プロジェクト・ニッケルクロム ―銀色の方舟―

どえろん

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第5章:亀裂

5-5:ほんの少しの変化

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 自室へと戻る、長い廊下。
 5人は、やはり無言で歩いていた。だが、その距離感は、朝とはほんの少しだけ、違っていた。
 敵意は、まだある。不信も、消えていない。
 だが、そこには、あのどうしようもない20分間を共に乗り越えたという、奇妙な、そしてかすかな共感が、まるで目に見えない薄い膜のように、彼らの間に存在していた。

 大地の数歩前を歩いていた佐藤結実が、ふと足を止めた。
 大地が驚いて立ち止まると、彼女は、決して振り返ろうとはせずに、背中を向けたまま、ぼそりと言った。

「……別に。あんたに、礼を言うつもりは、ねえからな」

 それは、感謝の言葉ではなかった。
 だが、そのぶっきらぼうな否定の言葉の中に、大地は、確かにそれ以外の何かを感じ取っていた。

 結実は、それだけ言うと、すぐに自分の部屋へと姿を消した。
 雨宮健吾は、一度だけ、悔しそうに大地のことを睨みつけたが、何も言わずに自分の部屋のドアを閉ざした。
 星乃しずくは、いつの間にか、音もなく姿を消していた。

 大地は、自分の部屋の前に立ち尽くした。
 B-07。橘涼介と、工藤蓮が待つ、あの息の詰まる部屋。

(潤滑油……)

 三笠の言葉が、頭から離れない。
 自分は、すり減っていく消耗品。
 だが、それでも。
 今日、ほんの少しだけ、何かが変わった。
 自分がいたことで、何かが動いた。
 その事実は、空っぽだった大地の中に、米粒ほどの、本当に小さな、しかし確かな「存在意義」の欠片を、そっと残していった。

 それは、希望と呼ぶにはあまりにも小さく、そして、これから背負うであろう重圧を思えば、むしろ絶望に近いものだったかもしれない。
 だが、それでも、それは確かに、高森大地という人間が、このプロジェクトで初めて手に入れた、自分だけの「役割」だった。
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