙ったまま抱き上げると、家に向かって走り出した。

「え?え?ラウル様?」

「口閉じてろ、舌噛むぞ」

セラフィエルは落ちないように、ぎゅっとラウルにしがみ付いた。
家に着き、中に入ると、ラウルはセラフィエルを降ろし、抱き締めたまま、動かなくなった。

「ラウル様?どうしたんですか?」

「いや、……なんでもないんだが。しばらくこうさせてくれ」

「ふふ、嬉しいから、ずっとこうしててもいいです」

ラウルはセラフィエルの細い腰を引き寄せ、額に口づけを落とす。
セラフィエルは機嫌良さそうに、ラウルの胸に身体を預けた。

(はぁ~……結局俺が一番危険なんだよな)
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