溺愛王子様の３つの恋物語～第2王子編～

プロローグ

《登場人物》

ライナルト・フォン・グランツ
（通称：ライナ） 第2王子
　年齢：19歳 
　役職：現国王の次男。第1王子の補佐。
　外見：淡い金髪に深い蒼の瞳。
　　　　柔和で人懐っこい雰囲気。 
　性格：三兄弟の中で一番王族らしくない。
　　　　自由人で飄々としていて、宮廷の
　　　　堅苦しい場より街を歩くのが好き。 
　特徴：人を惹きつける天性の魅力を持ち、
　　　　自然と場を和ませる。
　　　　内面では孤独や「自分の役割が曖昧」
　　　　なことに悩んでいる。 

カール・ヴァイスベルク 
　年齢：32歳
　役職：宰相
　外見：深いダークブラウンの髪色に
　　　　金茶色の瞳。
　　　　常に冷静で隙のない立ち姿。
　性格：普段は冷静沈着、皮肉も多いが、
　　　　王国の未来を真剣に案じている。
　特徴：王国の切れ者であり、若き頃から政治
　　　　を支えてきた人物。  
　　　　レオナードやクリストフからも絶大な
　　　　信頼を得ている。 
　　　　本人は独身を貫き「仕事一筋」と周囲
　　　　から思われている。


ープロローグー

王国の中枢を支える宰相、カール・ヴァイスベルク。
若くして政務に携わり、その切れ者ぶりで王国を動かしてきた彼が、珍しく自邸へと戻っていた。

数か月ぶりの屋敷。
彼は滞在を楽しむ様子もなく、机に積まれた文書の束を手早くまとめ上げると、そのまま馬車に乗り込み、再び王城を目指した。

窓の外に広がるのは、黄昏に包まれた城下町。
近道しようと裏道を通れば、石畳の路地は赤銅色の影を落とし、商人が早々と店を畳み、酔客が千鳥足で往来を横切っている。
どこか荒んだ気配も漂い、華やかな宮廷とは正反対の世界だ。

そんな中、ふと彼の視線が止まった。
人波の向こう、かすかな灯火に浮かぶ横顔――

（……殿下？）

その青年は粗末な外套を纏い、フードを深く被っていた。
だが月光を受けたように淡く輝く金髪と、整った輪郭。
見間違えるはずがない。王家の血を引く第二王子、ライナルト・フォン・グランツ。

「……何をしている」
思わず低く呟いた。

ここは治安の悪い下町の一角。盗賊まがいの者やならず者がうろつき、貴族は足を踏み入れることさえしない。
その真ん中に、王族が一人で紛れ込んでいるなど、正気の沙汰ではなかった。

カールは一瞬逡巡し、すぐに判断を下す。
「……あの青年を尾行しろ」

傍らに控えていた部下が頷き、闇へと紛れていく。

＊＊＊

一方その頃。

ライナは露店の灯りの下で、老人と親しげに言葉を交わしていた。
フードに隠された顔から覗く蒼の瞳は、柔らかでありながら、どこか真剣な光を帯びている。

「最近、この辺りはどう？　衛兵があまり来ていないと聞いたけど」

「……ああ、確かにな。夜は特に物騒でな。若いの、あんた気をつけな」
老人が皺深い顔でため息をつく。

ライナは小さく頷き、懐から銀貨を取り出して手渡した。
「ありがとう。……少しずつだけど、きっと改善していくよ」

その言葉は気まぐれではなく、確かな責任感に裏打ちされていた。
彼は人混みに紛れ、路地へと軽やかに消えていく。

（兄上に報告して、何かしら策を取ってもらう必要がありそうだ……）

彼の背は、自由気ままで人懐っこい第二王子の姿でありながら――
同時に「自分の立場を模索する若者」の影も帯びていた。

その一部始終を、遠くから静かに見つめる宰相の配下がいた。

＊＊＊

こうして、奔放と噂される第二王子と、冷徹と評される宰相との物語が、静かに動き始めた――。