プロジェクト・ニッケルクロム ―銀色の方舟―

どえろん

文字の大きさ
22 / 30
第5章:亀裂

5-4:結果とプロセス

しおりを挟む
 5人がシミュレーターから降り立つと、ドーム内は奇妙な沈黙に包まれていた。
 橘涼介が、壁に寄りかかったまま、初めて興味深そうな目で彼らを見ていた。他のクルーたちも、あの空中分解寸前だったチームが、なぜミッションをクリアできたのか理解できず、戸惑いの表情を浮かべている。

 三笠博士が、ゆっくりと彼らの前に歩み出た。その手には、先ほどと同じタブレットが握られている。
 彼は、タブレットのログデータと、5人の顔を交互に見比べた後、静かに口を開いた。

「……結果は、成功だ。見事なドッキングだったと言える」
 その言葉に、大山の肩から、わずかに力が抜けた。

「だが」
 三笠は、しかし、すぐに言葉を継いだ。
「そのプロセスは、午前中と何ら変わらん。災害レベルの大失敗だ」
 その一言が、かすかな安堵の空気を再び凍りつかせた。

「独裁、反抗、傍観。君たちの役割は、午前中と本質的には何も変わっていない。ただ、偶然にも、そのバラバラなベクトルが、ほんの一瞬だけ同じ方向を向いただけに過ぎん。……それは、連携とは言わん。ただの、幸運だ」
 三笠の言葉は、彼らの不格好な勝利に隠された、本質的な問題を容赦なく抉り出した。

「そして……」
 三笠は、初めて、高森大地の目をまっすぐに見た。
「高森大地。君は、自分の無力さに気づいたようだな」
「……はい」
 大地は、か細い声で答えるしかなかった。

「君には、健吾のような統率力も、しずくのような分析力も、結実のような技術力もない。空っぽだ。その自覚は、正しい」
 あまりにも直接的な、残酷な評価。大地の膝が、笑いそうになる。

「だが」
 三笠の瞳が、ガラスレンズの奥で、鋭く光った。
「君は、今日、たった一つだけ、他の誰にもできない仕事をした。……バラバラに錆びついて、固着しかけていた歯車と歯車の間に、自らの身を投じて、無理やり潤滑油の役割を果たした。その結果、歯車はほんの少しだけ、回った」

 潤滑油。その言葉が、大地の頭の中で反響した。
 三笠博士は、格納庫で、確かにそう言っていた。

「それは、君にしかできない役割かもしれん。……だが、覚えておきたまえ。潤滑油は、歯車が回るたびにすり減り、いずれは燃え尽きる消耗品だということを。他人の感情の間に身を投じ続けることが、どれほど過酷なことか。……君に、その覚悟があるかね?」

 それは、問いかけの形をした、警告だった。
 大地は、何も答えられなかった。覚悟なんて、あるはずもなかった。

「評価は、変わらん。チーム・アルファの減点は、10のままだ。成功は、当然の結果。失敗にのみ、罰が与えられる」

 三笠は、冷徹にそう言い放つと、全員に向き直った。
「本日の訓練は、これにて終了だ。各自、自室に戻って今日の失敗をよく反芻するように。……解散」

 その言葉を最後に、三笠は背を向けて去っていった。
 他のクルーたちも、それぞれに何かを考え込むように、あるいはチーム・アルファを憐れむように、静かにドームを後にしていく。

 後に残されたのは、やはりチーム・アルファの5人だけだった。
 成功したはずなのに、その心は、午前中の敗北よりもさらに重く、冷たく沈んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...