鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可

文字の大きさ
1 / 12

第1話 鎖に繋がれた騎士

しおりを挟む
《登場人物》
敵国の皇帝 
  名:オルフェン・ヴァルガディア 
 年齢:37歳 
 立場:帝国の皇帝。若くして父帝を亡くし、
    内乱を鎮めて即位した強き支配者。
 外見:漆黒の髪と鋭い金の瞳。長身で、
    威厳ある雰囲気。戦場に立った経験も
    あるため、筋肉質。
   性格:冷徹で計算高い。感情を表に出さず、
    恐怖と尊敬を同時に集める帝王。 

捕虜の騎士 
  名:エリアス・グランヴェル
   年齢:22歳 
   立場:隣国の王国に仕える若き騎士。
    名門の家に生まれ、幼い頃から
    剣と忠誠を叩き込まれてきた。 
   外見:明るい栗色の髪、灰青色の瞳。
    がっしりした体格だが若さゆえ
    の初々しさも残る。
   性格:誇り高く、まっすぐ。情に厚い。



 戦場に立ちこめる煙と血の匂いは、敗北の現実をいやというほど突きつけていた。
 リュミエール王国の旗は地に落ち、騎士たちの鎧は泥と赤にまみれている。かつて「誇りの騎士団」と謳われた精鋭たちも、帝国ヴァルガディアの圧倒的な軍勢と、皇帝オルフェン自らの魔術の前に屈したのだ。

 空を裂いた黒炎の柱が王国の防衛線を焼き尽くしたとき、戦況は決した。
 人々は震えながら口にする――「魔帝オルフェン」。その異名に偽りはない。

 エリアスは、仲間の亡骸の上に膝をつきながらも、剣を手放さなかった。
 腕は血に濡れ、視界は霞んでいたが、それでも瞳の光だけは消えていない。

「……まだ、俺は……」

 その言葉を言い切る前に、背から無骨な衝撃が走り、地面に押し伏せられる。
 数人の帝国騎士に取り押さえられ、鎖が音を立てて両手にかけられた。

 鉄の枷がはめられた瞬間、ようやくエリアスは敗北を悟った。
 唇は血で切れながらも、嘲笑のように歪められている。

「……何を」

 帝国騎士は侮蔑の眼差しで受け流し、彼を引きずるようにして連行していく。 
 燃え落ちた城壁の残骸と、血に染まった土の匂いを背に、エリアスは鎖に繋がれたまま、荷馬車に突っ込まれる。
 最後まで剣を捨てるつもりはなかったのに、仲間は次々と倒れ、国は力に押し潰された。
 それでも、胸の奥にまだ熱は残っているはずなのに、抗えぬ現実が、誇りを体力を削り取っていく。

 ――心まで屈するつもりはない。
   リュミエールの騎士である限り。

***

 重厚な扉が開かれる。眼前に広がったのは、帝国宮殿の玉座の間。
 黒大理石の床に、赤き絨毯が真っ直ぐ敷かれ、その先に漆黒の皇帝が座していた。

 オルフェン・ヴァルガディア。
 若くして帝位を継ぎ、戦場で無敗を誇る男。帝国を「魔帝国」と呼ばしめた存在。
 漆黒の髪と、獲物を見据える獣のような黄金の瞳。その姿は、威厳というよりも暴威に近い。

 エリアスは引きずられるように進んだ先で、オルフェンを前に膝を折ろうとはしなかった。
 足を蹴りつけられ、地面に押し伏せられながらも、必死に頭を上げる。
 その眼差しだけは真っ直ぐにオルフェンを射抜いていた。

 オルフェンは玉座に腰掛けたまま、無言で彼を見つめていた。
 その視線は冷酷なようで、楽しんでいるようでもあった。
 沈黙ののち、皇帝は低く笑う。

「……地下牢に入れておけ」

 あまりにあっさりとした言葉に、兵士たちがわずかに戸惑う。

「はっ。しかし、――」

「下がれ」

 短く放たれた声は、どんな刃より鋭く、空気を凍らせる。
 オルフェンの金の瞳は、一瞬だけ愉悦に揺らいだ。

 エリアスはその意味を測りかねていた。
 なぜ殺さない?一介の騎士を捕虜にして、どんな価値がある?
 誇りを胸に睨み返しながらも、彼の背筋を冷たい予感が這い登っていく。

 ――この皇帝は、何を考えている?
   そしてなぜ、自分を見て笑ったのか。

 玉座の間を後にしながら、エリアスの心には、戦場では味わわなかった種類の恐怖と苛立ちが残っていた。
 それが後に「執着」と名を変えることなど、まだ知る由もないままに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...